自社の被災とボランティア活動の経験が、自らの行動を変えた。
各地に甚大な被害をもたらした、2018年9月30日の台風24号の風災害にて、静岡県浜松市にある株式会社石野リスクコンサルタント(以下、同社)は2日間にわたる停電が発生。当時、同社は事業継続計画、いわゆるBCP策定ができていなかった。
そのため、有事の際の体制やお客様対応を決めておらず、対応に苦慮した。
その時、同社代表取締役石野不二夫(以下、石野社長)は、個人的に参加した2011年の東日本大震災での災害ボランティア活動の際、現地の悲惨な被災状況を思い返した。
「この東海・遠州地区においても大規模災害が起こりうる」と思うと共に、BCP策定と併せて事業継続力強化計画の認定が会社として急務と考え、2種類の計画の作成を急いだ。
自分で作成した計画だからわかる、2つの「強み」
自ら作成した計画だからこそわかる2つの強みがあった。
一つ目は、お客様に対して、PRができる点です。同社が事業継続力強化計画の認定を取ることにより、万が一の被災時にも早期に緊急時体制を整え、お客様対応を行える点を訴求できた。
これは、同社を通じて保険に加入しているお客様にとって、非常にうれしい話であることは言うまでもない。
二つ目は、自ら作成しているからこそ、お客様が事業継続力強化計画を策定する際のお手伝いができる点だ。また、事業継続力強化計画の認定取得の為の書類作成や申請フローを理解しているからこそ、伝えられるポイントがある。
お客様に安心していただくことだけではなく、お客様自身の災害対応力の向上にも貢献できること、これは同社の強みと言っても過言ではない。
あきらかに変わるお客様からの見られ方
「事業継続力強化計画の認定取得後、お客様と深いレベルで対話がしやすくなりました。と語る石野社長。
以前は同社からお客様に提案差し上げ、その提案を検討頂くことが多かった。しかし、事業継続力強化計画を経営者と一緒に考える機会が出来たことで、お客様との関係が大きく変わった。
静岡県という大規模地震が予見される地域柄、災害への意識が根底にあるが故、一緒に検討を進めると、長い時間を共にすることが多い。そのことが、お客様との関係を強固なものにさせている。
お客様からは信頼のおける保険代理店と認識されることで、こちらからのご提案を聞くお客様の様子は大きく変わった。
事業継続力強化計画の申請書において、「事業活動を継続するための資金の調達手段の確保」という記載項目がある。こちらはまさに損害保険代理店の腕の見せ所です。火災保険や休業補償、地震補償保険など、同社ではお客様の事業継続のために必要な補償内容の説明と合わせて、被災時の資金調達手段として保険がお役に立てる点を案内している。
「やってみせ 言って聞かせて させてみて」
同社では、お客様に事業継続力強化計画の作成支援をされる際、同社の認定済申請書を見せるところから始める。
併せて、「事業継続力強化計画に係る認定申請書」フォーマットと「事業継続力強化計画策定の手引き」を印刷しお渡し説明。
また、認定のメリットへの説明も欠かせない。
特に製造業においては、機械設備導入等において有効活用できる「ものづくり補助金」の加点要素となる点を強く説明。この説明をすることで、お客様の目の色は変わる。
また、ハザードマップを活用し、お客様事業所の所在地の、台風、浸水、土砂災害、雷、地震、液状化、津波、交通事故などのリスク度合いを可視化し案内。
つまり、同社は事業継続力強化計画を“やってみせ”、認定後のメリットとリスクの度合いを“言って聞かせている”わけです。
あとは、事業継続力強化計画を一緒に作成する。
自然災害から感染症へ。感染が与えるサプライチェーン分断リスクについて
同社で、事業継続力強化計画の策定支援活動を開始した際、自然災害に関する対策が中心であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行以降、サプライチェーンにおける事業中断リスク等を心配する声は増えた。
特に、事業所でのコロナウイルス発生による消毒費や休業中の利益補償はお客様側もリスクとしてイメージしやすく、ここ最近は大変ご興味を持ってお話を聞いていただける場合が多いとのこと。
お客様1社が事業を中断することは、関連する企業や生産への影響も広がる。この認定を機にあらゆる自社のリスク対策を見直すきっかけになったという声が多い。
激甚災害からお客様を守ることは我々の使命
同社は、損害保険や生命保険を通して、お客様の危険やトラブルを円満に解決し、安心した企業活動と生活を守ることを使命としていた。
近年続発している激甚災害からお客様を守ることも、その使命の一つです。
将来的には、同社事務所に電気自動車用の大型蓄電池を設置し、災害停電時にお困りのお客様がお越しいただければ、スマートフォン充電などの無償充電サービスをご提供させていただくなど、被災時にお客様や地域住民の方々に手助けできる存在を目指している。
【執筆者】
舟根 正浩氏 |
損害保険ジャパン株式会社 企画開発部 課長代理 |
経済産業省、中小企業庁、文部科学省などの官公庁を担当。国の政策を常にウォッチし、目指す方向を捉え、浮き彫りとなった社会課題の解決に資する保険商品・サービスの開発、およびマーケットの開拓が主な業務。