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〈シンポジウム登壇者インタビュー〉
株式会社生出(おいづる) 代表取締役社長 生出 治 氏
包装資材の製造を手掛ける生出は、災害時にも顧客への納品を止めないことを使命ととらえ、
2010年からBCPに取り組んでいる。当初、社員たちは活動に消極的で、生出治社長は社員たちの意識を変えることに
苦労したというが、取り組みの目的を明確にし、社長の本気を見せることで徐々に自主的に動くようになった。
今ではBCPは全社一体の取り組みとなっている。
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東京都瑞穂町の生出は、1958年に生出治社長の父が創業した。60年以上にわたり、通信機器などの精密機器、医療用品などを運搬する際に振動や衝撃から製品を守る包装緩衝材の設計と加工・販売を担ってきた。現在は環境問題にも対応するため、植物由来の原料を使用した製品の開発にも力を入れている。
生出社長が最初にBCPを意識したのは、2009年に新型インフルエンザが流行した時だった。しかしその時は短期間で収束したため、具体的に取り組むまでには至らなかったという。
翌10年、得意先である大手製薬会社から「非常時にも継続して製品を納入することは可能なのか」と問われたことがきっかけとなった。その製薬会社は人工透析液を製造しており、災害時であっても欠品は許されない。「薬を必要とする患者様のためにも、顧客との取引を継続させるためにも、BCPに取り組む必要性を強く感じた」と生出社長は振り返る。
BCPについて調べていく中で、生出社長は東京都のBCP策定支援事業の存在を知り、応募した。支援事業の内容は、1回3時間程度のセミナーが計5回だったが、「ただ講義を聞くだけではなく演習も含まれており、実践的なBCPの作り方を指導していただけた」(生出社長)という。
この支援事業では、東京都の首都直下型地震を想定し、BCPのシナリオを策定した。作ったシナリオは社員たちにも共有したが、はじめは社員たちの反応は薄かったという。
リスクマネジメントの重要性が社員たちになかなか伝わらず、当初、BCPの取り組みに積極的に参加する人はほとんどいなかった。どうすれば社員たちが危機感を持ち、自分のこととしてBCPに取り組んでくれるだろうと生出社長は頭を悩ませた。
そこで、社員たちと一緒に取り組み始めたのが、社内の危険な場所の特定とその対策だ。工場マップを作り、それぞれの部署に危険だと思われる場所をリストアップしてもらい、マップに書き入れていった。そうすると、「工場の窓ガラスが危険」「機械の部品が老朽化している」など、多くの指摘が集まった。窓ガラスには割れないようにフィルムを貼る、倒れそうな機械には、アンカーボルドを打ち込んで固定するなど、順番に対策を打ち、終わったらマーカーでマップに印をつけた。
「時間はかかったが、続けていくことで少しずつ会社が本気で取り組んでいることが伝わった」と生出社長は話す。
同時に、社員たちに納得してもらうためには、何のためにBCPに取り組むか、目的を明確にすることが必要だと生出社長は考えた。
災害時のリスクマネジメントが必要なのは、誰もが頭では分かっている。しかし、日々の業務に追われる社員たちにとって、「危険だから対策しよう」と危機感をあおりながら動機づけをすることには違和感があった。
目的を再考し、生出氏社長はBCPの目的を企業の理念やビジョンを実現するための戦略であると位置づけた。
「BCPは、社員の働きがいを醸成し、働きやすい職場づくりのために取り組むもの。それが会社の成長につながる」と社員に伝えた。
現在、同社のBCPの体制は、対策事務局のほか、それぞれが自分の仕事に直結するチームに所属している。例えば製造現場の社員は生産対策班で、システムの部署の社員は情報システム班に所属する。
期初には班ごとに自分たちの領域のリスクを抽出し、今期取り組むべき重点施策を決定する。また、定期的にディスカッションをする機会を設けている。他の対策班の発言に触発されたり、新しい気づきが生まれたりする成果があり、生出社長はコミュニケーションの時間の大切さを実感している。「コミュニケーションの場を設定してはじめて出てくる現場のリスクも多い」という。
BCPというと災害時のためというイメージが強いが、「日常業務のカイゼンが災害時のダメージを減らすことにつながる。日常業務さえ円滑に進んでいない組織は、緊急事態に対応できるわけがない」と話す生出社長。
「取り組みの意義が浸透してからは、社員たちは災害時を意識して日常業務にあたるようになった。それが業務の効率化につながり、企業体質が強化されているのを実感している。非常時の備えを目的にするよりも、日常業務に組み込むほうが社員たちにとって身近なものとなり、納得感も高くなる」(生出社長)
新型コロナウイルスの対応も、初期のタイミングでBCP対策事務局がガイドラインを作成した。「社内に陽性者が出たときにどう対応すればいいのか、きちんと保健所に問い合わせて、検温や飛沫の飛散防止対策など実践的な仕組みができた。このときの社員の自主性の高さには驚かされた」と生出社長は話す。
社内だけでなく、社外との連携も重要だ。もし取引先から材料の納品が滞れば、お客様に製品を納品することはできない。そこで、生出社長は取引先にも協力をあおいだ。
「最初は抵抗が強い会社もあったが、時間をかけて説明するなかで少しずつ理解していただき、今は直接の取引先が被災した場合に、その下請け業者などが対応できるような仕組みを構築できている。
大手企業であれば、リスクヘッジのために発注先を増やせばいい。しかし、我々のような中小企業は、いま取引のある協力会社さんと信頼関係をしっかり構築することが大事。この会社と一緒に仕事をするとメリットがあると思ってもらえるように、大事なサプライヤーさんと接している」(生出社長)
これまでの取り組みには一定の成果を感じているものの、「まだカンペキとはいえないので、もっと取り組みのレベルを上げていきたい。最終的には会社の体質、組織文化、風土が変わるところまでを目指し、本物の取り組みにしたい」と生出社長はさらなる意欲を燃やしている。
「BCPがうまくいくためには、社長のリーダーシップと社員たちの自主的な取り組みの両方が必要。社長が本気にならなければ、社員も本気にならない。取り組みが浸透しない会社は、経営者が優先度を低く見積もっている場合が多い。社長のリーダーシップが成功の可否を決める。そのためにも、BCPに取り組む意義を社長自身がしっかり認識し、社員たちに目的や方向性をしっかり示すことが重要。
一方で、実際の活動はボトムアップで社員の自主性を尊重したほうが実践的かつ具体的な活動が期待できる。コミュニケーションを欠かさず、社員一体の活動にしていくことが大事」と生出社長はアドバイスを送る。
生出 治(おいづる おさむ)
株式会社生出(おいづる) 代表取締役社長
1958年の創業以来、高度かつ高品質の緩衝包装設計技術を提供。情報通信機器、測定機器、分析器など日本を代表するハイテク精密製品の緩衝包装を手がける。BCPのきっかけは得意先から「緊急時も供給は止められない」と策定の要請を受けたこと。東京都の中小企業BCP策定支援事業最優秀賞に選ばれた。
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