1. はじめに
この冬は各地で記録的な大雪となり、交通の混乱、雪かき作業中の事故など、さまざまな被害が発生しています。遠く南米沖の海水温度が例年より低くなるラニーニャ現象の影響や上空の寒気の影響などにより、北から西日本まで大雪が発生しやすい条件が重なったことが、原因として考えられます。この冬は、関東でも積雪を記録しており、公共交通のダイヤの乱れや道路の封鎖、スリップ事故など、被害が発生しています。本コラムでは、雪害を対象に、日本に暮らす我々がこれまでどのような雪による被害にあってきたのか、そして被害を教訓に今後どのような対策ができるのか、について、実例を交えて考えていきたいと思います。
2. 車の立ち往生はなぜ起こるか?
雪害といっても様々な災害があります。最近ニュースで話題になっているのは、高速道路などで車が立ち往生してしまい、数時間から長いときには何日も車を動かすことができなくなる車両滞留による雪害です。国土交通省の調べ*では、車両滞留の原因は、大型車のチェーン未装着が多いとのことです。
*大雪時の道路交通確保対策中間とりまとめ 平成30年5月 冬季道路交通確保対策検討委員会
多くの車が冬用タイヤを履いていますが、道路に傾斜がある場合などは、冬用タイヤだけではスリップしてしまうことがあります。特に大型車がスリップしてしまい制御不能になると、道をふさいでしまい後続の車が通り抜けできなくなることで、滞留が発生しやすくなります。チェーン規制区間ではチェーン装着が、車両滞留回避に有効ですので、降雪時には必ず携行しましょう。
3. 人命にかかわる雪害
自然災害において、第一に人命の確保が優先されることは言うまでもありませんが、雪害においても毎年多くの方が怪我をされていて、亡くなられる方もいらっしゃいます。雪害による死亡原因を図表1に示します。
これによると屋根の雪下ろし等、除雪作業中に亡くなられる方が群を抜いております。特に65歳以上の高齢者の割合が高く、毎年雪害による死者全体の7~8割を占めています。
それでは除雪作業中の事故を防止するにはどのようにすればよいでしょうか。首相官邸ホームページの防災の手引きでは、以下のような対策をあげています。事業所であれば、従業員の皆様が協力・連携して除雪作業を行えば、事故のリスクを低減できます。
除雪事故に遭わないために ~命を守る除雪中の事故防止10箇条~
除雪中の事故の危険を理解し、安全な対策を講じることが、事故を防ぎます。
また、事故は除雪作業に対する慣れや過信、油断が事故を招いています。除雪作業前に事故防止のポイントを確認しましょう。
- (1)作業は家族、となり近所にも声かけて2人以上で!
- (2)建物のまわりに雪を残して雪下ろし!
- (3)晴れの日ほど要注意、屋根の雪がゆるんでる!
- (4)はしごの固定を忘れずに!
- (5)エンジンを切ってから!除雪機の雪詰まりの取り除き
- (6)低い屋根でも油断は禁物!
- (7)作業開始直後と疲れたころは特に慎重に!
- (8)面倒でも命綱とヘルメット!
- (9)命綱、除雪機など用具はこまめに手入れ・点検を!
- (10)作業のときには携帯電話を持っていく!
空き家の除雪が行われず、危険な状態になっている場合には、法律の定めに基づき市町村長の判断で雪下ろしを行うことが可能です。
お困りの際は市町村に問い合わせ下さい。
出典:首相官邸ホームページ
(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/setsugai.html)
4. 事業継続にかかわる雪害
雪害による事業リスクとして最も発生頻度が高いものの一つに、交通機能の麻痺による物流の停滞があげられます。今冬も各地の道路で大雪の影響により車両が立ち往生して長時間交通に大きな影響を及ぼすことがありました。物の運搬が停止することで、流通業では商品が欠品し、宅配便の配送が遅れる等の被害が発生します。状況によっては、食料が届かず、地域の住民に大きな影響を及ぼす可能性もあります。
このようなリスクに備えるには、日ごろから気象情報などを利用して、大雪の発生が見込まれる時には、事前に在庫を増やすなどの体制を整備することが有効です。そして、前項にもありますように、運搬の際には冬用タイヤ装着はもちろん、チェーンもお忘れなく。
5. 被害額からみた雪害
降雪が、地震や台風のように甚大な災害を引き起こすこともあります。図表2は過去の風水害等による高額支払保険金事例を示したグラフですが、平成26年2月の雪害による保険金額は史上6番目に高額でした。主に農業関係の被害(ビニールハウスの損傷や作物の被害)などが大きかったとのことです。雪害リスクが高い事業によっては、保険加入も検討したほうがよいでしょう。
6. 雪害により被災した中小企業・小規模事業者向け支援制度
雪害の規模・程度によっては災害救助法の適用を受けることがあります。令和3年1月7日からの大雪では、秋田県、新潟県、富山県及び福井県のいくつかの市町村で災害救助法が適用されました。適用された地域の事業者の皆様は、災害復旧貸付の実施、セーフティネット保証4号の適用、既往債務の返済条件緩和等の対応、小規模企業共済災害時貸付の適用を受けられます。詳しくは経産省または中小機構のサイトをご参照ください。
7. まとめ
大雪や吹雪など気象現象はある程度予測が可能ですが、気象現象と人為的ミスが重なって起こる災害を予測することは、ほぼ不可能です。しかし、災害の予測は不可能でも、災害を未然に防ぐことは可能です。
目の前を走っている車が、スリップして道をふさいでしまうことは予測できません。しかし、過去に車の立往生が発生した道路を通らずに迂回することで、スリップする車を回避することは可能です。たとえば、チェーン規制のある道路は、傾斜があり過去に車両滞留が発生した場所であることが多いので、そのような道路は通行しない、という対策も有効です。
大雪や吹雪などが予測されているときは、なるべく不要不急の外出は自粛していただき、外出時には情報収集するとともに事前に十分な準備をすることで被災を回避していただきたいと思います。
道路における雪害対応については、国土交通省の雪防災のサイトを参考にしました。さらに詳細を知りたい方はこちらをご参照ください。
災害に備える「事業継続力強化計画」について知りたい方は、こちらをご覧ください。
【プロフィール】
猿川 明 |
独立行政法人中小企業基盤整備機構チーフアドバイザー |
中小企業診断士 気象予報士 防災士 |
一般社団法人板橋中小企業診断士協会で、板橋区簡易型BCP策定支援事業事務局リーダーとして従事。8年目を迎える事業を統括するとともに、全国の中小企業の皆様が、事業を継続する力を獲得できるようBCP(事業継続計画)策定や連携事業継続力強化計画策定をご支援中。