地震の発生は、多くの中小企業の事業継続に深刻な影響を与える場合があります。地震大国の日本で会社を守るには、地震対策のBCPを策定しておく必要があります。
この記事では、地震対策BCPの必要性や地震発生時の行動、企業の地震対策への取り組み事例などをご紹介します。地震対策BCPを策定する際の参考にしてください。
地震対策BCPの必要性
BCP(Business Continuity Planの略)とは主に災害時における事業継続計画を意味します。日本は地震が多い国なので、地震対策BCPを策定しておく必要があります。まずは過去の地震による被害内容や、今後起こる可能性がある地震の被害想定を確認しておきましょう。
過去の地震による被害
2000年以降に負傷者100名以上の被害を出した大地震は20回発生しています。1923年に発生した関東地震(関東大震災)では、やわらかい地盤に建てられた木造建築の倒壊と火災により被害が拡大しました。1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、建物の倒壊などによって人への被害が多く発生し、火災により建物が焼失しています。
2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、津波により人や建物などへの被害が拡大。2018年の北海道胆振東部地震では、日本で初めて大規模停電(ブラックアウト)が発生しましたが、火災の発生は2件でした。
このように過去の地震を振り返ると近年は事業所での火災が減少しています。耐震耐火性能が向上したことや、復旧時の作業方法の改善が理由と考えられます。しかし、北海道胆振東部地震では停電の影響で工場の稼働が停止し、全国的に牛乳が品薄になるなどの被害が起こりました。中核事業を継続させるためには、蓄電池や非常用発電の設備導入が重要と考えられます。
【参考】気象庁HP「日本付近で発生した主な被害地震」
これから起こる可能性のある地震の被害想定
今後高い確率で起こる可能性がある大地震は次の4つがあります。
- 南海トラフ地震
- 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震
- 首都直下地震
- 中部圏・近畿圏直下地震
南海トラフ地震は関東から九州の超広域で強い揺れと高い津波が起こるとされ、30年以内にM8〜M9クラスの地震が発生する確率は70%と予想されています。また、首都直下地震は南関東で30年以内にM7クラスの地震が発生する確率が70パーセントと予想されています。もし地震が発生した場合、首都中枢機能の被災が懸念されます。
また、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震は令和3年12月21日に巨大地震による被害想定が発表されました。最大クラスの地震と津波による3つのシーン(夏・昼/冬・夕/冬・夜)が想定されています。冬・深夜の場合、日本海溝モデルにおける津波による死者数は約199,000人、千島海溝モデルにおける津波による死者数は約100,000人です。津波からの早期避難や建物の耐震化などの防災対策を講じることにより、いずれも被害の8割を減少させられると推定されています。
【参考】内閣府HP「地震災害」
地震発生時の行動
大地震が発生したときにどのような行動をとればよいか、発生直後から復旧までの対応を規定しておく必要があります。緊急時に自分で命を守る行動を取れるよう、地震発生時の行動を周知しておく必要があります。
社員の安全確保
大地震が発生したときの社員の安全は、社員一人ひとりの自発的な行動に委ねられています。勤務時間外に大地震が発生した場合、会社からの指示があるとは限りません。そのため大地震が発生したときにどのように対応すべきか規定しておきましょう。震度4以下の場合は実害が少ないと考えられるため、実施基準は震度5弱以上(目安)の地震発生時としておきます。
また、対応事項も決めておきましょう。具体的には「身の安全を確保」「家族の安否確認」「会社への安否報告」などです。大地震が発生した際に、社員が初動から復旧活動まで行動できるよう手順を記載したカードを全社員に携行させるとよいでしょう。
自衛消防対応
