取引先企業と連携して、災害リスクからサプライチェーンを守る

株式会社 山海

風水害地震製造業

1972年に草津電機 株式会社のグループ企業として設立。マイクロ波乾燥による食品加工で特許を取得。乾燥錦糸卵製品は保存性と簡便性に優れていることから、外食向けや弁当の冷やし中華、ちらし寿司等に使われている。大手食品メーカーとのサプライチェーン維持に努めるべく、自社は新工場の建設に着手。また連携による事業継続力強化計画で原材料の安定供給を目指した。

取引先企業と連携して、災害リスクからサプライチェーンを守る 株式会社 山海

インタビュー(6分20秒)

地元の山の幸、海の幸を使った
食品加工メーカーとして創業

熱湯を注いで待つこと3分。蓋を開けると、湯気の中から美味しそうな色とりどりの具材が見えてくる。やはりカップ麺といえば、中に入っているかやく(加薬)を楽しみにしている人は多いだろう。株式会社 山海は、そんなカップ麺の具材やふりかけといった日頃誰もが良く目にしている乾燥食材を製造している食品加工メーカーである。

山海がある島根県松江市には、日本海側の入り江につながる中海(なかうみ)と、市街中心部の西側には宍道湖というふたつの大きな湖がある。近隣で魚介類が豊富に漁獲できるとあって、かつては佃煮や燻製、珍味などの製造をしていた。この地で採れた山の幸、海の幸を使った贈答品や土産物などの食品製造していたことが社名の由来になっている。

JR東松江駅の近くにある現在稼働中の本社工場は、創業当時島根県から工場用用地を取得し、会社設立の翌年である1973年に操業を開始した。株式会社 山海 専務取締役の荒木英稀氏は当時をこう振り返る。

「もともと松江駅にあった貨物の機能が東松江駅に移されることになり、弊社としても貨物列車で荷物を搬出するのに交通の利便性が非常にいいということで、この地を選んだようです」(荒木氏)

同じ73年に、山海は即席食品用乾燥卵の製品を開発、生産を開始した。すると、この乾燥卵はとても軽く、スープに浮きやすいことから、カップ麺の具材に適しているということが分かり、大手カップ麺メーカーとの取引が始まった。

ハザードマップで確認はしていたので、災害のリスクはある程度認識し、社内でBCPの策定を進めていたという荒木氏

大手カップ麺メーカーの食材を製造
自社のBCP策定にいち早く着手

71年にカップ麺が誕生すると、その市場が一気に拡大した。山海はこの急増する需要に対応するため、77年には工場棟を増築し、それに伴ってマイクロ波乾燥機を増設した。

このマイクロ波乾燥機とは、電子レンジにも使われているマイクロ波を利用した加工技術により、食品の調理と乾燥をひとつの装置で行うものである。この技術を使った「食品の加熱乾燥法」は、山海が最も得意としている技術のひとつであり、特許を取得している。この技術でカップ麺用の具材を製造している食品会社は、国内では山海のほかに数社しかない。

カップ麺のほかにも、スープ、ふりかけなどに使われているスクランブルエッグや牛肉そぼろ、牛肉フレーク、チーズ味スナックといった乾燥具材などを製造しており、多いものでは一日でカップ麺約100万食分の具材を製造しているという。おそらく、山海が製造した食品はほぼ全国どこの家庭の食卓にも並んでいるといっても過言ではないだろう。荒木氏は次のように語る。

「毎日数トン単位で食品を製造しているので、もし弊社が被災して操業を停止するようなことになれば、取引先であるカップ麺メーカー様の工場も止まってしまう状況になります。そういう意味でも、非常に重要な役割を担っている仕事であると常に心がけています」(荒木氏)

荒木氏は、松江市中心部で起きた大規模な水害を過去に2度経験しており、この地域が水害に弱い場所であることを知っていた。また、現在の工場は中海や意宇川に面していて地盤が軟弱なため、地震による影響を受けやすいことも想定していた。それもあって、サプライチェーンへの影響を最小限に抑えるためにも、以前から社内でBCPの取り組みを進めていたという。

また昨今、企業の強靱化が叫ばれるようになり、BCPの取り組みの一環として、新たに新工場の建設計画を進めた。新工場を建設する土地は周囲に比べ標高が高く、水害の心配がほとんどないという。

工場内にはマイクロ波乾燥機が設置され、続々と乾燥食品が製造されていく

山海が製造しているカップ麺やスープなどの具材に使われている乾燥食材。
素材を生かした鮮やかな発色がマイクロ波乾燥機の特長である

アドバイザーからの提案を具体化
取引先と連携型計画の策定を検討

グループ親会社の意向で、親会社を主体とする連携事業継続力強化計画の策定を進めることになった。この親会社の計画策定、及びグループ内企業の経営者向け勉強会を、中小機構 近畿本部が担当していることもあり、同本部からの連絡を受けた中国本部の中小企業アドバイザー 井上明雄氏が山海に向かった。

親会社の連携事業継続力強化計画が所在地近隣のグループ会社を中心に作られることとなったため、これとは別に、自社の連携事業継続力強化計画の策定を検討し、さらなる強靱化を目指した。

