BCP策定のメリット
BCPとは、企業が自然災害などの緊急事態に遭遇した場合において、損害を最小限に抑えつつ、中核となる事業の継続や早期復旧を可能にするために策定しておく計画のことです。
BCP策定による主なメリットを4つご紹介します。
メリット① 緊急事態への対応力が高まる
BCPの策定は、緊急事態への対応力が高まるメリットがあります。予測不能な緊急事態が発生したときは混乱が生じるため、平常時のように冷静な判断ができなくなります。非常時のための備えをしておかなければなおさらです。
しかし、緊急時は初動対応が非常に重要です。平常時にBCPを策定していれば、緊急事態が発生したときに指示する人や、誰がどのような行動をとるか具体的に決めているので、人命確保に向けた取り組みや、早期復旧に向けた迅速な対応が可能です。
ただ、BCPは策定したら終わりではありません。緊急事態に従業員が有効に活用できるよう、日頃から教育や訓練を実施し、BCPや防災に関する意識を高めておくことが、緊急事態の対応力につながります。
メリット② 損害の最小化を図れる
大規模な自然災害などが発生したときに、損害の最小化を測れることもBCP策定のメリットです。BCPを策定する際は、優先して継続・復旧すべき中核事業を特定します。大地震などの緊急事態が発生したときはどの企業も操業率が大きく落ちますが、何も対策をとっていない企業は事業の復旧が大きく遅れ、事業の縮小を余儀なくされたり、最悪の場合は廃業に追い込まれたりする恐れがあります。
しかし、BCPを策定している企業は緊急事態が発生したときに適切な初動対応がとれるため、損害の最小化を図れて中核事業の維持や早期復旧が可能です。
メリット③ 顧客からの信用度が高まる
大災害などによってサプライチェーンが滞ると、自社だけでなく取引先にまで被害が及びます。BCPを策定して有事に備えておけば、顧客や取引先、株主からの信用力が向上し、企業価値が高まるでしょう。
非常事態が起こったときの対策を何もしていない企業との取引にはリスクがあります。緊急事態なので事業が中断してもやむを得ないという考えは、今後通用しなくなっていくことも考えられます。取引先を選定する際、他の条件がほとんど変わらなければ、BCP対策をしている企業が優先されるのは当然のことといえるでしょう。BCPを策定することによって顧客からの信用度が高まるだけでなく、新規顧客の獲得にもつながる可能性があります。
メリット④ 税制優遇などの公的支援が受けられる
中小企業や小規模事業者がBCPを策定する前に取り組みやすい制度として、令和元年7月から「事業継続力強化計画」の認定制度が始まりました。事業継続力強化計画はBCPに比べると簡略化されているため、簡易に作成可能です。事業継続力強化計画を作成して経済産業大臣の認定を受けた中小企業は、税制優遇などの公的支援が受けられます。
低利融資、信用保証枠の拡大等の金融支援
事業継続力強化計画を作成して認定を受けた中小企業は、次の4つの金融支援を受けられます。なお、これらの金融支援を活用する場合は、事業継続力強化計画の認定を受ける前に関係機関に相談が必要です。該当しても必ず融資などが受けられるわけではありません。
- 日本政策金融公庫による低利融資
事業継続力強化計画の認定を受けた事業者は、設備投資に必要な資金を基準利率から0.9%引き下げの低利融資を受けられます。融資を受けるには、別途日本政策金融公庫の審査が必要ですが、内容によっては事業継続力強化計画に記載された設備以外の設備資金も対象になる場合があるため、相談してみましょう。
- 中小企業信用保険法の特例
中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が保証人となって融資を受けやすくなるようサポートしてくれます。事業継続力強化計画の認定を受けた企業が金融機関から融資を受ける際は、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等(通常枠)とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
基本的には事業継続力強化計画に記載されている内容になりますが、記載があれば設備投資に限らず、事業資金でもその対象になる可能性があります。
- 中小企業投資育成株式会社法の特例
中小企業投資育成株式会社とは、中小企業の自己資本充実を促進し、投資等で中小企業の健全な成長を支援する機関です。地方自治体や金融機関などが株主です。
