1. はじめに
2000年(平成12年)以降に負傷者100名以上の被害があった大きな地震は、20回(※)発生しました。また近い将来に切迫性が指摘されている大規模地震(図表1)が複数あります。
地震の発生は、多くの中小企業・小規模事業者の事業継続に影響を与える場合があります。
今回は、中小企業・小規模事業者の地震災害への事前対策を改めて考える一歩になればと思います。
※2016年熊本地震は震度7を2回記録
図表1 想定される大規模地震
2. 地震の被害と脅威
下記の図表2は、実際に起こった地震と被害内容です。被害内容は、地震発生の時代や地域により変化しています。
図表2 過去の地震と被害内容
発生年 |
地震名(カッコ内は災害名称) |
被害内容 |
1923年 |
関東地震
(関東大震災) |
やわらかい地盤の上に建てられた木造建築物の倒壊とその後の火災により被害が拡大。 |
1995年 |
兵庫県南部地震
(阪神・淡路大震災) |
建物の倒壊等による人への被害が多く発生し、火災により建物が焼失。 |
2011年 |
東北地方太平洋沖地震
(東日本大震災) |
地震で発生した津波により人や建物等への被害が拡大。 |
2018年 |
北海道胆振東部地震 |
日本で初めて大規模停電(ブラックアウト)が発生。地震による火災の発生件数は、2件。 |
近年は、建物の耐震耐火性能の向上、復旧時の作業方法の改善などにより、事業所での火災発生が減っています。
北海道胆振東部地震は、札幌市などの都市部を中心に道内各地で食料や日用品、石油燃料等の必要物資が不足となる事態を引き起こしました。また、停電の影響で道内39ある乳業工場のうち、ほとんどの工場の稼働が停止したため、全国生産量の約5割を占める生乳(牛乳やバターの原料)の生産が滞り、全国的に牛乳が品薄になるなど被害が波及しました。生産設備の自動化などの発達により、電気が止まることで事業への影響が大きくなっていると考えます。今後は、中核事業(※)を継続させるために一定程度の容量を確保できる蓄電池や非常用発電の設備導入が重要になると考えられます。
※中核事業とは、会社の存続に関わる最も重要性(または緊急性)の高い事業のこと。
3. 地震発生時の行動
地震が実際に起きたらどうすればよいでしょうか。過去の地震発生において多くの人の命と財産が失われました。地震が起きたときは、先ず何よりも自分の命を守り、怪我をしないことがとても大切となります。
東京消防庁は、東日本大震災の直後から東京都民に対して地震発生時の行動に関するアンケート調査を実施したところ、「火の元を確認する」と回答した方が多く、「身の安全を図る」と回答した方が少ないことがわかっています。同様に事業所向けのアンケート(1,224事業所)では、239(20%)の事業所が「オフィス家具類等の転倒・落下・移動があった」と回答しています。
また、そのうち、3の事業所で負傷者も発生していました。
地震は、いつどこで発生するかわかりません。いざという時に従業員は、指示されなくても自分で判断して人命を守る行動をとれる必要があります。
4. 平時の備え
地震による被害を少なくするために自ら取り組む「自助」、地域で助け合う「共助」、国や地方公共団体などが取り組む「公助」があります。この中で基本となるのは、「自助」となります。それぞれの企業または従業員の一人一人が自分の身の安全を守ることです。地震災害による危険を考えて、その被害をできるだけ少なくするために日頃から災害対策を検討し、実施することが重要です。
- ①職場の中の安全対策をする
- 強い揺れがあったとき職場では、棚や天井などから物が落下したり、機械設備が倒れたりして危険です。日頃から職場の安全対策を徹底しましょう。
- ②避難場所や避難経路の確認
- いざというときに身の安全を守る行動をとったり、安全な場所に避難したりするためには、普段からの準備が必要です。職場のある地域のハザードマップを見て避難場所や避難経路などを確認しましょう。
- ③非常時の備蓄品や持ち出し品の確認
- 地震の発生により電気、水道、ガスなどのライフラインや交通機関などが停止したことにより、帰宅困難になることも想定して一定期間の備蓄をしておくことは大事です。持ち出し品は、経営者や従業員が避難する際に必要最低限、持ち出すものとなります。定期的に内容を確認しましょう。
- ④家族や会社等の連絡方法
- 従業員や従業員の家族、または取引先など地震が発生した場合に備え、日頃から非常時の連絡方法について確認しましょう。大きな災害が起きると、電話がつながりにくくなります。安否確認システムと複数の連絡手段を導入し、あわてずに使えるように事前に体験してみることも重要です。
- ⑤防災訓練に参加
- 地震が発生したときパニックにならずに身の安全を守るためには、その場に合わせた行動を取る必要があります。そのためには、イメージトレーニングを基に実際に自分の体を動かし経験しておくことが大切です。職場などで実施される防災訓練は、実戦力を身につけるための機会となります。
- ⑥火災・地震保険等の加入・見直し
- 地震後に再建の資金が不足し、事業継続が困難になる企業も多くあります。保険等に加入することで、保険金を事業継続の資金として活用できます。また、火災保険に加入しているので、地震による火災も補償されると思っていませんか。地震が原因の火災は、火災保険で補償されず、地震保険に加入していないと対象外になってしまいます。
5. まとめ
今回は、地震災害や事前対策について概要をご説明しました。事前対策の導入でお困りの方は、防災・減災の事前対策で国の認定が受けられる事業継続力強化計画(ジギョケイ)の策定をオススメします。中小機構では、無料の専門家派遣等の複数の支援メニューを提供しています。
また、中小企業が単独で全ての事前対策を講じるには、限界がありますので、取引先との連携や新たな企業との連携が有効です。連携先をお探しの場合は、中小企業基盤整備機構のジェグテックで連携先の企業を探すこともお勧めします(ジェグテックの登録には審査があります)。
災害に備える「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」について知りたい方は、こちらをご覧ください。
中小企業基盤整備機構 事業継続力強化支援事業ホームページ
https://www.smrj.go.jp/sme/enhancement/kyoujinnka/
【プロフィール】
小沼 耕一 |
独立行政法人中小企業基盤整備機構アドバイザー |
中小企業診断士 |
特殊用途の検査装置や加工装置の開発、品質管理、不動産の企画や営業を経験。現在は、新規事業展開、BCPや連携事業継続力強化計画策定、各種補助金申請等の支援を行う。