滋賀県東北部、琵琶湖に面した長浜市は、東の伊吹山系から流れる姉川や、北の福井県境の山々に源を持つ余呉川、高時川が作り出した平野を中心に、11万3000人が暮らす都市圏が形成されています。
ハートコンピューターは、この地で生まれ育った平井正公代表が創業したソフトウェアメーカーで、酒造メーカー向け製造管理、販売管理ソフトウェアで国内トップのシェアを持っています。
「30才のころ、電気店を営む実家で、当時黎明期だったPCを売るためにソフトウェアの勉強をはじめました。地域のお客さまの依頼を受け小さなアプリケーションソフトを作っていましたが、売り上げの見込める規模のものはすでにシステム開発会社ががっちりと食い込んでいて、新たなお取り引きが難しい状態でした。また依頼を受けてさまざまなソフトウェア開発する仕事そのものに面白さを感じていましたが、分野が絞れないため、知見も深くはならない状態でした」(平井氏)
そこで平井氏は、まだシステム開発会社が入り込んでいない業種にターゲットを絞り、事業の拡大を目指すことを考えました。
「長浜市がそうであるように、日本のどこに行っても地域に根ざしたシステム開発会社があるだろうと。であれば、そうした“地理的なローカル”ではなく、まだアナログでの仕事が続いている“業種的なローカル”に商機があるのではないかと思ったのです」(平井氏)
そして平井氏が最終的に選択したのが「酒造り」の業界でした。
「日本酒の酒造りにおける酒税の計算方式がいい意味で複雑で、非常によくできていることを知りました。計算式そのものは明治時代の大蔵官僚が作ったものですが、製造工程から製品になるまで、きちんと数学的に計算できるものになっている。ここをシステム化すれば、大幅な省力化につながり、日本酒メーカーからは歓迎されるだろうと。そして日本酒メーカーは全国津々浦々にあり、文化の一部となっています。取引先に事欠かないだけでなく、その地域の文化を側面から支えるという、社会貢献的な意味もあると考えました」(平井氏)
この平井氏の判断は的確で、昭和61年に地元の酒造協業組合から製造および販売管理システムの開発を受託。法人化後の平成元年には、アプリケーションパッケージの販売を開始します。創業から36年経った現在、同社は日本酒メーカーだけでなく、ビールや焼酎、ワインなど、国内の酒造メーカーのほぼ半分を得意先とするシステム開発会社へと成長しました。