BCP(事業継続計画)を策定しておけば、自然災害などで被災した際の被害を最小限に抑え、早期に復旧できる可能性が高まります。しかし、BCPは意味がないと思っている人がいることも事実です。実際、自社でBCPを策定すべきか悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。
この記事ではBCP策定には意味がないと言われる理由や、BCPを策定するメリット、策定の進め方などを解説します。緊急時の対策をしておけば、企業の信頼性を高めることにもつながるので、ぜひ参考にしてください。
BCP策定は意味がないと言われる理由
BCPを策定する企業が増えている一方、BCP策定は意味がないという声も上がっています。確かに有事の際に実現不可能な計画を策定するのであれば無意味といえるでしょう。または他社の策定事例をそのまま参考にするなど形だけのBCPを策定しては、未曾有の危機に直面した際に機能せず、意味がないものとなってしまうでしょう。
BCPは緊急事態に起こり得るさまざまなリスクと被害を想定して、自社の事業に合わせて対策を講じておくことが重要なポイントです。自然災害などに見舞われた際に受ける莫大な損失を考えれば、BCP策定は決して意味がないことではありません。
BCPが推進されている背景
BCPは1970年代にアメリカやイギリスで始まり、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロをきっかけに全世界に広まりました。その後、日本では2011年の東日本大震災をきっかけにBCPへの関心が高まり、普及率が上がり始めました。
近年は大地震や大型台風、豪雨などの自然災害が多発し、多くの企業が事業縮小や倒産を余儀なくされています。また、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、多くの企業が危機的な状況に陥りました。
不測の事態が発生した場合、事業の一部または全部を停止せざるを得なくなる可能性があります。しかしBCPを策定しておけば、緊急事態が起こった際に適切な初動対応ができるため、損害を最小限に抑えられます。大企業に比べて中小企業は策定が進んでいない傾向がありますが、中小企業は想定外のことが起こると倒産や廃業のリスクが高いため、BCPを策定してリスクに備えることが重要です。
BCP策定のメリット
BCPを策定することには、主に次のメリットがあります。
緊急事態への対応力が高まる
大規模災害など緊急事態が起こったとき、BCPを策定していれば早期復旧に向けて速やかに対応できます。BCPを策定する段階で自社の業務フローや想定されるリスクが浮かび上がるため、事前の対策を講じておけばダメージを最小限に抑えられます。
損害の最小化を図れる
災害はいつ起こるかわからないため、緊急事態が発生した際の対策を講じていなければ冷静さを失って的確な判断ができない可能性があります。BCPを策定しておけば、危機的状況に見舞われたときも適切に初動対応できるため、損害の最小化を図れます。平時から災害などに備えておくことで、混乱を早期に回復して事業継続性が高まります。
顧客からの信用度が高まる
大きな災害に見舞われ、製品を供給できなくなれば、取引先からの信用を失ってしまいます。BCPを策定している企業は緊急事態が発生したときも商品やサービスの供給や提供の継続性が高いため、取引先や顧客からの信用度が高まります。有事の際に対処できるようBCPを策定してしっかり準備していることは取引先からの大きな信頼につながり、企業イメージが向上します。
日本は自然災害が多い国なので、今後大企業は取引先を選定する際にBCPを策定していて事業継続性が高い企業を優先する可能性も出てきます。BCPを策定することは、大企業だけでなく中小企業にとっても大きなメリットになるでしょう。
認定を受けた中小企業は税制優遇などの支援が受けられる
BCPの策定が必要とわかっていても、資金面や人員不足がネックとなって対策がおこなえない中小企業や小規模事業者は少なくありません。そこで令和元年に「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」が施行され、「事業継続力強化計画認定制度」が創られました。
この制度は中小企業が事業継続力強化計画を策定して経済産業大臣から認定を受けると、税制優遇や補助金の加点などさまざまな支援施策が受けられるというものです。具体的には次の4つの金融支援策が活用できます。
- 日本政策金融公庫による低利融資
- 信用保証枠の追加
- 防災・減災設備への税制優遇
- ものづくり補助金などの助成金の優遇措置
また、認定をうけた企業は中小企業庁のホームページで企業名が公開され、認定ロゴマークを使用できるようになります。認定を受けていることで被災時の事業継続性が高いと判断されるため、新規取引先の開拓や、既存取引先への信頼度アップにつながるでしょう。
BCP策定の進め方と留意点
