近年SDGsが大変注目を集めています。自社を取り巻く災害によるリスクをしっかりと見つめ直し、その対策を考える事業継続力強化計画の策定は、SDGsの目標11「住み続けられるまち作りを」や、目標13「気候変動に具体的な対策を」などに資する取組といえるでしょう。あらためて企業がSDGsに取り組む意義を振り返りながら、SDGsの観点から事業継続力強化計画を考えてみたいと思います。
SDGsの意識の浸透と企業の取組
(1)SDGsとは?
このところ「SDGs」は大変一般化してきており、テレビや新聞、各種メディアで「SDGs」という言葉を目にしない日はないと言っても過言ではないと思います。街でも胸にカラフルなSDGsのピンバッジ(SDGsカラーホイール)を付けている人を見かけることも多いでしょう。また、最近では小学校・中学校でもSDGsの教育が始まっており、ひょっとしてお子さんの方がSDGsについて詳しい、なんてこともあるかもしれません。それほど世の中に浸透し、認知度が高まりつつあるSDGsですが、ここで簡単におさらいをしてみたいと思います。
SDGsとはSustainable Development Goalsの略称であり、「持続可能な開発目標」を意味します。2015年9月の国連サミットにおいて加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際社会共通の目標です。2030年までに持続可能な世界を実現するため達成すべき17のゴール(目標)と169のターゲット(より具体的な目標)から構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
図表1 SDGs 17のゴールロゴ
(2)中小企業にとってのSDGs
では、実際に日本の企業、なかでも中小企業において、SDGsの取組は進んでいるのでしょうか?ここでは、株式会社帝国データバンクが2021年6月に実施した「SDGsに関する企業の意識調査(2021年)」の結果をご紹介いたします。
アンケート結果によると、「意味および重要性を理解し、取り組んでいる企業は14.3%(昨年比+6.3%)、「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」は25.4%(+9.0%)であり、合わせて『SDGsに積極的』な企業は39.7%(+15.3%)となり、SDGsの意識や取組は大幅に増加しています。一方、「言葉を知っていて意味もしくは重要性を理解できるが、取り組んでいない」が41.4%(+8.5%)で最も多く、「言葉は知っているが意味もしくは重要性を理解できない」の9.1%(▲5.7%)と合わせると合計50.5%(+2.8%)となり、SDGsを認識しつつも取り組んでいない企業が過半数を占めました。
企業規模別に見ると、大企業ではSDGsに積極的な企業が55.1%と過半数を上回ったのに対し、中小企業では36.6%、小規模企業では31.6%と意識の差が表れました。業種別では「金融」「農・林・水産」が積極的な企業が半数を超えたのに対し、「卸売」「運輸・倉庫」「サービス」「建設」の4業界で5割超の企業が、SDGsに取り組んでいないという結果となっています。
株式会社帝国データバンク「SDGsに関する意識調査(2021年)」より抜粋
(3)中小企業におけるSDGs取組のメリット
同調査にて寄せられた企業の声としては、「取り組むことで今まで見えなかった課題が見えてきた。新たな顧客サービスや業界全体の発展につながる」といったポジティブなものもある一方、「目標が壮大すぎて、取り組みようがない」といった意見もあるようです。確かに中小企業の経営者からすると、「取り組む余裕がない」「コストや人的資源が足りず、ハードルが高い」「何から手を付ければよいかわからない」といった印象があるのかもしれません。もちろん、SDGsには法的な拘束力があるわけでもないので、強制されるものはありません。しかしながら、今後取引先・顧客・金融機関などからの信頼獲得や、従業員の働きがいの向上、優秀な人材の確保などを実現させ、選ばれる企業になるために、SDGsを他人事ではなく自分事として捉え、経営に取り入れていくことは重要な課題といえるのではないでしょうか。
ここで一つ触れておきたいこととしては、CSRとSDGsの違いです。この二つは混同して扱われてしまうことが多いため整理すると、CSRとはCorporate Social Responsibility(=「企業の社会的責任」)の略称であり、企業が社会の一員として、消費者や株主、地域社会などのステークホルダーの要請に応え、環境や人権などに対する配慮や社会貢献を果たしていくことと言われています。これに対して、SDGsは企業活動を通じて社会課題を解決し、持続可能な社会の実現を目指す取組であり、企業として利益を追求しながら、自社の事業内容がどのように目標の達成に向け貢献できるかという視点を取り入れ、企業活動に反映させていく取組といえるでしょう。
SDGsが掲げる目標は具体的であり、何らか自社の業務内容と相通じるものがあると思います。よって取組を進めていくにあたっては、まずSDGsの理解を深め、経営層が積極的に関与した上で、自社の業務内容と先ほど例示した17のゴールを紐付け、その中でSDGsが掲げる課題の解決に自社として具体的にどのように貢献できるか検討しましょう(例:生産工程において環境負荷の低い原料を使用する、製品に使用される容器をリサイクル可能な素材にする、調達する原材料が児童労働や違法なプロセスを経ていないか配慮するなど)。無理な課題に取り組むのではなく、自社の経営理念や事業内容に親和性があり、従業員の皆さんが納得感を持て、自社事業に好影響をもたらす取組を行うことが肝要です。なお、実態を伴わないにも関わらず、SDGsに取り組んでいるように見せかける行為(=SDGsウォッシュ)は信頼を失墜させることにつながるため注意が必要です。
昨今ではSDGsに取り組むことはビジネスチャンスであり、取り組まないことはリスクでもあるとも言われています。企業としてのブランディングやステークホルダーからの信頼の獲得、社会課題解決に向けた商品・サービスの開発、新規ビジネス、他社との協業など新しい付加価値の獲得などといった側面もあり、SDGsを経営に取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
脱炭素社会実現に向けた取組
(1)なぜ今、脱炭素(カーボンニュートラル)なのか?
