策定してよかった! 事例からみる「事業継続力強化計画」

2021.10.18全般

1.はじめに

「事業継続力強化計画」をご存じでしょうか。多くの経営者の方々は、BCP(事業継続計画)をご存じでも、「事業継続力強化計画」はご存じないかもしれません。また、比較的知名度のあるBCPですが、その策定率はいまだに低く、日本全国の中小企業・小規模事業者のうち、2~3割の策定に留まっていると言われています。

さて、「事業継続力強化計画」に話を戻します。この計画は、わかりやすく言うと「簡易版のBCP」といえるものです。自然災害や感染症などのリスク発生に備え、企業が防災・減災を図り、ヒト・モノ・カネ・情報といった重要な経営資源が毀損(きそん)することを想定し、事業を早期復旧、継続するために事前に策定する実践的な計画です。

事業継続力強化計画の策定企業数は、約30,000件(令和3年7月末時点)です。多くの企業の皆様が取り組まれていますが、日本全国の中小企業・小規模事業者が約358万者(2016年時点)であることを考えると、今後の取り組みが期待されます。

今回のコラムでは、事業継続力強化計画モデル事例(経済産業省関東経済産業局ホームページ掲載事例)について、企業の皆様が事業継続力強化計画に取り組んだ「きっかけ」から、策定後に企業内外で起こった「変化」まで、計画策定の取り組みをご紹介したいと思います。

2.事例企業の概要

事例では、従業員数30名以下の比較的小規模の事業者から100名以上の中小企業まで、さまざまな企業が紹介されています。業種は、製造業、卸売・小売業、宿泊業・飲食サービス業、その他の業種の4つの業種別に紹介されています。

3.事業継続力強化計画に取り組むきっかけ

  • 被災経験から取り組むことにした
  • ものづくり補助金の加点項目になるので取り組むことにした
  • その他の理由(取引先の要請、他社の被災経験を聞いて、BCPの見直しのため、など)

最も多かったのは、「過去に実際に災害を経験して事前の対策の重要性を認識した」、というものでした。やはり実体験に勝るものはない、ということと思います。

次に多かったのは、ものづくり補助金の加点になるために取り組むことを決めた、というものでした。ものづくり補助金(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業・小規模事業者が革新的なサービス開発や生産プロセスの改善等のために実施する設備投資等の支援策です。ものづくり補助金を通じて、企業が経営力強化や経営改善に取り組むことになりますので、事業を継続することが大前提となります。事業継続力強化計画を策定し、災害等で事業がストップしないように準備することで、より経営が盤石となる効果が期待できます。

これらの事例から、きっかけは別にあっても、計画を策定する段階で事業リスクを認識して、事前の対策を立てることの重要性を認識した企業が多いことは、注目に値します。

4.リスク想定

  • 地震を想定した企業  10社
  • 水害を想定した企業   8社
  • 感染症を想定した企業  2社

対象とした想定リスクは、掲載されている10社中で、地震が10社、水害が8社、感染症が2社ありました。複数リスクを想定されている企業が多いですが、地震を想定されている企業が最多でした。やはり地震大国の日本の企業にとっては、最も身近で最も対策が必要な災害として認識されていると言えます。

近年激甚災害化している豪雨による河川の氾濫や土砂災害等の水害に着目している企業が多いのも、特徴的です。令和2年度版国土交通白書によると、土砂災害の発生件数は2010年以降、それ以前の20年間に比べて年間発生件数が1.5倍に増加している、とのことです。つい最近起こった令和3年7月伊豆山土砂災害の痛ましい被害をはじめ、近年各地で発生している河川氾濫、土砂崩れなどの頻発により、企業の皆様が水害をリスクとして重要視している表れと思います。

最後に感染症です。本事例は令和2年度の報告ですので、若干事例が少ないように見えますが、感染症により事業継続の危機に瀕している企業が多い状況を鑑みると、今後は事例が増加するものと思います。

5.計画策定方法

  • 専門家の支援を受けて策定した
  • 中小企業庁の手引き等を参考にして策定した

企業の皆様は、事業継続力強化計画をどのように策定されているのでしょうか。本事例では、専門家等の策定支援を受けられている企業と、中小企業庁の手引き等を参考にご自身で計画を策定された企業が、おおむね半々でした。中小機構が開催しているワークショップへの参加やハンズオン支援で専門家等からの支援を受けつつ、中小企業庁の手引きを参考にしながら経営者ご自身で策定されている事例もありました。