BCPを策定する際は、自社が実現可能な計画を策定することが重要なポイントです。ここからは、中小企業庁のホームページに掲載されているBCP策定運用指針の「3.平常時におけるBCPの策定と運用(基本コース)」に沿って、BCPの策定と運用の手順に沿って、BCP策定の進め方と留意点をご紹介します。
STEP1.事業を理解する
緊急事態が発生した際は、限られた人員や資材で事業を継続させていかなくてはなりません。そのため、まずは会社の中核となる事業(以下、中核事業)を特定することが重要です。会社の売上にもっとも貢献している重要性の高い事業、または緊急性の高い事業を見極めることで優先して製造すべき商品や提供すべきサービスを判断できるため、収益の安定化や復旧の効率化が見込めます。重要と思われる事業を挙げ、財政面・顧客関係面・社会的要求面から優先順位をつけていきましょう。
また、緊急事態が発生した際の復旧時間の目標設定も必要です。取引先の許容時間内に復旧を終わらせる必要があるため、日頃から取引先と有事の際のことを確認し合っておくとよいでしょう。
加えて、中核事業が災害によってどの程度影響を受け、事業の継続にどのくらいの支障をきたすか把握しておくことも重要です。災害ごとに中核事業の継続に必要な資源を目標復旧時間内に回復させられるか、させられないか区別します。回復させられないものについては代替資源をどのように確保するか検討が必要です。
財務状況についても分析しておきましょう。自然災害などに被災した場合、復旧にかかる費用や事業の中断による損失を概算で出しておきます。操業停止に耐えられるだけの資金の確保や損害保険への加入などの対策が必要か判断しましょう。
STEP2.BCPの準備、事前対策の検討
緊急事態発生時、中核事業の継続に必要な資源が被災した場合の代替策を検討します。事業の継続に支障をきたす要素(ボトルネック)には以下のようなものがあります。
- 施設・設備
- 人員
- 資金
- 原材料
- 通信手段・各種インフラ
- データ
これらの中から災害時の復旧や確保が難しいものについては優先的に対策をおこなっておきましょう。また、中核事業が影響を受ける可能性が高い災害や資源に対して事前の対策を検討しておくことも必要です。たとえば事業所の耐震化、防災設備の導入などが挙げられます。
STEP3.BCPの策定
BCPをいつ発動すればいいのか決めていなければ有効に機能しないため、発動基準を明確にしておきます。発動基準を設定しておけば、各自が迅速に対応できるため、目標復旧時間内に中核事業を復旧させられる可能性が高まります。BCPの発動基準は企業によって異なりますが、中核事業に甚大な被害を与える可能性がある災害とその規模に基づいて発動基準を設け、従業員が判断に困らないようにしておきましょう。
また、BCP発動後の体制を明確にするため、以下の機能を持つチームを構成してリーダーを配置し、チームリーダーへは社長などが指揮命令をおこなうのが望ましいでしょう。
- 復旧対策…施設・設備の修理、資源の調達など
- 外部対応…取引先や資源の調達先など外部の人との連絡や調整
- 財務管理…修理費、保険金などの資金の調達や各種決済
- 後方支援…従業員の参集、食料品の手配、負傷した従業員の対応など
STEP4.BCP文化の定着
緊急事態が発生した際、BCPを確実に運用できるようにしておかなくてはいけません。BCPの運用は継続していくものなので、BCP文化として定着させる必要があります。そのためには従業員に周知し、教育や研修をおこなっておくことが重要です。各自の役割を認識してもらい、定期的な訓練を実施することが望ましいでしょう。
STEP5.BCPのテスト、維持・更新
BCPは策定したらそれで終わりというわけではありません。情報が古くて役に立たなかったということがないよう常に最新の状況が反映したものに更新しておく必要があります。たとえば会社の組織体制が変わったときや、取引先に変更があった場合などは更新しておきましょう。また、従業員の安否確認ができるように、連絡先の変更があった場合は会社に申し出るよう徹底し、手順を明確にしておきましょう。
まとめ
「BCPは意味がない」と言われることがあるのは、自社で実現可能な計画にできていないことや、緊急事態に起こり得るさまざまなリスクや被害を詳細に想定していないことが原因です。BCPを策定しておけば、緊急事態が発生しても早期復旧に向けて対応できるうえに、事業継続能力がある企業として顧客や取引先からの信頼度が上がるでしょう。
BCPと聞くと分厚いマニュアルを想像し、策定に二の足を踏むことも理解できます。そこで中小企業庁が用意したのが、事業継続力強化計画です。事業継続力強化計画は、防災・減災対策に焦点を絞るため、従来のBCPより簡単に取り組むことができます。計画を作成することで、公的な支援を受けられることや、認定ロゴマークが使えるなどのメリットがあります。
いきなり作成といっても何から手を付けてよいかイメージが沸かないかもしれませんので、まずはこちらの申請補助ツールを使って必要な情報を整理するところから始めてみましょう。