いま考えておきたい停電のリスク
近年、地震や台風といった大規模な自然災害により、広範囲かつ長期間の停電が発生するケースが増えています。
記憶に新しいところでは2019年9月の台風15号により、上陸した千葉県内では多数の電柱や架線が損壊する被害が出て、最大約93万軒の停電が発生しました。特に送電設備に大きな被害が出たことで、復旧作業に想像以上の遅れが生じ、千葉県内の全戸に電力の復旧が完了したのは、停電発生から実に約2週間後のことでした。この停電の影響により、上水道設備がストップし、一時断水が発生。さらに通信網の障害により、連絡の取りづらい状況が続きました。
このようにひとたび停電が発生すると、日常生活はもちろん、業務にも大きな影響が出ることが考えられます。災害時、多くの企業が最優先に取り組むべき事項として従業員の安否確認を挙げていますが、停電するとパソコンが使用できなくなり、従業員への情報伝達が停滞するだけでなく、初動対応の遅れ、さらにその後の業務にも支障をきたすことが考えられます。
台風の影響による停電で、最大停電戸数時点からの停電戸数の経過時間を表したもの。このようにひとたび停電が発生すると通常は半日程度、想定以上の災害になると3〜5日程度続くことが予想される。2018年の台風21号は最大240万戸、2019年の台風15号は停電が長期間化した最たるケースである(出典:経済産業省 資源エネルギー庁 これまでの台風被害における停電戸数の推移より)
地震発生後、困ったことについて調査したアンケートによると、電力(照明、スマートフォンの充電)が圧倒的に多く、次いで飲料や食料、車両の燃料、トイレといった項目が続く。ここからも明らかだが、企業としてまず電力を確保することが、防災・減災対策の第一歩だと考えていいだろう(出典:北海道開発局 交通情報報告 10.地震発生後困ったことより)
緊急時の初動対応に必要な電気機器とは
では、企業として停電のリスクに備える対策とはどういったものがあるでしょうか。
企業が防災対策のために導入する設備といえば、設置型の発電装置や蓄電用システムといった大型の自家発電装置を想像しがちですが、発電量が大きいほど設備導入コストは高くなり、かなり大きな出費になります。
そこで、最初の段階では業務全般の電力供給を考えるのではなく、まず防災・減災対策の第一歩として、緊急時の初動対応に必要な最低限の電力、つまり従業員の避難完了までの対応や、会社でひと晩過ごす事態になった際の対応、また企業によっては防災対策本部の運営に必要な機器の電力に注目して考えるのがいいでしょう。
では、どういった発電機を購入すればいいのでしょうか。発電機をはじめとしたパワープロダクツの販売を手がけるホンダパワープロダクツジャパン新井 達氏に話を伺いました。
防災・減災対策の一環として、発電機を購入する企業が増えているそうですね。
「はい。これまでにも台風や地震が発生すると、発電機の引き合いが一時的に高まることがありました。さらに近年、2018年北海道胆振東部地震、2019年台風15号で大規模な停電が発生したことを受け、企業が防災対策として正弦波インバーター発電機(※)を準備しておこうという動きが、販売台数からも明らかになっています」
※精密機器やマイコン搭載機器での使用が可能な歪みの少ない電気を安定的に発電できる
どういった発電機を選ぶのがいいのでしょうか。
「停電が起こった際、どういった電気機器を使うのかということを先にイメージされたうえで、発電機を選んでいただくことをお勧めしています。たとえばスマートフォンの充電やパソコンだけ使えればいいというのであればエントリークラスのモデルでも十分対応できますが、オフィスや店舗などで容量の大きな電力や長時間の電力が必要な場合は、それに対応する発電機を選ぶことが重要です」
災害時、事務所やオフィスで使用する機器の例を下記に挙げてみました。
[照明]
デスクライトがあれば必要最低限の作業は可能ですが、投光器を一台用意しておくと室内を広範囲で照らせるようになり、日没後の作業にも役立ちます。また、トイレや非常用物資の保管場所など人の出入りが頻繁になる場所にもライトを設置しておく必要があります。
[通信機器]
固定電話、パソコン、Wi-Fiルーターなどオフィスにはさまざまな通信機器が設置されています。非常時は安否確認システムで情報を収集したり、離れた従業員に指示したりすることがあるため、通信環境を最優先に整えておくことが早期の初動対応につながります。
従業員が所持するスマートフォンのバッテリーがなくなると、安否確認システムが正常に機能しません。また、災害時に帰宅が困難になった場合、従業員が家族に連絡する手段としてもスマートフォンは欠かせないものになります。社内で過ごす時間が長くなることを想定し、バッテリーが充電できるスペースを設けておくことが必要でしょう。
建物内のオフィスは密閉空間であるため、エアコンを常時使用することが多く、停電によって空調が停止すると、かなり不快な環境に一変します。夏場はスタンド式の扇風機など使い、室内の風を循環させるなど、熱中症対策にも心がけておきたいものです。
起動電力を含む消費電力を算出する
