風水害に対する事業者の対応(後編)

2021.01.29風水害

4. 実事例の紹介(民間企業の取組み事例、発災時と事前準備)

ここでは実際に中小企業で取り組まれている風水害に備えた取り組み事例をいくつかご紹介します。

はじめに小規模事業者が自然災害への備えとして行っているソフト対策を見みると(図4)、回答の多い順に「水・食糧災害用品などの備蓄」、「従業員への避難経路や避難場所の周知」、「従業員の安否確認に関するルールの策定」、「被災時の取引先への連絡先リストの作成」、「被災時に復旧すべき業務の把握」などと続いています。

図4 自然災害への備えとして行っているソフト対策
出典)2019年版小規模企業白書P175第3-2-8図からデータ引用し、筆者作成

一方、同調査によるとハード対策としては、「建屋や機械設備の耐震・免振、固定の実施」、「非常用発電機などの、停電対応の機器導入」、「事業継続に必要な情報のバックアップ対策」、「設備・什器等の保管場所の高位置への移動」、「平時における在庫の積み増し」などと続いています。

図5 自然災害への備えとして行っているハード対策
出典)2019年版小規模企業白書P175第3-2-8図からデータ引用し、筆者作成

続いて、中小・小規模事業者における風水害への実際の取組事例をみてみましょう。

事例1:通信網の確保と倉庫の高所配置
企業概要 取組内容
[建設業]
(株)山田商会
資本金:8000万円
従業員数:664名
本社:名古屋市
営業所:愛知県/岐阜県に11か所
  • ○各事業所間のMCA無線や衛星電話を使用した通信網や、全社員・協力会社代表者の安否確認を行う一斉メール配信システム等を活用するなど、非常時の災害対策体制を構築し、災害対策本部の活動訓練を実施
  • ○物流拠点として整備した南部事業所(名古屋市港区)では、浸水に備え、2階レベルにも倉庫を配置し、自動車がダイレクトにアクセスできるように整備

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P165

事例2:重要データの保全
企業概要 取組内容
[製造業]
(株)アトック
資本金:3000万円
従業員数:60名
本社:茨城県常総市
営業所:東京
工場:福島
  • ○防災行政無線、テレビのニュース映像を通じて、本社から10km以上離れたところで鬼怒川が決壊したことを知り、サーバーや重要書類などを机の上など可能な限り高い場所に移設
  • ○PCを机の上に上げ、浸水を免れたことで、重要データの損失を防止

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P167

事例3:東京都の支援事業を活用しBCP策定に取組む
企業概要 取組内容
[製造業]
(株)上島熱処理工業所
資本金:1000万円
従業員数:43名
本社:東京都大田区
(金属熱処理加工)
  • ○ H22 年度東京都支援事業に、以下の内容を含むBCPを策定
    ・設備・装置・資材・帳票類のかさ上げ・高所配置
    ・高温炉等の割れ止め対策手順の周知徹底
    ・緊急防水堰、非常用発電機の設置 等
    ※対策は検討中のものを含む

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P169

事例4:止水版の効果的設置や重要施設の高所設置
企業概要 取組内容
[製造業]
(株)シキボウ江南
資本金:1億円
従業員数:175名
本社:愛知県江南市
(各種繊維製品)
  • ○浸水可能性のある低い箇所に浸水防止対策(止水壁、土のう、止水板)を実施(全周を対策するのではなく絞って対策)
  • ○受電設備等の重要施設の高所配置。高所配置の困難な生産設備等は工場内の比較的地盤の高いところに配置。
  • ○事務所棟内の書類什器棟の高上げ。
  • ○ボイラー用燃料の多重化を図っている。重油と都市ガス併用。
  • ○地震、水害に対応したBCPを策定。従業員教育をして体制の実効性を高めている。

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P171

事例5:止水版設置と電設の高所配置
企業概要 取組内容
[製造業]
(株)トヨックス
資本金:9880万円
従業員数:300名
本社:富山
支店:東京・大阪・名古屋、海外
(高圧樹脂ホース他)
  • ○早期に危険を感知するために雨量計を設置するとともに、浸水被害を防止するため、止水板を設置
  • ○製品や電源設備を高所に配置

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P174

事例6:パレットの嵩上げで水没を回避
企業概要 取組内容
[製造業]
日本電磁工業株式会社
資本金:4000万円
従業員数:30名
本社:茨城県常総市
(DCソレノイド関連)
  • ○倉庫内の製品は下に敷くパレット3段にして嵩上げ
  • ○今後水害が予想される際には事前対策としてパレットの枚数を増やしてさらに嵩上げ
  • ○PC本体を床ではなく机の上に常設するようにレイアウトを変更

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P176

事例7:九州北部豪雨時の被災経験の教訓を活用
企業概要 取組内容
[製造業]
(株)ヤスナガ
資本金:3850万円
従業員数:54名
本社:福岡県柳川市
(シートメタル加工全般)
  • ○平成24年7月九州北部豪雨時の被災経験をもとに、復旧のために実施した事項、改善すべき点等を水害復旧報告書としてとりまとめ、その教訓を活用
  • ○平成24年7月14日を「ヤスナガ防災の日」と定め、毎年その前後において防災訓練を実施
  • ○防災訓練結果を踏まえて、策定済のBCP 等の改訂を実施

出典:国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」(平成29年8月)P177

事例8:熊本地震の教訓をいかし、経営資源を保護
企業概要 取組内容
[サービス業]
(有)ソガクリエイト
資本金:300万円
従業員数:3名
本社:熊本県西原村
(音楽事務所)
  • ○音響機材は、落下を防ぐため、なるべく積み上げず、倉庫と事務所、車の中などに分散配置、重い機材は低位置に置く
  • ○固定電話宛ての連絡は全て携帯電話に転送されるように設定
  • ○音源データはクラウド上で保存
  • ○充電用の電源やテレビなどの情報収集源として活用するため、ワンボックスカーの燃料は常に満タンにしている。

出典:中小企業庁「2019年版小規模企業白書」P178

事例9:被災経験を教訓に、小さなことから災害対策に着手
企業概要 取組内容
[小売業]
丸田屋生花店
個人事業者
従業員数:4名
岐阜県下呂市
  • ○1999年台風第16号の飛騨川氾濫で被災。店舗入口の嵩上げ、入口の密閉度を高める自動ドアへの変更、非常灯、生花用冷蔵庫などの主要設備における電気設備の配線・コンセントの上部移設
  • ○2018年の7月豪雨では電気設備の配線・コンセントを上部に移設していたことから、主要電気設備の不具合はなかった。

出典:中小企業庁「2019年版小規模企業白書」P179

【プロフィール】
山﨑 肇 (中小機構 経営支援部 チーフアドバイザー)

大手フィルム・カメラ・複写機メーカーで子会社統廃合、海外子会社経営、品質・環境・安全マネジメントなど歴任。その後、厚生労働省を経て、現在大手損保系リスクコンサルティング会社リスクコンサルタント。(一社)東京都中小企業診断士協会中央支部所属。

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