(お役立ち情報)

中小機構では、令和3年度の事業継続力強化計画策定に関する以下のご支援メニューをご用意しています。

1)実践セミナーおよびマンツーマンサポートのご案内
①実践セミナー
4時間の実践セミナーで、ゼロから認定申請レベルまで、事業継続力強化計画の策定をサポートします。(無料)
②マンツーマンサポート
専門家が御社を訪問して、計画策定から認定まで丁寧にサポートします。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。(無料)
https://kyoujinnka.smrj.go.jp/seminar_handson/
2)事業継続力強化計画をご自身で策定する方へ
ご自身で事業継続力強化計画の策定を取り組む方に向けて、計画策定の手引きの解説書をお用意していいます。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
https://kyoujinnka.smrj.go.jp/guidance/make_plan_sole.html

6.事業継続力強化計画の策定を終えて変化したこと

【意識や評価の変化】

  • 従業員に対して災害対策についての意識啓発ができた
  • 関連会社から取り組みが評価された
  • 社内の意識が高まり安否確認システムを導入できた
  • 金融機関の信用が向上した

【行動の変化】

  • 月1回対策内容や各々の役割確認を実施するようになった
  • 危険予知訓練(KYT)を実施するようになった
  • あえて在庫を増やして、災害時にも部品供給が継続できるようにした
  • 多能工化を実現した
  • 火災保険を見直した

事業継続力強化計画を策定したことで、事例企業ではさまざまな変化が起きているとのことです。意識や評価の変化としては、社内のリスク意識の向上や関係先からの評価向上等の変化が起きている事例が紹介されています。また、実際の行動にも変化が起きており、各自の役割確認や訓練の実施、災害時を想定した多能工化、保険の見直しなどを行う事例が紹介されていました。

企業によって計画策定後の変化はさまざまですが、災害時の備えだけでなく、平時の経営改善にもつながる喜ばしい変化が起こっている事例が多いようでした。

7.さらなる防災・減災に向けて

  • クラウドの導入
  • 自家発電の導入
  • サービスの質を保つことができる仕入先や、外注先の複数確保
  • 危機管理マニュアルの作成
  • 被災時の地域住民の受入れ体制構築
  • 関連会社との情報共有
  • 本社移転検討
  • 年間に複数回の避難訓練実施
  • 排水ポンプ導入
  • さまざまな災害に備えた避難方法や対応方法の検討
  • コミュニケーションアプリの制作

事例企業では、事業継続力強化計画策定を修了した後もさらなる対策を検討している例が多くみられました。自家発電、排水ポンプといった災害対応機器の導入、クラウドやアプリ開発といったIT関連対応、避難方法の検討や訓練の実施といった体制整備など、企業の事業内容や想定リスクによってさまざまです。さらに仕入先、外注先の確保や関連会社との情報共有といった自社だけでは解決できない問題への対応策を検討している企業もいらっしゃいました。

8.おわりに

今回は公開されている事業継続力強化計画の策定事例について、いくつかの切り口でご紹介しました。きっかけ、取り組み状況、策定後の状況など、各社さまざまですが、多くの企業が、事業継続力強化計画策定をきっかけに、事業活動を継続する能力の強化(強靱化)を実現していることがわかりました。

企業の皆様には、ぜひ今回のコラムをきっかけにしていただき、事業継続力強化計画策定に取り組んでいただきたいと思います。

本コラムでご紹介した事業継続力強化計画モデル事例は、経済産業省関東経済産業局の以下のサイトに掲載されていますので、ぜひご覧ください。
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/chushokigyo/kyojinka/keizokuryoku_jirei/kyokakeikaku_model_jirei.html

【プロフィール】

猿川 明 独立行政法人中小企業基盤整備機構アドバイザー
中小企業診断士、気象予報士、防災士

一般社団法人板橋中小企業診断士協会で、板橋区簡易型BCP策定支援事務局リーダーとして従事。9年目を迎える事業を統括するとともに、区内外にて、BCPや事業継続力強化計画策定支援など、中小企業の皆様が事業を継続する力を獲得できるようご支援中。

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