事業継続力強化に必要な損害保険
経営環境が目まぐるしく変わる環境にある中で、最近では甚大な自然災害や新型コロナウイルスの感染拡大など、中小企業の「事業継続のリスク」が増大してきている。
国としても、中小企業に「自社の災害リスクを認識し、防災・減災対策」を講じることを求めており、事業継続力強化計画を策定することを推進している環境にある。
本コラムでは、事業継続力強化において、重要な観点であるリスクファイナンスについて、その主要な手段となる損害保険について概要を説明する。
事業継続力強化においては、防災・減災の観点での取組に主眼が置かれがちではあるが、それに加えて、ファイナンスの観点でも対策をしておくことが重要です。その対策がないと思わぬ経営危機に陥る危険性がある。
いま経営者が認識すべきリスクについて考えるとともに、そのリスクに備える損害保険商品の概要と効果について取り上げる。
頻発する自然災害
近年、日本各地で自然災害による被害が頻発している。
2018年は西日本豪雨や過去最大級の保険金支払い額となった台風21号などによって、西日本を中心に甚大な被害が及んだ。
19年は台風15号や19号が千葉県や長野県、福島県など東日本に大きな被害の爪痕を残した。
さらに20年には「令和2年7月豪雨」として、熊本県を中心に大きな被害が出たことは記憶に新しいところです。いまや被災エリアは広範囲にわたっており、日本はどの地域であっても被災者になりうることを多くの人が認識しているはずだ。
近年、日本各地で自然災害による被害が頻発
事業継続力強化に必要で、注目される休業補償保険
こうした台風などの自然災害により、特に企業においては「事業の中断リスク」が浮き彫りになっている。多くの企業は火災保険に加入しており、建物の建替えや機械・設備の再調達には対応できるかもしれない。一方で、事業の運転資金が補償されることはない。長ければ半年~1年近くもの間、事業の中断を余儀なくされる事態となる可能性もある。
その間、資金繰りが急速に悪化し、特に運転資金に余裕のない中小企業においては、経営を左右する事態にもなりかねない。
これが事業中断リスクだ。
自然災害などで罹災した場合、企業として必要な対応は大きく2つある。
1つは損傷した建物や機械設備の修復、もう1つは事業が中断している間の『運転資金の確保』や『顧客離れの防止措置』です。
前者に対しては、すでに加入している火災保険で対応できることが多い(これは後段で触れる)。一方で、後者のリスク、つまり事業中断リスクは火災保険では一般的に補償されない。よって「休業補償」や「利益保険」といわれる保険が必要となってくる。しかしながら、こうしたリスクを認識している中小企業の経営者はそう多くない。事業中断リスクは建物や機械設備の損害を上回ることもありえるため、必ずしも運転資金が潤沢でない中小企業こそ、保険による手当てが必要だといえる。
事業中断リスクは建物や
機械設備の損害を上回ることもありえる
重くのしかかる固定費の負担。資金繰りも急速に悪化する
事業中断リスクとは具体的にどのようなものか。
事業が中断すると売り上げがなくなり、キャッシュが入ってこなくなる。ここで経営の大きな負担となるのが人件費をはじめとする「固定費」の支払いだ。
「固定費」は事業を中断している間も当然支出が必要となるため、現預金がどんどん目減りし、資金繰りは急速に悪化してしまう。長期間にわたり事業が中断すると固定費の支払いに耐えられず、従業員を解雇せざるを得ない事態になるケースも珍しくない。
人手不足は中小企業において最も大きな経営課題のひとつで、特に熟練したスキルが必要とされる事業において、従業員の解雇は致命傷にもなりかねない。火災保険で建物や機械設備が元通りになっても、「人材」を失ってしまうと経営は立ち行かなくなってしまうわけで、この部分に対する手当ては検討をしていきたいところです。
「顧客離れ」にも要注意。外部委託でコスト増になる
さらに事業中断リスクで注意が必要なのは「顧客離れ」だ。事業を休止している間に同業他社に顧客を奪われると、その後の挽回は容易ではない。特に中小企業の製造業においては深刻だ。長期間にわたり製品が納入できないと、取引を打ち切られるリスクがある。
こうしたリスクに対しても保険による手当てが有効だ。特に製造業では自社が罹災した際にも取引先への供給責任を果たすため、一時的に外部の業者に生産を委託するケースがある。
