白出氏がまず取り組んだのが、ISO22301の認証取得でした。
「防災、事業継続のマニュアルの策定と見直しには、ISO22301が最適であろうと考えました。そこでリスクファイナンスでお世話になっていた損保会社にコンサルの推薦をお願いしたところ、ISO22301認証をサポートする関連会社をご紹介いただきました。2013年6月に契約、翌年2月に認証を受けるまで、密度濃く必要な整備を続けました」(白出氏)
その後、同社は2016年にレジリエンス認証も取得。さらに白出氏は、2019年に事業継続力強化計画を知ることになります。
「ISO22301認証は事前の目論見どおり、マニュアル作りとその更新には十分に効果的だとわかりました。しかしその一方で、内容を現場に浸透させるには難しすぎる難点がありました。それに対し事業継続力強化計画は『何に対して、どう行動する』という形で整理されているため、現場への理解が容易だと考えたのです」(白出氏)
株式会社白謙蒲鉾店の単独型事業計画
一部抜粋
自然災害等が発生した場合における対応手順 |
発災直後 |
人命の安全確保 |
従業員の避難 |
- 自社拠点内の安全エリアの設定
- 社内の避難経路の周知・確認
- 避難場所まで訓練時に確認
- 初動対応のため、ヘルメット、 救助用ボート、拡声器、担架、 懐中電灯、長期保存食品等を 備蓄
|
従業員の安否確認 |
- 安否確認システムの導入
- 従業員の緊急連絡網の整備(携帯電話番号、メールアドレス、SNS等)
|
生産設備のシャットダウン方法 |
- 緊急時の機械停止手順及び避難までのシャットダウンの周知・ 確認
|
顧客への対応方法 |
|
発災後1時間以内 |
非常時の緊急時体制の構築 |
代表取締役会長・代表取締役社長を本部長とした危機対策本部の立ち上げ |
|
発災後12時間以内 |
被害状況の把握 被害情報の共有 |
被災状況、生産・出荷活動への影響の有無を確認し当該情報の第一報を顧客及び取引先ならびに自治体・地域住民、マスコミ、 関係官庁に報告 |
- 被害情報の確認手順の確認
- 被害情報および復旧の見通しに関する関係者への報告方法、対外的な情報発信方法の策定等
|
事業継続力強化に資する対策及び取組 |
自然災害等が発生した場合における人員体制の整備 |
く現在の取組>
- 正社員以上は危機対策本部員として任命し緊急参集要員に任命。参集できない場合の例もリスト化し、通勤距離が概ね20km以上の場合や年齢や持病も考慮したものとしている。
- 自然災害時を想定して、社員の多能工を進めている。
- 複数の派遣会社と繁忙期を中心に平時から取引しており有事の際の参集要員としても機能。
- 水産練り製品製造技能士の育成を継続的に行い、手作りでの生産が可能。
く今後の取組>
- 対策本部の各班に割り振られた役職員が、自らの役割や行動を理解し、実践を助けるための「災害対策本部連営キット」の作成をする。
- 当該キットを用いた初動対応訓練を実施する。
|
事業継続力強化に資する設備、機器及び装置の導入 |
く現在の取組>
- 重要設備や機器・備品等に関して壁面や床面等に直接アンカーボルトや金具により固定。
- 門脇工場に関しては天井の落下防止改修工事を実施。
く今後の取組>
- 現在の取組を継続し、併せて停電時においても重要業務の運営に支障が発生させないため に弊社門脇工場内の原材料や製品の保管庫と対策本部が設置される管理棟に必要な電源を確保できるよう自家発電設備の導入を検討する。
|
事業活動を継続するための資金の調達手段の確保 |
く現在の取組>
- 現在、火災保険に加入。火災保険の対象範囲は建物、生産設備、在庫までの契約であり、水災補償特約や地震保険も契約。
- 地震による被災発生の際、必要とする場合は緊急融資が受けられるよう、地元金融機関や都銀、政府系金融機関まで平時からコミュニケーションを大切にしている。なお、日本政策投資銀行とは、BCM格付融資も実行していただいている。
く今後の取組>
- 現在の取組を継続し、収益に見合うリスクファイナンスの充実を図る。
- 平時から災害時の初動対応に必要とする現預金を保持するため、必要に応じ金融機関と折衝し、運転資金を確保する。
|
事業活動を継続するための重要情報の保護 |
く現在の取組>
- 津波による浸水に備え、 サーバーや重要情報を2階以上に設置。
- 停電に備え紙媒体でのデータ保管も実施。
- ファイルサーバーのメディアバックアップを毎日実施。
- 顧客情報を保管するクラスター型サーバーに関してもデータのバックアップを毎日実施。
- 24時間365日対応の保守契約を行い、 UPSも設備している。
く今後の取組>
- 現在の取組を継続し、併せて顧客情報を保管するクラスタ ー型サーバー と通販システムに関してクラウド環境を利用することで通常時とは異なる拠点からのシステム利用が可能となるようにリモート業務環境の整備を検討する。
|
事業継続力強化計画策定により、より現場にもわかりやすい有事対応の体制を整えた同社は、定期的な防災訓練を通じ、従業員への「自分の頭で考え、行動すること」の浸透を図っていきます。
「年2回行う防災訓練では、午前の早い時間帯に、勤務の明けた深夜勤務の従業員の訓練を、お昼に日勤の従業員の訓練を行います。ここでとくに留意しているのが、同じパターンの繰り返し、つまり『訓練のための訓練』にならないようにするための、毎年のシチュエーションの見直しです。たとえば『大津波警報が発令された』という状況では、『建物の上階に垂直避難する』という行動が、まずは最適解となります。しかしこの設定でそのままに訓練を続けると、『津波→上階に避難』という図式が、その他の状況にかかわらず固定化されてしまいます。そこで『建物には火災が発生し、上階への避難ができない』という要素を加えるなどして、『状況に合わせどう行動するのが最適解か』を考えてもらうことにしているのです。ほか近年では『工場の屋上のソーラー発電装置が被害を受け発火した』というシチュエーションで、設備等の機器に応じた消火方法を学ぶなど、実践的な内容も採り入れています」(白出氏)
また想定する事象は自然災害に限定せず、事業継続にかかわる可能性のあるものをすべて対象にしているということです。
「感染症発生や、情報漏洩なども、訓練のテーマです。ただそうした事象の場合、製造現場と経営層では内容に違いを持たせてます。生産現場では『感染症を発生させないため』『情報漏洩を起こさないため』に、どうすべきかをメインに。経営層についてはそれに加え『発生してしまったらどう対応するか』も、訓練の内容となります」(白出氏)
こうした訓練には、実際に身体を動かし、学習する内容も含まれているとのことです。
「門脇工場は住宅の建設が認められていない工業専用地域のため、大がかりな訓練が可能です。そこで消防署や警備会社の協力のもと、実際に火を起こして消火器で消す訓練や、擬似的な火災現場で“煙に包まれた状態”を再現する『煙体験訓練』も行います。避難訓練では、工場の裏手にある防災道路『高盛土道路』への避難や、そこを経由しての避難場所への移動も体験しています。これらの訓練には、本社工場勤務の従業員も参加します」(白出氏)