台風による水害の被害額が過去最大に
地球規模の温暖化が進み、今後さらに世界の平均気温が上昇の一途を辿ると、気候変動の影響リスクが極めて高くなると予測されています。
そうした気温の上昇に伴い、台風は大型でかつ強い勢力になる傾向にあり、一年に何度も日本に接近または上陸したり、その影響によって局地的に短時間の豪雨が発生したりと、これまでの想像の域を超えた甚大な自然災害が起きるようになってきました。
また、経済の発展とともに人口密集地域が増えたことや、都心部では地下網が発展したこともあり、一度の水害で多くの被害が出るケースが増えています。
国土交通省が発表したデータによると、2019年(令和元年)の水害被害額は、全国で約2兆1800億円になりました。なかでも令和元年東日本台風による単一の被害額は1兆8800億円となり、津波以外の水害被害額としては、統計開始以来最大となっています。
(出典:国土交通省 令和元年の水害被害額[確報値]を公表より)
近年、国内でこれほど多くの水害やそれに伴う被害が発生している状況を鑑みると、私たちの身の回りにも水害が及ぶ可能性が十分考えられます。そこで、自社や自社周辺に水害のリスクがないか、またどのくらいの高さまで浸水する可能性があるのかを事前に把握しておきたいものです。下記のウェブサイトで、水害のリスクを確認できます。
自社の所在地や地域を選択することで、どの程度の水害リスクがあるのかを地図上に表示させて確認できる
もし付近の河川の堤防が決壊すると、どの地域がいつどのくらい浸水するのかの変化を、
アニメーションやグラフで見ることができる
事業者が取り組むべき自衛水防(企業防災)とは
先ほどのデータからも明らかなように、ここ数年自然災害が激甚化していることから、国や自治体では総合的な防災・減災対策に取り組んでいます。河川の耐震性強化や氾濫を防ぐための護岸補強工事、土砂の流出を抑制するための砂防えん堤、また都心部や住宅地では下水道の整備などといった対策が講じられていますが、残念ながらこれらをもってしても水害の根本的な対策にはなりません。
もしも自社の施設が浸水するとどうなるでしょうか。建物内の清掃に多くの人員が必要になるばかりか、設備のメンテナンス、調整等で時間や費用が想像以上にかかることが予想されます。最悪の場合、設備そのものを交換しなければならないこともあるでしょう。また、資材が浸水の影響を受ければ代わりを用意しなければならず、操業再開にはそれなりに時間がかかると思われます。そうならないためにも、事業者は何かしらの自衛水防(企業防災)を講じる必要があるでしょう。
下記のイラストは、都心部や住宅地における水害リスクを想定し、建物のドアやシャッター、地下施設の入口など開口部に設置できる止水対策の場所を示したものです。
それぞれの企業において、こうした建物に水の浸入を抑える設備を導入すれば、水害のリスクをかなり抑えることができます。
では、企業における自衛水防とは、どういう点について考えておけばいいでしょうか。防水シャッターや防水ドア、各種止水板を製造販売する三和シヤッター工業株式会社の防災建材支店 防災建材課長 木下順二氏に話を伺いました。
「企業の止水対策では、まず水害から何を守るのかを検討することが重要だと考えています。たとえば事務所において、従業員を避難するための最低限の対策であれば止水板の設置が有効ですが、工場や倉庫などにおいて資産のすべてを防衛するのであれば、防水シャッターを含む大規模な止水対策が必要になります。そのため、ハザードマップ上では2〜3メートルの浸水が想定されているものの、予算を考慮してまずは1メートルを守る止水板を設置するといった事務所様や店舗様も少なくありません。目安として、弊社の場合、防水シャッターや防水ドアは浸水の高さが最大3メートル、止水板は浸水の高さが最大1.5メートルを想定して設計されています」(木下氏)
平成30年西日本豪雨以降、止水対策に取り組む小規模事業者や中小企業が増えており、その多くが最低でも1メートルの止水対策をする事業者が増えているとのことです。
付近の河川が氾濫すると、ビルのエントランス(D,E)や通用口(C,B)、地下設備の入口(A,I)、ガレージ(F,H)といった場所に
浸水の危険があるため、防水シャッターや防水ドア、止水板など自衛水防対策をする必要があるだろう
(写真提供・三和シヤッター工業 株式会社)
浸水対策に有効な止水板の設置
水害発生時、あるいはその事前の止水対策として、土嚢(どのう)を積み上げる光景を思い浮かべるかもしれません。たしかに土嚢は一定の止水効果が期待できますが、平時の保管場所や長期間の備蓄による袋の劣化といった問題があるほか、設置する際は複数の人員が必要になるため、それなりに準備が必要になります。また、時間あたりの浸水量が多いため、長時間になると建物内に浸水する可能性が高くなります。再利用できず廃棄処分しなければいけないこともあり、事前に準備する防災対策としてはあまり現実的ではありません。
小規模事業者や中小企業が取り組む浸水対策として効果的なのが、防水シャッターや止水板です。建物の開口部や止水する高さによって予算が異なりますが、事業継続力強化計画(ジギョケイ)認定事業者であれば、60万円以上の建築附属設備を対象に税制優遇を受けることができます。前出した木下氏は、
「防水シャッターを設置する場合、建物の規模にもよりますが、平均予算は製品で約1000万円。建物を建築する際に併せて設備を導入する例がほとんどです。一方、止水板はBCP対策や事業継続力強化計画における防災・減災対策の取り組みとして、水害対策を強化したい事業者様から多くのお問い合わせをいただいております。価格は数十万円からラインナップしており、建物の入口に後から止水対策をしたい場合に最適です」(木下氏)
止水板には、主に以下のような種類があります。
・脱着式………主にアルミパネルを専用枠に差し込んでロックする
・簡易脱着式…主にアルミパネルを既存枠にセットする
・起伏式………床に埋め込んだ板を自動あるいは手動で起伏させる
・シート式 ……床下に収納した耐水シートを引き上げて設置する
・スイング式 …止水板を回転させて設置する
・スライド式 …止水板をスライドさせて設置する
[脱着式アルミ軽量防水板]軽量で持ち運びしやすく、ひとりで簡単に設置できる
○浸水高さ:350mm、700mm、1050mm○防水準備の目安:1人で3分○予算:95〜125万円(W2000×H700mm)
[シート式防水板(直線タイプ)]床下にシートを収納しておくため、保管場所が不要
○浸水高さ:500mm〜1200mm○防水準備の目安:1人で3分○予算:100〜130万円(W2000×H500mm)
[着脱式簡易アルミ防水板]自動ドアの既存枠を利用するため工事が不要。価格が手頃で導入しやすい
○浸水高さ:240mm、490mm○防水準備の目安:1人で3分○予算:20万円(W2000×H500mm)
開口部に止水板を設置する際は、建物自体が浸水を防ぐ構造になっているのか、メーカーや施工業者等に事前に確認する必要があります。
災害時、防水板をすぐに取り出せるよう資材や機器と別の場所で管理し、保管場所をあらかじめ決めておき、従業員で共有しておくことが大切です。また設置担当者、および補助の人員を決めておくと同時に、従業員全員が設置方法を把握しておくのが望ましいといえます。
水害が起きやすい地域の事業者は、自社の資産を守るうえで止水板の設置はとても有効な手段といえます。事業継続力強化計画を策定する際、対策事例に止水板の項目を盛り込むなど、より具体的な水害対策について考えてみることをおすすめします。