このような場合、至急対応などの理由により自社で製造するよりもコストが余分にかかることがあり、こうしたコストアップ分の費用も何らかの手段で補てんする必要がある。小売業やサービス業など製造業以外の事業においても、罹災時には仮店舗の賃貸費用や従業員の残業代といった事業継続に必要な費用が多岐にわたり発生するという。経営者としては、こうした顧客離れを防ぐためのコストの手立てについても意識する必要があるのだ。
休業補償における事故と支払い保険金の事例をご参考までに列記する。いずれの事案も想定していなかった費用発生に対して保険金が出たことで、経営にも大きな影響が出なかったケースです。
休業補償における事故例
飲食料品小売業
売上高 約8000万円
繊維製品製造
売上高 約3億円
台風の影響により工場の天井が崩落
修理期間中、9日間の一部休業が発生
*保険料などは契約内容によって異なります。実際の事故発生による保険金をイメージいただくため、概算としてご確認ください。
リスクファイナンスへの
保険制度の活用
~休業補償・保険金支払実例~
爆弾低気圧による高潮と予想を超える豪雨の影響により
ホテルが浸水被害に遭い休業となった。
保険金受取額
3,410万円
(休業:2310万円* 火災1,120万円)
一定の対策は実施していたが、想定を超える水量により
浸水被害を防ぐことが出来なかった。
※本事例は、実際の事故に基づいて作成した架空のものであり、個別事例における保険金のお支払いを約束するものではありません。
*保証割合70%設定の契約
休業補償に加え、火災保険も手当てを
事業休業に関するリスクに対する「休業補償」の必要性はこれまで触れたとおりですが、ベースとなる火災保険に加入することも重要です。休業補償に比べると、火災保険に加入している事業者は多いが、一方で、加入はしていてもその補償内容が十分でない事業者が極めて多いともいわれている。
火災保険は、建物の建替えや機械・設備の再調達には対応できるものであり、休業補償とあわせてこれらの補償を手当てすることで事業継続力が向上することとなる。
ただ火災保険といってもその補償内容は、多種多様になっており、必要なものを選択して加入することが必要だ。
補償される項目と想定される事故例をまとめると、以下の通りとなる。
補償項目と想定事故例
*は自然災害による事故
このように、火災保険といってもその補償内容は幅広くなっている。必要な補償を選別したうえで、自社の加入内容がどのようになっているのかを確認してみることをお勧めする。
「商工三団体(日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会)のビジネス総合保険」
事業継続力強化への対応の必要性が高まる中、中小企業向けの専用商品として、商工三団体が『ビジネス総合保険』を展開している。同商品は、財産や休業、賠償責任に関する補償など、事業活動を取り巻くさまざまなリスクをまとめて補償する保険(※保険会社によりまとめられる範囲に差がある)だ。中小企業の多くは事業活動リスクに備える保険に複数加入していても、商品ごとバラバラに契約しており、モレやダブリがある場合も少なくない。『ビジネス総合保険』ならこれ1本で不足や重複がなく補償を確保でき、契約手続きも一本化することができる。
大企業と違い、中小企業は自社に事業活動のリスクに対する専門家がいるケースは極めてまれだ。その点、必要な保障がパッケージになった『ビジネス総合保険』は、リスクの専門家でなくてもわかりやすく、安心できる保険商品といえそうだ。
これらのメリットに加え、商工三団体のスケールメリットが効いていることも、中小企業にとってはうれしい点だ。保険会社によって割引率は異なるが、団体割引のほか、各種セット割引などと合わせ、一般で加入するよりも保険料が最大で約30%割安になる。コストをなるべく抑えて幅広くリスクに備えたい中小企業の経営者にとっては願ってもない制度です。
中小企業強靭化法やサプライチェーンの見直しなど、中小企業のBCP強化に向けた社会の動きは加速している。昨今の自然災害を教訓に、万が一にもリスクの見落としがないよう、経営の視点による保険の総点検がいま求められているといえよう。