事業継続力強化計画書を策定したいと考えた時、頼りになるのが都道府県や市区町村などの自治体です。多くの自治体では、事業継続力強化計画書やBCPの策定をサポートするための取り組みを行なっています。また、その中には事業継続力強化計画書やBCPを策定した企業に対して、ユニークな優遇措置をとっている自治体もあります。今回はその実例として、北海道庁の取り組みを紹介します。
北海道内で事業継続力強化計画書の策定が求められる背景
北海道は、平成28年8月17日から23日までの1週間に、観測史上初めて3つの台風が上陸し、道東を中心に大雨による河川の氾濫や土砂災害が発生しました。また、8月29日以降もたびたび記録的な大雨に見舞われました。
また、平成30年9月6日には、北海道胆振東部地震が発生。最大震度7のこの地震は、室蘭市の石油コンビナートや厚真町の火力発電所に火災を発生させたほか、電力や水道、通信関係などのライフラインにも打撃を与えました。
このような状況を受けて、北海道においても、事業継続力強化計画書やBCPの重要性が高まってきています。
北海道の事業継続力強化計画 認定状況
事業継続力強化計画の都道府県別認定数を見ると、北海道は認定件数905件で全国第9位です(中小企業庁調べ。2021年7月末時点)。認定数が多いのは、札幌市(241件)、旭川市(59件)、帯広市(59件)、北見市(49件)、函館市(44件)。道内179市町村のうち、1社以上の認定事業者が存在する自治体は128と、事業継続力強化計画を策定している企業が道内の広範囲に存在することがわかります(北海道経済産業局調べ。2021年7月末現在)。
認定された905件を業種別に見ると、「製造業その他」が580件(64%)と最多です。その内訳は、製造業42%、建設業37%などとなっています(北海道経済産業局調べ)。
計画策定推進のための取り組み(1)セミナー開催
北海道庁は、事業継続力強化計画やBCP策定を推進するために、ホームページや関係団体を通じたBCPの周知、手引きの作成、ビデオセミナーなどさまざまな取組を行っています。以下に、企業向けセミナー、防災・減災貸付、入札参加資格の加点の具体的な内容や、実施した際の反響などについて、北海道経済部地域経済局中小企業課の課長補佐(経営支援)・大嶋正嗣さん、経営支援係主任・山下真紀さんに聞きました。
北海道庁は、企業向けと市町村向けの2種類のセミナーを開催しています。企業向けのセミナーは、民間企業との協働事業として平成26年度にスタート。札幌市で行われた第1回目のセミナーには20名が参加しました。平成28・29年度も同様のセミナーを開催し、それぞれ約20名が参加。平成30年度には札幌市、苫小牧市、帯広などで5回のセミナーを開催し、最大60名ほどが参加しました。
「平成30年に北海道胆振東部地震が発生したことで、BCPや事業継続力強化計画の重要性がますます高まりました。北海道庁としても、セミナーの回数を増やし、BCP策定の手引きを作成するなど取組を強化しました。」(大嶋さん)
令和元年度は1回開催で参加者は35名。令和2年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で実施できませんでした。令和3年度は、北海道庁と北海道経済産業局共催、損害保険会社協力という形で、初のオンラインセミナーを5回実施しました。
市町村の事務担当者を対象としたセミナーは、北海道経済産業局との共催で令和3年度に2回開催しました。
「中小企業にとっては、市町村は最も身近な公的機関です。市町村の職員の方にも事業継続力強化計画についてより深く知っていただき、地元企業をきめ細かくサポートしていただければと考え、市町村向けのセミナーを初開催しました」(山下さん)
計画策定推進のための取り組み(2)防災・減災貸付
北海道では、「防災・減災貸付」として、BCPの策定などに必要な資金について、低金利で融資を受けられる制度を実施しています。例えば、BCPを策定して災害対策などを行う、あるいは事業継続力強化計画に係る防災設備などの整備を行う中小企業者は、事業資金として1億円以内の融資を受けられます。
この融資は、北洋銀行、北海道銀行などの地方銀行、信用金庫、信用組合など、北海道内のすべての金融機関で取り扱っています。申し込みは、商工会議所、商工会、北海道中小企業団体中央会、北海道中小企業総合支援センターで受け付けています。
計画策定推進のための取り組み(3)入札参加資格の加点
北海道の取り組みの中で特徴的なのが、建設工事の競争入札参加資格審査への加点です。入札結果は「技術点」「社会点」などの点数で判断されます。2021年度から新たに、事業継続力強化計画またはBCPを策定した中小企業が評価されることになり、社会点として10点が加点されます。
北海道では、建設工事の入札資格をもつ事業者のうち70社超が事業継続力強化計画またはBCP策定の認定を受けています。この件数は、建設業者の認定件数として、各都道府県と比較しても非常に多いです。(中小機構調べ)。
「加点を導入してから、事業継続力強化計画についての問い合わせが増えました。とくに建設業者において策定に取り組む企業も増えています。また、認定を受けた企業はホームページで公表できたり、認定ロゴを使えたりと、会社のPRや信用力の向上につながると考える企業が多いようです」(山下さん)
このように、全国の自治体が地元の中小企業に対してBCPや事業継続力強化計画の策定をサポートし、認定取得を推進しています。計画策定に関心や疑問をもった企業の方は、地元の自治体や商工会、商工会議所などに相談してみましょう。また、中小機構のサイトには無料の作成支援メニューがありますので、ぜひご活用ください。