「グループ全体の勉強会で計画書の概要はある程度把握していました。そのうえでアドバイザーの井上様には、弊社の連携事業継続力強化計画の中身について、いろいろご意見をいただきました」(荒木氏)

日頃から災害に対する危機感を強く感じていただけに、自社のBCPの取り組み、また単独型の事業継続力強化計画の策定については、社内の検討・調整でおおむねクリアできると判断した。

しかし、連携の計画となると、なかなか思うように話は進まない。自社の事業のどの部分を連携するかで相手先が変わってくるうえ、連携する企業の経営者に計画の内容を共感してもらう必要があるためだ。これについて井上氏と荒木氏は、

「業種が特殊なだけに、連携先企業はすぐに決まりませんでした。荒木専務にヒアリングさせてもらう中で、山海様に原材料を供給している2社の仕入れ先と連携できないか、という提案をさせていただきました」(井上氏)

「たしかに同業者と連携すれば、何かあったときに代替生産が可能になりますが、弊社は特殊な食品加工をしているため、いますぐ連携するのはなかなか難しいと判断しました。そんなとき、井上様から原料供給という面にポイントを当てて連携するのはどうかというお話をいただき、その必要性も重要だと感じました」(荒木氏)

工場スペースの大部分は食品加工装置が占めており、原材料・製品を保管する場所はそれほど多くない。製品は取引先企業の倉庫に一時的に保管していることもあって、原材料を供給している2社と連携する話を進めた。

中小機構 中小企業支援アドバイザーの井上氏は「松江、米子は災害が比較的少ない地域。
災害リスクの対策をしていない企業がまだ多いので、今後計画を策定する企業を増やしていきたい」と語った

連携先と災害リスクを一緒に考える
持続可能なサプライチェーンの構築へ

早速、アドバイザーの井上氏は連携を検討している2社に向かい、山海との連携事業継続力強化計画の話を持ちかけた。その時の状況を井上氏はこう振り返る。

「両社にそれぞれ事業継続力強化計画の経緯を説明すると、災害のリスクに対する必要性を感じていただき、連携計画を前向きに受け止めていただきました。ただ、私の方でひとつ気になっていたのが、この両社の関係でした。原材料の供給という同じ業種なだけに、もしお互いの仲が悪ければこの3社で連携するのは難しくなります。しかし、それは杞憂でした。荒木専務はこの両社と日頃から良好な関係を築いていたということもあり、計画の内容に共感していただきながら話を進めることができたのは良かったと思います」(井上氏)

今回の計画によって、発災時における従業員の安全と雇用の確保、事業の早期復旧、サプライチェーンの維持を目的とした原材料の供給などを確立することができた。3社が連携したことで、平時にどんなことが変わったのか。荒木氏は、

「私たちは、以前からこの2社に出向き、倉庫、原材料の在庫の状態などの確認をさせていただいておりました。今回の連携事業継続力強化計画の策定をしたことで、さらに事業を継続していくための大事なポイントを相互にしっかり理解をできたと思っております。今後は災害に対してどうするべきか、3社で積極的に話し合いの場を設けたいと思っています。連携計画をしたことが、とてもいいきっかけになったと感じています」(荒木氏)

連携する2社と原材料の安定供給に取り組み、社内については、従来の本社工場と建設中の新工場を含めた2拠点で、水害や地震災害のリスクヘッジを図り、災害により強い企業を目指すという。荒木氏は最後に、

「弊社は消費者と直接取引をしているわけではないので、知名度がまだまだ低いと感じております。ですが、これからは認定事業者ロゴマークを活用するなどして、災害対策をしている企業であることを広くアピールしていこうと思っております。災害リスクがあることを常に言い続けることで、従業員が危機意識を持って行動できるよう努めていきます」(荒木氏)

自社が被災して、もし操業が停止してしまった場合、サプライチェーンにどのような影響を与えてしまうのか想像したことはあるだろうか。自社でバックアップできるもの、あるいは他社と支え合って事業の立て直しを図るもの、それぞれどんなことから始められるのかを考えてみたい。

原材料を保管するスペースは限られているため、もし供給が止まると製造ラインも停止してしまう。
今回の連携では原材料の安定供給に務めた

  • <中小機構・中小企業支援アドバイザー・井上明雄氏より>

    計画策定について説明する際、偶然にも松江、出雲、米子一帯に線状降水帯が発生し、豪雨になりました。仕入先の1社が、その影響で社屋に土砂が流れ込み入れなくなったという経験をされたこともあり、災害に対する危機感をより身近に感じたということでした。今回の計画は、山海を中心とした製造業の連携でしたが、原材料を供給する2社にも、やはりサプライチェーンを守る必要性があると理解してもらい、現在それぞれの会社に連携計画を提案させていただいております。自社が被災するとサプライチェーンにどのような影響を及ぼすのか、それを考えて、早めに計画の策定を進めることをお勧めします。

  • <事業継続力強化計画の策定に生かせる、3つのヒント>

    1)中小機構の専門家派遣&個別支援を活用する
    2)複数の連携型計画による強靱化を目指す
    3)サプライチェーンで関係が深い企業と連携

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