タピック沖縄株式会社
- 所在地:沖縄県南城市佐敷字新里1688
- 業種:宿泊業
- 組合員数:250名
- 理事長:宮里 好一
医療と福祉を中心に、スポーツ施設、観光業、鉱業など多彩な事業を展開する「タピックグループ」の中核企業。沖縄本島南部、南城市の高台に位置する大型ホテル「ウェルネスリゾート沖縄休暇センター ユインチホテル南城」は、天然温泉や体育館、プールなどを併設、修学旅行の宿泊先として全国各地の学校から人気を集めている。
医療と健康作り、観光が融合したビジネスを展開
沖縄県南部、太平洋を望む南城市を拠点に事業を行うタピックグループは、2008年に創業。グループの事業分野を「ウェルネス産業」に定め、リハビリテーションを担う病院などを運営していました。ユインチホテル南城総支配人の白附潤一郎氏は、ホテルの歩みを以下のように語ります。
「ホテル業への本格進出は、2009年に現在のユインチホテル南城となる施設を国から承継し、取得したことにはじまります。こちらは1991年に『沖縄厚生年金休暇センター』として建てられたものですが、国の方針で売却が決まっていました。おだやかな気候のもと、『ウェルネスな観光まちづくり』を目指す南城市の構想と、私たちが将来的に描いていた『医療と観光を結びつけるウェルネスリゾート』という構想が一致し、代表の宮里好一が決断しました。その後、2017年、同じ敷地内に『アネックス・ビル』を新築、現在は147室をご用意しています。またホテル敷地内には体育館、屋内外のプール、トレーニングルームなどを備えた『スポーツカルチャーセンターペアーレ』を併設、お客さまの健康づくりにお役立ていただいています」(白附氏)

タピック沖縄株式会社 取締役 ユインチホテル南城 総支配人 白附 潤一郎 氏
BCPをはじめて耳にした、施設見学者の問いかけ
その同社が「BCP」という言葉にはじめて出会ったのは、いまから6年ほど前のことでした。施設課次長の宮里健二氏は、当時のことを以下のように振り返ります。
「当社はホテルの敷地内に天然温泉と天然ガスの鉱山を持っていて、その温泉との熱交換で施設へ給湯、また鉱山のガスを使った発電で電力の一部をまかなっています。こうしたガスコージェネレーションシステムは日本でも珍しいとのことで、多くの方々が視察にお見えになります。その際、質疑応答も行われるのですが、あるお客さまから『BCPについて、取り組まれていますか?』と問いかけられたのです。じつはそのときには、BCPについてまったく知識がなく、回答できませんでした」(宮里氏)
宮里氏はその後、BCPについて独自に調べましたが、その中身の掘り下げや把握には至りませんでした。しかし3年ほど前に沖縄県のオンライン講座に参加したことで、状況は大きく動くことになります。
「その講座で講師の方に『BCPについて教えていただけますか?』と聞いてみたんです。すると『中小機構に相談すれば、詳しいことを教えてもらえますよ』とアドバイスをいただきました。今回のジギョケイに向けての取り組みは、そこがスタートとなりました」(宮里氏)

タピック沖縄株式会社 ユインチホテル南城 施設課 次長 宮里 健二 氏
アドバイザーがヒアリング、「連携型」を提案
その相談を受けたのが、中小企業アドバイザーの銘苅幸多氏です。
「まず事業概要や周辺環境などをヒアリングしました。話を進めていくなかで、防災に対しての意識が非常に高いと感じる一方で、事業継続についてはまだそれほどではないという印象を持ちました。そこで経営幹部を含めたキーパーソンを集めてもらい、ジギョケイとは何か、なぜ重要かといった話をさせていただきました」(銘苅氏)

中手機構 沖縄事務所 中小企業アドバイザイー 銘苅 幸多 氏
そしてヒアリングにもとづき銘苅氏が提案したのが、ホテル宿泊客のマリンレジャーの受け入れ先として関係の深い、合資会社知念海洋レジャーセンターを連携先としてジギョケイに組み入れることでした。
「知念海洋レジャーセンターは、ホテルからクルマで15分ほどの海沿いにあり、南城市から『あざまサンサンビーチ』の指定管理を受託しています。また沖合の無人島『コマカ島』までの送迎や、体験ダイビング、ファンダイビングなど、現地でのアクティビティを提供しています」(白附氏)
「ホテルのマリン事業部のメンバーは、これまでも知念海洋レジャーセンターと連携し、たとえば震度6の地震発生を想定し、知念海洋レジャーセンターのスタッフやお客さまを高台のホテルに誘導するといった防災訓練を行っているということでした。そうした実績も考慮し、補完関係をつくれば、ジギョケイがいっそう有効なものになると考えたのです」(銘苅氏)