中小企業投資育成株式会社法では、通常の投資対象が資本金3億円以下の株式会社という条件ですが、事業継続力強化計画の認定を受けた企業は資本金に関係なく中小企業としての人数のみが投資対象の条件になります。たとえば製造業であれば300人以下、卸売業であれば100人以下などです。返済義務はないため、中小企業が資金調達しやすい制度といえます。
- 日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット
スタンドバイ・クレジット制度による信用状の発行を通じて、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業者(国内親会社)の海外支店または海外現地法人による現地流通通貨での資金調達の債務の弁済を保証する制度があります。
防災・減災設備に対する税制措置
事業継続力強化計画の認定を受けた事業者は、認定計画に記載した対象設備について、取得金額の20%の特別償却を受けられます。税制優遇を受けられるのは、計画の認定を受けた日から同日以後1年を計画する日までに取得し、事業に使用した場合です。
原則として当期に取得価額の20%が追加で償却できるため、利益を少なく計上できて納税額を節約できます。なお、令和5年4月1日以後に取得する対象設備に関しては、18%の特別償却となっています。
補助金(ものづくり補助金等)の優先採択
事業継続力強化計画の認定を受けた事業者は、ものづくり補助金など一部の補助金の審査の際に加点を受けられます。ものづくり補助金とは「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略で、中小企業・小規模事業者などが今後複数年にわたり直面する制度変更(働き方改革、インボイス導入など)に対応するため、経営革新のための設備投資などに交付される補助金です。補助金の金額は事業類型によって異なりますが、中小企業にとって使いやすいうえに補助額も大きいです。
連携をいただける企業や地方自治体等からの支援措置
損害保険会社、共済団体は中小企業庁と連携して防災・減災対策に取り組む事業者を応援する取り組みをおこなっています。たとえば事業継続力強化計画の認定を取得した事業者のリスク実態に応じて保険料や共済掛金の割引などをおこない、事業継続力の強化を後押ししてくれます。活用するにはご契約中の保険会社や各社窓口にお問合せください。
中小企業庁HPでの認定を受けた企業の公表
事業継続力強化計画の認定を受けた事業者は、中小企業庁のホームページに「事業継続力強化計画認定事業者・連携事業継続力強化計画認定事業者」として、企業名とホームページURLが掲載されます。
被災時の事業継続性が高いと判断されるため、顧客や既存取引先からの信用が高まり、新規取引先の獲得にもつながるでしょう。
認定企業に活用いただけるロゴマーク
事業継続力強化計画の認定を受けた企業は、広報活動や営業活動に認定ロゴマークを使用できます。ホームページに掲載したり、名刺やパンフレットなどに使用したりすることで信用力の向上につながるでしょう。
他にもある意外なメリット
BCPの策定は、大規模な自然災害などの緊急事態が発生した場合に損害を最小限に抑えられるという直接的なメリットだけでなく、平時においてもメリットがあります。
BCPの策定で得られる意外なメリットをご紹介します。
自社の強みが見えるようになる
BCPを策定する過程において自社のさまざまな業務を洗い出し、優先すべき業務を特定します。自社の弱みとなる部分がわかるとともに、強みも把握できるため、経営戦略を見直せます。BCPへの取り組みは、弱みを克服し、強みを伸ばすことにつながるでしょう。
また、自社の経営の実態を把握できたり、業務フローや業務体制の改善点に気づいたりできるため、業務改善につながるなどのメリットもあります。
レイアウト・動線の見直しなどによる生産性改善
大地震が発生した際に従業員の安全を確保するため、オフィスのレイアウトや動線の見直しなども必要です。オフィス家具や機器の転倒防止対策をおこなうとともに、家具が避難経路を塞がないように配置し、避難ルートも確保しておく必要があります。
災害に強い職場づくりは事業継続に有効であるだけでなく、従業員が安心して働ける環境を作り出せます。また、オフィスのレイアウトや動線の見直しをおこなうことで、生産性改善も期待できるでしょう。