社員が自身の身の安全を確保した後、初期消火・ケガ人の救助・被害の拡大防止や避難誘導する必要があります。緊急時主要連絡先一覧・消火設備・防護安全設備・避難ルートマップ・非常持ち出し品/金庫格納品リストなどを作成しておきましょう。消火設備の使用方法や応急処置方法なども日頃から確認しておく必要があります。自衛消防対応の主な実施事項は次の通りです。
- 事業所統括・役割分担
- 119番通報
- 初期消火
- 防護安全…電気設備、ガス等の安全装置など。
- 救助救護…負傷者を安全な場所に搬送、応急措置、病院への搬送。
- 避難誘導…従業員・来客の点呼、貴重品の持ち出し、金庫格納。
初動対応
自衛消防対応後は、役割を分担して初動対応をおこないます。初動対応は主に3つに分けられます。
- 状況把握
- 組織による安全確保
- 地震によって発生する特別対応
それぞれの対応事項を確認していきましょう。
1.状況把握
社員の身の安全が一定確保された段階で、可能な限り詳細な状況把握をおこないます。安否確認は休日中の従業員も含めて全従業員を確認し、各事業所は本社へ報告をおこないます。職員連絡先リスト兼安否確認表や事業所状況確認シートを使用して災日当日中か翌朝までには対応しましょう。対応事項は以下の通りです。
- 全体統括・役割分担
- 安否確認
- 被災状況確認…被害状況を確認し、二次災害防止措置を講じます。
- 事業所状況確認
2.組織による安全確認
事業所を統括する本社は、全事業所・全従業員の安否や被害情報集約、統括を地震発生直後から発災日翌朝〜1週間以内を目安におこないます。実施基準は震度6弱以上の地震発生時ですが、震度5強以下の場合でも状況把握の結果、会社をあげて対応する必要があると社長が判断した場合は対応を実施します。対応事項は以下の通りです。
- 全体統括・役割分担
- 職員等支援…備蓄品の配布、帰宅・出社判断をおこないます。
- 設備の復旧手配
- 地域周辺対応…被災した地域住民の受け入れなど地域貢献をおこないます。
3.地震によって発生する特別対応
大地震発生後は建物や道路などが被害を受けて多くの情報が入ってきますが、地域の災害復旧活動を始めるには緊急輸送ネットワークの確保が重要な課題となります。行政などからの要請に迅速に対応できるよう、備えておく必要があります。
対応の目安は地震発生直後から発災日翌朝〜1週間以内です。実施基準は震度6弱以上の地震が発生したとき、または震度5強以下の場合でも、状況把握の結果、会社をあげて対応する必要があると社長が判断した場合は対応を実施します。対応事項は以下の通りです。
- 全体統括・役割分担
- お客様への第一報…安否・被害情報の連絡、連絡先案内など。
- 業務関連情報の収集…地震の概要、行政による支援情報など。
- 災害広報
復旧対応
初動対応が一定落ち着けば、日常業務の復旧に着手が必要です。しかし大地震によってヒト・モノ・システムなどの経営資源が満足に揃わないため、業務に優先順位をつけて優先度の高い業務に経営資源を集中投入する対応が求められます。本社機能と事業機能に分けて規定します。
本社機能
本社機能の復旧には、人事・総務・システム・財務に関連する対応事項を優先業務とします。対応主体別の対応事項は以下の通りです。
- 財務…資金繰り
- 人事…給与支払い
- 総務…建物・什器備品の復旧
- システム…システムの復旧
事業機能
事業機能の復旧対応において何が重要業務にあたるかは、地震により発生する被害状況等に応じて判断することを原則とします。社会インフラが一定復旧後〜2週間以内が目安です。対応主体別の対応事項は以下の通りです。
- 総務…システム復旧作業、建物・什器備品の復旧、車両の損傷状況確認
- 営業…社会情勢の把握、マーケット状況の把握
また、必要に応じて調達品等の供給状況の把握、在庫状況の把握などの対応が求められます。
平時の備え
地震による被害をできるだけ少なくするためには、自助の意識で従業員一人ひとりが取り組むことが重要です。日頃から災害への対策を検討し、防災の取り組みをおこないましょう。
職場の安全対策
地震による強い揺れは、オフィス家具の転倒や落下を引き起こす恐れがあります。背の高い大型キャビネットは壁などに固定する、パソコンは転倒防止ベルトで机に固定する、ガラスには飛散防止フィルムを貼るなど、オフィスの安全対策をおこなっておきましょう。データのバックアップも定期的におこなっておくことをおすすめします。