「従業員の家族」をも含めたジギョケイを独自に立案
銘苅氏がこうして筋道を付けたあと、ジギョケイの内容の具体化はタピック沖縄、知念海洋レジャーセンターの両社でまとめ上げていくことになりました。そしてその草案をメールで受け取った銘苅氏は、驚きを感じたと言います。
「日頃から防災に対して強い意識を持っているためでしょう、その中身はシンプルながらも必要なことがきちんと網羅されていました。とくに興味深いと思ったのが、天災などに見舞われたとき、宿泊客、従業員だけでなく、従業員の家族もホテルで引き受けるという内容でした。たしかに従業員が安心して働き、事業を継続するためには、その家族の安全も必要不可欠です。ただこうした考え方に立脚したジギョケイのプランは、私としてもはじめての経験でした」(銘苅氏)
「防災に関しては、2017年に南城市の観光商工課とともに『観光危機マニュアル』を策定しました。そのなかで、万一の際に備えた食料や水の備蓄に協力すること、さらにホテルそのものも、2000台の駐車場も含め、市の緊急避難場所に指定されています。じつは当ホテルには、客室だけでなく、体育館や宴会場など、一定の期間、避難所として使える設備を持ち、また温泉でお風呂の利用も可能です。実際にどのような基準で受け入れるか、南城市とこれから協議しなくてはならない部分もありますが、従業員の家族も引き受けることは当然の流れだと考えています」(白附氏)
想定される リスク |
リスク発生による影響 | 対応策と効果 |
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土砂災害 地震 津波 |
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アドバイザーも驚いた、高い防災意識と即応力
そしてこのジギョケイをまとめていく段階で、銘苅氏はホテルのスタッフの即応力を実感することになります。
「打ち合わせでうかがっていたとき、たまたまですが地震があったんです。すると誰が号令をかけることもなく、ホテルのスタッフがキビキビと動いて、施設の安全確認、必要な電話連絡などをこなしていました」(銘苅氏)
「ホテルは24時間お客さまを受け入れている一方、スタッフは交代制で、そうした天災のときにいつも同じスタッフが顔を揃えているわけではありません。そのため防災訓練においても『そのときにいるメンバーで初動対応がとれること』を目指しています。そのためには、半年に一度の訓練でも、スタートまで『何が起きたか』というシナリオを伝えずに行っています。もちろん毎回パニックにはなりますが、そのなかでスタッフ個人個人に『何をすべきか、自分の頭で考える』という意識が醸成されていると考えています」(白附氏)
過去の訓練では、震度6の地震が起きた想定で、施設内のいくつかの箇所でガラスにヒビが入るところからスタート、次にホテル施設内のいくつかの場所で火災が発生といったシナリオを用意し、よりリアルに行うために、消防署や防災事業者さんにも協力いただき、火災が発生した時の煙を実際に発生させ、視界が悪い中での避難誘導などを訓練されています。実際、参加したスタッフで泣いているスタッフもいらっしゃったほどとの事。
「宿泊されているお客様にも事前にお伝えし、そういう姿を見て頂くということが私はお客様にとってもいいことかなと思っております。それだけ真剣に安心安全を担保するということが伝わることは逆にいいことかな、というふうに思います」(白附氏)

そして最終的に策定したジギョケイは、有事の際、両事業者が互いに補完しあう内容となりました。
「これまでに想定していた有事の際のスタッフや顧客の受け入れに加え、情報の共有、被災していない事業者が被災した事業者に人員を派遣し復旧に協力するといった内容が明文化されました。さらに事業継続に備え、クラウド型の情報管理サーバーの導入、重要情報のバックアップ方法とノウハウの共有なども定めています」(白附氏)
「南城市の防災協定の中では、ホテルの屋外プールには豊富に水があり、大規模災害に生活用水としての利用が見込める事なども話をしています。また、敷地内に広いグラウンドでがあり、こちらも避難場所として考えていまして、防災訓練の時に、職員がバギーに乗ってキャンプ泊されているお客様のテントの方にお声がけしていくという実演をしたのですが、一緒に防災訓練をしていた消防署職員から、こういった対応にかなりいい評価をいただきました」(宮里氏)

ジギョケイで「地域貢献と地域振興」を確かなものに
こうしてジギョケイの策定、申請を終えたタピック沖縄は、このジギョケイを単にBCPとしてだけではなく、ホテル経営の有効な手段そして将来に続く地域貢献の一環と考えています。
「私たち宿泊施設は観光業ですが、まさに今宿泊施設にはお客様の安心安全の担保としてどれだけ備えているか、有事の時に対応できるかということが求められています。実際に修学旅行の受け入れなどもやっていますが、受け入れるにあたってのそういった情報をしっかり求められる機会が増えてきており、ジギョケイの策定や計画の後、実際に初動がどこまでとれるかという事が本当に大切な経営の一部になってきています。また、当社は創業より『ウェルネスで社会課題を解決、健康と生きがいのある元気なまちづくり』をコンセプトとしています。そして現在も、そのコンセプトに沿ってSDGsの取り組みを続け、医療相談のできるリゾート、アニマルセラピー、子ども向けの職業体験学習、バリアフリーのユニバーサルビーチなどの取り組みを続けています。また今後は医療とより深くタッグを組んで、リハビリテーションツーリズムをさらに拡大していく予定です。そうしたコンセプトを通じた地域貢献、地域振興には、やはりしっかりとした事業継続が不可欠です。今後も、策定したジギョケイをさらに実効性のあるものにしていく努力を続けていきたいと思います」(白附氏)
