BCPと事業継続力強化計画の策定
「社員の幸せ」「お客様の幸せ」「会社の幸せ」を経営理念に掲げる同社では、理念の実現に向けて、社員の子育て支援や健康経営、SDGsなどの活動にも、積極的に取り組んで来ました。
災害等のリスクに対する備えについては、岡山県産業振興財団のセミナーに参加したのを契機にBCPの策定に取り組むことにしましたが、その過程でジギョケイについても知ることになりました。
岡山県のBCP認定と国のジギョケイ認定の両方を取得し、ジギョケイは更新して、2回目の認定も受けています。
カードゲーム訓練実施の経緯
同社では毎週1回、全員参加で30分の勉強会を実施しており、社員が輪番で講師を務めています。BCP・ジギョケイの訓練・教育についても、これまでは、この勉強会におけるテーマの1つとして実施して来ましたが、より充実させるため、2025年からは勉強会とは別建てで、3月11日、9月1日の年2回実施することにしました。
実効性を高める効果的な訓練のやり方について模索していたところ、中小機構中国本部から、2024年10月に広島でカードゲーム方式の訓練ワークショップを開催する旨の案内が届き、参加することにしました。
ワークショップには、宮脇社長とBCP担当の山下佳代氏が参加し、他の企業の参加者と一緒にグループを作り、初動及び発災翌日の状況が書かれたカードを基に、2回のカードゲームを行いました。初対面同士にも関わらず、積極的な意見交換によって、活気あるゲームが展開され、持ち帰って自社での次回の訓練に使ってみることにしました。
はじめての社内カードゲーム
2025年3月11日、社内にて、2時間のカードゲーム訓練を実施しました。
7名の社員を4名と3名の2グループに分け、宮脇社長と山下氏がファシリテーターとして、各グループに付きました。
使用した災害カードは地震と水害で、2グループでの重複については特に考慮しませんでしたが、結果として1つは地震、他方は水害と、別々の災害が選ばれました。
グループごとに選んだカードに書かれた状況を基に影響や対策について、各自で考えたことを付箋紙に書き、意見交換を行いました。
各グループでの検討結果は、発表者カードを引いた社員が発表しました。
初動対応と発災翌日の対応についての2回のゲームを行いましたが、ほぼ予定通り順調に進み、2時間で訓練が終了しました。
カードゲームをやってみて
初めて社内で行ったカードゲームについて、次のような感想が聞かれました。
- これまでも勉強会はやって来たが、皆で意見交換するような機会はなかった。各自の考えを出し合えるのは、カードゲームのよいところだと思う。
- 高台にある当社では水害のリスクは関係ないと思っていたが、お客様への配達中に起きたらどうするというような話が出て、皆がよく考えているのだなと思った。1人では気がつかないことも、皆で話すと出てくる。
- これまで研修などでBCP・ジギョケイについて学んで来たので、各自が付箋にいろいろ書けたのではないか。
- 電気・ガス・水道の全てが「×」のインフラカードを引いた時に、「どうしようもないよね…」と、有効な対策が出て来なかったが、すごく考えさせられた。
カードゲームは災害等の疑似体験を通して、個人単位でも深く考える材料になるし、その考えを皆で交換・共有することで、組織としての学習効果も高まり、リスクへの対応力を向上させる訓練ツールと言えるでしょう。
次回以降の訓練は
今後の訓練方法については、当面は今回好評で、効果も期待できるカードゲーム訓練を実施していくとのことです。将来的には、カードゲームのような想定シナリオが映像で流れるような訓練ツールを、自社で作成したいと考えています。
今後の取り組み
有限会社三協鋲螺は臨海部に位置しており、南海トラフ巨大地震では、2m程度の浸水が想定されています。最大の取引先である造船所をはじめ、地域全体でリスク対応に取り組む必要があると、宮脇社長は考えています。そのため、日ごろから周囲の企業にも、BCP・ジギョケイの重要性を伝え、策定を勧めています。
また、今後は連携型のジギョケイの策定にも取り組んでいく意向です。既に広島・京都・仙台の同業者に声をかけており、4社で連携する動きが進んでいます。「まずはできるところから始めて、将来的には近隣も含めて連携の輪を広げて行きたい」とのことです。地域や業界などでの事業継続力の向上に、リーダーシップを発揮していただけることでしょう。
【記事執筆者】
福泉 裕
独立行政法人中小企業基盤整備機構アドバイザー
中小企業診断士、1級販売士、防災士
素材メーカー勤務を経て独立。東日本大震災後、BCP指導者育成研修の運営を担当。以後、BCP(事業継続計画)や事業継続力強化計画の策定・運用をはじめ、中小事業者の強靱化支援を実施している。