避難経路の確認
いざというときに安全な場所に避難できるよう、ハザードマップを見て避難場所や避難経路を確認しておきましょう。また、避難経路に転倒しそうな什器を置いておくと避難の妨げになる恐れがあるため、置かないようにしておきましょう。
安否確認の連絡方法を決めておく
災害発生時は連絡がつきにくくなります。外出先で被災した場合の安否確認の方法を複数導入しておくと安心です。
非常用物品の備蓄や持ち出し品の確認
地震の発生でライフラインや交通機関が停止した場合、帰宅困難になる従業員も出てきます。食料や水、毛布、医薬品などの備蓄が必要です。水は断水に備えて3日分は用意しておきましょう。また、必要最低限持ち出すものも内容を確認しておきましょう。
防災訓練の実施
地震が発生したときに身の安全を守るための行動を取れるよう定期的に防災訓練を実施しておきましょう。防災教育だけでなく、習得した知識を実際に使えるようにイメージトレーニングしておくことが重要です。共同ビルの場合は管理会社や他のテナント各社と防災計画の情報交換や地震発生時の役割分担をしておくとよいでしょう。
地域との連携
過去に発生した大地震では、企業や事業者が災害後の人命救助や復旧活動に力を発揮しています。大地震が発生すると被害が広範囲に広がるため、周辺企業や地域住民との共助が重要です。地域の防災訓練にも参加し、日頃から災害時の協力体制について話し合っておきましょう。
火災・地震保険の加入や見直し
地震が原因の火災は火災保険で補償されないため、地震保険に加入しておく必要があります。地震後の再建に資金が不足し、事業継続が困難になる企業も多いため、地震保険への加入や見直しを検討しておきましょう。
企業の地震対策への取り組み事例
企業の地震対策への取り組み事例をご紹介します。熊本県の熊本南工業団地は、鋳鉄鋳物関連10社でスタートし、現在は18万平米の敷地に多様な業種24社で形成されています。敷地内でガソリンスタンドを経営し、団地内の道路やインフラ整備・管理もおこなっています。
平成28年の熊本地震では全体で30億円近い被害を受け、団地内の工場だけでなく組合が管理する道路や水道管も被災しました。企業1社の力は小さくても団地全体では700人以上の従業員がいるため、力を合わせると大きな力になると思い連携事業継続力強化計画を策定。熊本地震の経験から連携して災害対応にあたることの重要性を切実に感じ、組合内企業の連絡体制を整備しています。災害時は素早い復旧に向けての情報収集や修繕の担当を決める体制づくりを整え、被害の影響を最小限に抑えて地域への貢献を目指しています。
工業団地はさまざまな業種で構成されているため、それまでは企業間の交流が少なく、希薄な関係だったとのことです。連携事業継続力強化計画に取り組むことで活発にコミュニケーションが取られるようになり、災害時の協力や連携という共通認識が持てるようになりました。令和2年の大型台風や新型コロナウイルス感染拡大時もさまざまな情報交換ができて連携の効果を発揮したそうです。
また、連携事業継続力強化計画の認定を受けたことでロゴマークを使用できるようになったため、各企業はサプライチェーンへのアピールができるようになり、取引先に安心感を与えられるようになりました。共同でガソリンスタンドを経営していることで燃料への心配はないものの、今後は共同で自家発電設備の導入や、非常食の備蓄を揃えるなどの検討を進めていきたいとのことです。
【参考】熊本南工業団地協同組合|BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう
地震対策BCPの策定なら中小機構にご相談ください
大地震はいつ発生するかわかりません。緊急時に中核となる事業の継続・早期復旧を図るためには、事業継続計画を策定しておく必要があります。また、防災・減災対策に焦点を絞り従来のBCPより簡単に取り組める簡易版BCPとされている事業継続力強化計画があります。BCP(事業継続力強化計画)の策定なら、中小機構にご相談ください。
全国9ヶ所に地域本部を設けていますので、BCPの策定に二の足を踏んでしまっている方をお近くでサポートします。
相談窓口|BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう