西川氏は、こうしたスピーディな連携が成立した背景には、各県の組合の理事長の高い防災意識があったと考えています。
「もしそれぞれの県が『組合員の意見を集約してから話を進めましょう』という流れになっていたら、もう少し時間がかかっていたのではないでしょうか。というのも、同じ工業組合に属してはいても、組合員は家族数人でやっているところから、工場を複数持ち、数百人を雇用するところまでさまざまで、事業継続や防災対策に向けた考え方もまちまちだからです。ただ組合同士の連携は成立しましたが、各県の組合の内部で組合員同士がどう連携するかという部分で、いまだ検討が続いてる部分でもあります」(西川氏)
この連携型事業継続力強化計画は、策定されてから1年あまりで大きな成果を発揮することになります。それは2024年1月1日夕方に発生、最大震度7を記録した能登半島地震による石川県での被災対応です。
「組合員12社のうち、能登半島に生産拠点を置く組合員が2社ありました。1社は七尾市、もう1社は珠洲市です。とくに被害が大きかったのは珠洲市の組合員で、メイン工場が津波による被害は免れたが、大きな揺れにより屋根や壁が崩れ落ち、工場が壊滅状態となりました。ほかも大なり小なり被災し、すぐには操業が困難な状態でした。そのため、これら2社から組合に『復旧に尽力するが、どうしても追いつかなくなった場合は、代替生産をお願いできないか』という打診があったのです」(西川氏)
もし他県との連携がなければ、まず石川県内の各組合員に状況を確認し、対応の可否を考えるという流れになったはずです。
「しかし第一報が入ったとき、県内での対応は無理だと思いました。珠洲市の工場は250人が働く大きな工場で、その代替生産は平時でもキャパシティ的にギリギリです。しかも石川県全体が地震で大きな被害を受け、その全容もわからない状態でした。しかしLINEグループで結ばれていた東海北陸ブロック7県の各理事長に代替生産が可能かどうか確認したところ、『大丈夫だよ』と、みな快く引き受けてくれました。そしてこうした回答を得たことで、被災した組合員も安心して自社設備の復旧に全面的に注力し、最終的には自社の別拠点に設備を動かして操業を再開、代替生産なしに事業継続できました。もし7県の連携がなければ、設備の復旧にはもっと時間がかかったのではと考えています」(西川氏)
石川県テントシート工業組合連携型事業計画
一部抜粋(ご協力のもと掲載)
想定されるリスク |
リスク発生による影響
能登地震の実際
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【地震】
連携事業者の一部が所在する地域では南海トラフ地震で大きな揺れが想定される。
【洪水】
連携事業者の一部が所在する地域では洪水被害が想定される地域に事業所を有しており、これらの被害が想定される。
【津波】
連携事業者の一部が所在する地域では南海トラフ地震による津波被害が想定される地域に事業所を有しており、これらの被害が想定される。
【高潮】
連携事業者の一部が所在する地域では高潮被害が想定される地域に事業所を有しており、これらの被害が想定される。
【土砂災害】
連携事業者の一部が所在する地域では土砂災害が想定される地域に事業所を有しており、これらの被害が想定される。
【感染症】
連携事業者共通:感染症の流行が拡大した場合には、テント等関連製品において製造と流通への重大な影響を及ぼすと共に、不要不急の外出等の制限や自粛により各種野外イベントの中止等の影響によりのテント販売とレンタル関連事業の需要減少が想定される。
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(人員に関する影響)
- 被災した連携事業者において、想定される災害により社員の多く が出社できなくなる可能性がある。
- 感染症の流行期においては、社員や社員の家族の感染により、入院や自宅療養、在宅勤務を行う社員が複数発生する可能性がある。
- 連携事業者によっては社屋が近く、災害で同様の被害を受ける可能性があり、事業活動が困難になることが懸念される。
(建物・設備に関する影響)
- 想定される災害により、被災した連携事業者双方において、建物や設備の損壊の可能性がある。
- 連携事業者によっては社屋が近く、災害で同様の被害を受ける可能性があり、事業活動が困難になることが懸念される。
(資金繰りに関する影響)
- 想定される災害により、被災した連携事業者双方において、速やかな事業再開ができないために売上が立たず、運転資金や復旧資金の確保が困難となる可能性がある。
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想定される災害により、テントシートの緊急な需要の発生により、多額の運転資金(材料仕入れや人件費の増大等)の確保が必要となる可能性がある。
石川県と協定を結び実際に調達要請が来た。
- 感染症の流行が拡大した場合には、テント等関連製品において製造と流通への重大な影響を及ぼすと共に、不要不急の外出等の制限や自粛により各種野外イベントの中止等の影響によりのテント販売とレンタル関連事業の需要減少が想定され販売に大きな影響を及ぼし運転資金の確保が困難となる可能性がある。
(情報に関する影響)
- 想定される災害により、被災した連携事業者において、設備の被災によって事務所内のサーバーが使用できなくなり、事業活動に必要な情報の入手が困難になる可能性がある。
- 連携事業者によっては社屋が近く、災害で同様の被害を受ける可能性があり、事業活動が困難になることが懸念される。
連携先の事業所が、実際に損壊
(その他の影響)
- 想定される災害による交通網の寸断等によって、当地域を経由する物流が停止する可能性がある。
- 感染症の流行期においては、人の往来や長距離移動の制限等によって、材料の調達や製品の出荷に支障が出る可能性がある。
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対応策と効果 |
自然災害等が発生した場合における対応手順 |
《組合等を通じた水平的な連携》
- 自然災害や感染症の発生時には、人員の応援などの協業を行うことにより、早期復旧と事業の継続を図る。
- 平時より7組合連携で定期的に、各県組合でも定期的に情報共有を行っており計145社での情報共有体制がある程度出来ているため、災害時に迅速な復旧体制の構築が可能となる。
連携先のグループLINEを利用し、他の6県の代表から「協力の了承」を得ることができた。
- 組合参加企業は業種の特性上、広い駐車場を持っている企業が多く、近隣地域住民の方の避難場所としての機能を持たせ、誘導や安全な動線の確保などマニュアルを作っている。
《連携事業継続力強化に資する対策及び取組》
(従業員及び顧客等の避難に関する手順)
- 連携事業者ごとに避難場所を定め、マニュアルにしている。
- 災害時のチェックシートを作成し、人命を最優先した優先事項を共有することにより迅速な対応が可能になる。
(従業員等の安否確認を行う手順)
- 連携事業者ごとに、安否確認のための社員の連絡リストを作成し、メールやSNS等を活用して安否報告が行われるように周知している。
(自然災害等が発生した場合における指揮命令体制)
- 連携事業者間における協力体制については①1県の一 部が被災、②1県全体が被災、③2県以上の広域な被災 の、災害対策を3段階とする。
- ①1県の一部が被災の場合は、当該県の理事長企業に災害対策本部を設置し、理事長を災害対策本部長とする。
- ②1県全体が被災の場合は、協議会の理事長企業、隣接県の理事長企業が協議を行い、災害対策本部を設置する理事長企業、災害対策本部長を定める。
- ③2県以上の広域な被災の場合は、協議会の理事長企業に災害対策本部を設置し、理事長を災害対策本部長とする。
- 上記に該当する災害対策本部及び災害対策本部長が被災した場合は、災害対策本部長が代理の者を定める。
- 災害対策本部長は、情報の収集と発信、災害等発生時における対応の要請を行う。
- 平時においては、7組合連携で定期的に、各県の組合でも定期的に情報共有を行っており計145社での情報共有体制がある程度出来ているため、当該会議で、災害に備えて協力方法や訓練や教育について、取り決めている。
(連携事業者間での被害状況の把握~被害情報について情報発信をする手順)
- 連携事業者間で、それぞれに被害状況の収集と取りまとめを行い、定められた方法で一定期間内に災害対策本部に報告することを取り決めている。
【連携事業者間で被害状況を把握し、被害情報について情報発信する手順を共有】
- 災害対策本部で被害状況を把握し、被害状況を顧客や行政に情報を発信する手順を連携事業者間双方で共有する。
- 平時において、連携事業者間でこれらの取り決めの有効性を確認し、計画の見直しを毎年実施する。
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自然災害等が発生した場合における人員体制の整備 |
- 被災連携事業者から要請があった場合は、事業継続や復旧に必要な人員を派遣するよう、取り決めている。
- 連携事業者は、必要に応じて、被災した連携事業者に人員を提供する等の役割分担をあらかじめ定めている。
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連携事業継続力強化に資する設備、機器及び装置の導入 |
- 被災連携事業者からの要請があった場合は、人員派遣を行い早期復旧が可能なよう取り決めている。
- 感染症が発生した場合には、速やかに適切な感染症対策を図るよう取り決めている。
- 感染症対策の物品類(マスク、アルコール消毒液、ゴム手袋等)は、各事業者が備蓄し、管理を行う。
- 連携事業者は、必要に応じて、被災した連携事業者に対して人材派遣を行う。
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事業活動を継続するための資金の調達手段の確保 |
- 資金調達手段の確保のため、連携事業者は想定される被害においての事業継続に必要な資金の調達手段について、リスクファイナンス対策を講じることとしている。
- 連携事業者間で人員派遣を行う場合、費用負担や支払方法について、あらかじめ取り決めを行う。
商工中金の1億円のコミットメントライン契約を締結し、発災時活用。
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事業活動を継続するための重要情報の保護 |
- 重要情報(製造に関する情報、財務情報、契約書等)について、各連携事業者でのバックアップ方法とそのノウハウを共有する。
- 各連携事業者において、重要情報(製造に関する情報、財務情報、契約書等)をバックアップ保存できる環境を整備する。
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