ここでもう一つSDGsにも関係し、最近話題となっているキーワードを挙げるとすると「脱炭素(カーボンニュートラル)」でしょう。度重なる豪雨や洪水など、このところ頻発化・激甚化している自然災害は気候変動によるものと言われており、その原因は二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスによる地球の温暖化と考えられています。
2015年には温室効果ガス排出削減に向けた国際枠組みとしてパリ協定が採択され、途上国も含めた世界共通の目標として、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることなどが掲げられました。日本においても、2020年10月、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉前内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。SDGsでは目標13で「気候変動に具体的な対策を」が設定されており、経営に脱炭素を取り入れることは、SDGsに向けた取組の一つといえるでしょう。
(2)中小企業による脱炭素経営の必要性
現在、世界的な潮流として、企業に気候変動リスクに対する対応について情報の開示が推奨されている(TCFD)ほか、パリ協定で求める水準に整合した温室効果ガス削減目標(SBT/Science Based Targets)が設定され、その国際的な認定制度も発足されており、認定に向けてチャレンジする企業も増えています。
こうした動きは大企業だけの話で、中小企業には関係がないと思われるかもしれません。しかし、先にご紹介したSBT目標では、自らの事業活動に伴う排出だけではなく、原材料・部品調達や製品の使用段階も含めた排出量の削減も目標として示すことを求めています。よって、今後脱炭素に取り組む企業が自社だけでなく、サプライヤーに対して排出量の削減を求める動きが高まることが予想されます。すでに、例えばAppleではサプライヤーに対して、再エネ電力の使用を求めており、Apple向けの生産を行っている国内企業では再エネ調達が進められています。中小企業が脱炭素経営を取り入れることは取引先からの信頼獲得や競争力の確保につながるものといえるでしょう。
事業継続力強化計画を策定する意義
先にご紹介した世界共通の課題である地球の温暖化・気候変動への対応としては、「緩和」と「適応」という言葉がよく使われます。温室効果ガスの排出を削減し、気温の上昇を抑制しようとする脱炭素社会実現に向けた取組は、まさに「緩和」といえるでしょう。しかしながら、こうした努力を進めたとしても、長期的に温暖化による豪雨などの自然災害の頻発化・激甚化を避けることは困難なため、そうした環境変化に「適応」する必要があります。自然災害が起こりえるものとして、事前に自社の災害リスクを認識し、防災減災の計画を立て、被害の軽減や被災による事業中断の最小化を図る「事業継続力強化計画」の策定は、まさに「適応」策といえるのではないでしょうか。
そもそも、事業継続力強化計画の策定は、自然災害や感染症の拡大などのリスクに備えて従業員の安全や、取引先・地域社会などステークホルダーとの関係を守り、自社事業の強靱化を図る経営の強化策です。さらに計画策定の検討において、自社を取り巻く環境やリスクを把握できるほか、罹災時の状況を想定することで自社の強み・弱みなどを再確認することができ、経営課題の棚卸しにつながります。このように事業継続力強化計画の策定は企業の本来業務であり、経営の強化そのものといえます。さらに、被災により大事なお客さまへの納品ができず、サプライチェーンを途絶させてしまうといった、自社単独では対応できない事象に対し、あらかじめ代替生産を依頼できる先を確保することで早期復旧を実現するといった、複数の企業が協力して策定する「“連携”事業継続力強化計画」を検討することも、サプライチェーンを構成する中小企業にとってリスク対策として有効です。
事業継続力強化計画の策定は、本業や経営の強化につながるだけでなく、同時にSDGsで設定された目標11「住み続けられるまち作りを」や、目標13「気候変動に具体的な対策を」に向けた取組でもあります。コストをかけずに企業のブランディングや差別化戦略、ステークホルダーとの関係強化などにつながる施策であり、本来の目的以外にも経営上のメリットがある事業継続力強化計画の策定を検討されることをお勧めします。
【プロフィール】
本多 敏彦 |
三井住友海上火災保険株式会社 |
営業推進部・法人マーケット推進チーム 所属 |
営業、マーケティング、保険金支払部門などを経験後、内閣府(防災)に出向し、防災の普及啓発やBCP策定率向上など防災行政の推進に従事。現在、中堅・中小企業の皆さまの課題解決につながるご提案活動や各種施策の企画・立案を担当し、全国の営業社員・代理店の営業活動を支援している。