「水の郷百選」に指定される湧水豊かな九州山地の麓の嘉島町。急速な工業化で公害問題が世間を騒がせた高度経済成長期に、豊かな湧水を利用して鋳鉄鋳物関連10社でスタートした熊本南工業団地は、拡張を続けて現在は18万平米の敷地に、多様な業種24社で形成されている。熊本南工業団地協同組合は敷地内にガソリンスタンドを経営し、団地内の道路や水供給施設等のインフラ整備・管理を行っている。平成28年の熊本地震で想定外の被害を受け、組合が窓口になってグループ補助金を申請した経験を生かし、共同体として早期の復旧ができるよう、連携事業継続力強化計画を策定するに至った。
インタビュー(5分36秒)
平成28年の熊本地震では、立地が山間地だったことによる法面の崩落や施設の損傷などで、全体で30億近い想定外の被害を受けた。団地内の工場だけでなく組合が管理している道路や水道管も被災。災害時に団地内で必要なことの優先順位がはっきりし、一つ一つの企業の力は小さくても、700人以上の従業員がいる団地全体で力を合わせれば大きな力になると思い、連携事業継続力強化計画を策定した。
工業団地はさまざまな業種で構成されており、従来は企業間の交流が少なく、関係が希薄だった。連携事業継続力強化計画に取り組むことで、コミュニケーションが活発に行われるようになり、令和2年の大型台風や新型コロナウィルス感染拡大の際にも、さまざまな情報交換ができ、連携の効果を感じ取れた。
当工業団地は、嘉島町の製造業事業所総数35社・従業員数860名のうち、それぞれ16社(45.7%)・646名(75%)を占めているので、災害時は地域への雇用や経済活動に及ぼす影響も大きい。震度6弱以上の地震の際には、平時の例会を災害対策本部に格上げし、復旧に向けての情報収集や修繕の担当を決める体制作りを速やかに整え、被害の影響を最小限におさえ、地域への貢献を目指している。
従来は各企業の代表者の連絡先等、簡易な一覧しかなかったので、全ての組合員24社の災害担当者を含めた緊急連絡先を常にアップデートし、連絡体制の強化を図っている。メールによる連絡網も整備。震度6弱以上の地震が起きたら各社で被害情報を収集、フォーマットに従って一定期間内に報告する。それを情報発信担当者が、行政などの関係機関に発信するというルールを定めた。
平成28年熊本地震で被災し水道管が破裂した際、団地内全体の地下の構造を知るのに大変手間取った。というのも、半世紀にわたり拡張工事を続けてきたため、多くの未整理の図面があり、現状把握が難しかった。この反省から、古い図面の整理とデジタル化に取り組んでいる。
協同組合で地震保険や資金融資の情報を取りまとめて、各企業に情報を提供。リスクファイナンスに対する意識の底上げを図っている。
組合企業が参加する月一回の例会を利用して、各企業の代表と担当者に連絡。以前はFAXで行っていた報告やお知らせも緊急時のメール連絡網を利用するようにしている。平時から緊急時の連絡網の使い方に慣れておくことが、いざという時にも慌てずに済み、これが訓練にもなっていると考えている。
地域における面的な連携。 熊本南工業団地協同組合内企業による連携である。参加企業の多くは嘉島町に本社、事業所を有しており、平成28年熊本地震では甚大な被害を受けた。その経験から、連携して災害対応にあたることの重要性を切実に感じている。企業の規模はまちまちだが、小さな企業でも連携をすることによって大きな力となり、被災からの速やかな事業復旧を目指している。
工業団地は、発足当初は鋳鉄鋳物中心の同業者で構成され、仕入れの共同購入などで密接な関係を保っていたが、その後の経済発展で製造業だけではなく、輸送、食品、木材建材や電気機械器具の販売などの異業種の集まりとなっていった。その結果、業務的なつながりだけでなく、互いのコミュニケーションも希薄になっていたが、平成28年熊本地震の被災を機に地域で協力する意義を再認識した。組合の例会後にお互いの会社を訪問するなどして良好なコミュニケーションが深まり、災害時の協力や連携という共通認識が持てるようになった。
連携事業継続力強化計画の認定を受けたことで、ロゴマークを使用するなどを含め、事前対策が目に見える形となった。各企業もサプライチェーンへのアピールができるようになり、取引先に大きな安心を与えられるようになったと思う。また、組合でガソリンスタンドを経営しているので燃料に対する不安はあまりないのだが、共同で自家発電設備を導入することや、非常食の備蓄を揃えるなどの検討を進めていきたい。
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