緊急時に必要な機器をリストアップしたら、そこから消費電力を算出します。電気機器の電力には通常の消費電力のほかに、起動の際一時的に増加する起動電力があります。エアコンや冷蔵庫、電子レンジなどモーターを搭載する機器はこの起動電力が消費電力の1.5倍〜4倍程度必要なものがあります。合計の消費電力を算出する際は、必ず起動電力にも注目するようにしましょう。
機器によって消費電力と起動電力が異なっているのが分かる。
緊急時に使用する機器を決めておき、使用電力をあらかじめ把握しておくのがいいだろう
(出典:ホンダ 消費電力と起動電力の目安)
パソコンやスマートフォン、プリンターといったオフィスで使用する電子機器は、
消費電力と起動電力はほぼ同じである。
すべての機器を使用した際、どのくらいの消費電力が必要なのか事前に確認しておきたい
(出典:ホンダ オフィスにおける主な電気機器の使用例)
防災対策として準備する発電機とは
必要な消費電力を確認したら、次に対応する発電機を選びます。では、発電機を選ぶ際、どのような点に注意しておけばいいでしょうか。
「通常、消費電力が900VA(W)以下であればEU9i、2800VA(W)以下であればEU28isといった具合に、出力に応じたガソリンを燃料とする正弦波インバーターモデルをお勧めしています。ただ、ひとつ気をつけておかなければいけないのが、倉庫などに長期間放置する場合、キャブレター内から正しく燃料を抜かないと、その内部に残った燃料が空気に触れ、劣化が進むとエンジンがかからなくなることがあります。また、災害直後はガソリンが入手困難になることが考えられるので、いざ使用する時になって燃料がないという可能性があります。そこで、現在防災用として購入されるケースが目立つのが、カセットコンロのボンベで動く正弦波インバーター発電機(エネポEU9iGB)です。ガソリンの備蓄は難しい点がありますが、カセットボンベであれば保管が容易なうえ、比較的入手しやすいというのも決め手になっているようです。ただし、運転時間はガソリンに劣りますし、カセットボンベ発電機には出力のバリエーションがありません」(ホンダパワープロダクツジャパン木下憲司氏)
使用する出力や連続運転可能時間の違いなどに対応できるよう、ホンダパワープロダクツでは、さまざまなモデルをラインアップされています。
それぞれの事業者でどういったケースで発電機を使用するのかが異なるため、どのモデルが防災対策として適しているのかは、一概に言い切ることはできないとのこと。とはいえ、発電でカバーする機器の総消費電力、使用するシーンなどが分かれば、それにあったモデルが絞られるそうです。下記に代表的なモデルを紹介します。
中小企業でのオフィスのバックアップに最適な出力2800VA(W)のEU28is。
満タン(12.7L)時に出力2800VA(W)で使用した場合、約7.0時間の連続運転ができる
燃料にカセットボンベ(家庭用カセットガス燃料)を使用して発電できるエネポEU9iGB。
2本カセットボンベで出力900VA(W)で使用すると、約1.1時間連続運転ができる
エコカーを活用する新たな防災・減災対策
エンジンで稼働する発電機は、燃料(ガソリン)の管理、騒音への配慮、排気ガスの対策など、使用する場所や時間帯にどうしても制約があります。そこで、災害時の電力としてこのところ注目を集めているのが、プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)から電力を供給する方法です。
「Power Exporter 9000というモデルがありますが、これは電動車両の充電ポート(CHAdeMO:電気自動車の急速充電方式のひとつ)とPower Exporter 9000をケーブルで接続することで、最大9kVA(9000W)という大容量の電力を取り出すことができます(連続使用時間は車両の搭載する電池容量によって異なる)。EV車は非常に大きな電力を蓄えているので、小規模なオフィスや店舗の非常用電源ならほぼ問題なく使用できます。クリーン エネルギー自動車導入事業費補助金(CEV補助金)」の対象になっており、現在、自治体や企業などから非常に多くのお問い合わせをいただいております。」(ホンダパワープロダクツジャパン木下憲司氏)
社用車をプラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)に乗り換える(車両は事業継続力強化計画の税制措置の対象外ですが、国や自治体から補助金が交付されます)必要がありますが、車両に搭載しているバッテリーを非常用充電として活用するという考え方は、これからの防災・減災対策のひとつの選択肢として、取り入れたいものです。
今回取材に協力いただいたホンダパワープロダクツジャパンでは、企業や団体向けに発電機の導入相談を受け付けています。どのような発電機が自社の用途に適しているのか、といった悩みを抱えている人は、下記を参考にしてみてはいかがでしょうか。
ホンダ発電機導入相談窓口(企業・団体向け)
給電コネクターをEV車に接続し、Power Exporter 9000と接続するだけで、オフィスの電気機器が使用できる