1. はじめに
日本の沿岸部は過去に何度も大きな津波に襲われています。日本の近海は、大規模な海底地震が起こりやすい海域です。また、津波の伝搬距離は非常に長く、遠く南米で発生した地震による津波が日本に到達することも少なくありません。
風によって海の表面だけが動く波と違い、海底から海面までの海水全体の動きが波として伝わる津波の破壊力はすさまじく、大きな被害をもたらします。
今回は、主にまもなく発生から10年となる東日本大震災での経験をもとに、津波の影響と対策について考えます。
2. とにかく逃げろ
津波対策の第一は、なんといっても「逃げる」ということです。東日本大震災における岩手・宮城・福島の3県の死者のうち、実に9割以上が溺死によるものでした。
津波は猛スピードで迫って来ます。海岸に到達したのを見てから逃げたのでは間に合いません。強い地震を感じた時や、弱くても長い時間ゆっくりとした揺れを感じた時は、直ちに海岸から離れた高台や高いビルの上層階などに避難しなければなりません。
3. 釜石の奇跡
東日本大震災では、痛ましいことに多くの学童も犠牲となりました。そんな中、岩手県釜石市鵜住居地区の小・中学校にいた生徒約570人は全員が無事に避難し、「釜石の奇跡」と呼ばれています。地震発生後に校庭に駆け出した中学生たちを見た小学生たちがそれに続き、高台に避難しました。その後、自分たちの判断でさらに高い場所に移動しました。学校や町は津波に飲み込まれてしまいましたが、一人の犠牲者も出しませんでした。
子どもたちは日頃の防災教育・訓練を通じて、次の「避難3原則」をしっかりと身に着けていたのです。
- ① 想定にとらわれない
- ② 状況下において最善を尽くす
- ③ 率先避難者となる
4. 企業の津波対策
津波は企業の活動にも大きな影響をもたらします。従業員やその家族の安全を脅かすことはもちろん、沿岸にある建物や設備は直接の被害を受けますし、電力供給の停止や交通の麻痺によって生産や物流が止まってしまうこともあります。また、津波被害からの復旧は長期化する恐れがあります。
企業における津波対策としては、次のようなことが挙げられます。
- ハザードマップなどによる地域や自社の危険度の認知と被害の想定
- 津波発生時の警報発令や連絡のための体制の整備
- 避難場所や避難方法の周知と訓練
- 重要機器類等の高所への移設
- 重要情報の遠隔地でのバックアップ、クラウド化
可能であれば、浸水防止対策の実施や遠隔地での事業活動のための体制整備についても検討したいところです。また、他の企業と協定を結ぶなどして、万一の場合に助け合う関係を築いておくことは、生き残りのために大変役立ちます。
5. おわりに
東日本大震災は、我々に改めて津波の恐ろしさを知らしめました。津波の直接的な被害に加えて、福島第一原子力発電所の事故の影響も忘れることができません。10万人以上の住民が避難生活を余儀なくされ、風評被害も含めた経済的損失も莫大です。放射性物質の漏洩は現在も収束しておらず、将来にわたっての損害は計り知れません。
この原発事故では想定をはるかに超える大津波に襲われて、発電所の全ての電源が失われました。「想定外」に備えることの難しさを物語る一例とみることもできるでしょう。
今後も、南海トラフ地震などで巨大津波の襲来が予測されています。釜石の子どもたちにならって訓練など日頃の備えを怠らず、いざという時には想定にとらわれることなく、最善を尽くし、率先して避難したいものです。
津波について、より詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
災害に備える「事業継続力強化計画」について知りたい方は、こちらをご覧ください。
【プロフィール】
福泉 裕 |
独立行政法人中小企業基盤整備機構チーフアドバイザー |
中小企業診断士 1級販売士 |
大手素材メーカー勤務を経て独立。東日本大震災後に神奈川県「中小企業BCP指導体制整備事業」にて、BCP指導者育成研修の運営を担当。その後もBCP(事業継続計画)や事業継続力強化計画の策定・運用をはじめ、中小事業者の強靱化支援に努めている。