事業継続力強化計画の策定を経営改善の契機に

事業継続力強化計画(ジギョケイ)の策定は、地震や台風、豪雨や豪雪等の自然災害による被害を想定し、事業を継続するための防災・減災対策を講ずることを目的としている。だがその一方、計画策定時に自社の事業を再検証することで、事業の効率化や自社の強みを生かした新たなる経営策を打ち出し、経営改善の目標を達成した企業がある。ここでは、事業継続力強化計画の策定をきっかけに、企業力をさらに高めた企業の例を紹介する。

協和工業株式会社

  • 所在地:滋賀県東近江市小田苅町1790
  • 業種:製造業(金属製品)
  • ホームページ:http://www.kyowakk.com/
風水害地震製造業

下請けからの脱却。自社ブランドで活路を開く

1960年代から70年代にかけて日本は高度経済成長期を迎え、企業や住宅などの急激な増加にともない、各地で水道インフラが急速に整備された。こうした上水道設備に関わるバルブの弁栓類、仕切弁・空気弁・消火栓等を製造する事業者として、全国の水道インフラを支えてきたのが、滋賀県東近江市にある協和工業株式会社である。

同社は、1961年(昭和36年)に創業。創業時はバルブの下請け製造を事業の柱としていたが、現社長に交代するとそれまでの方針を一転させ、自社ブランドを展開するバルブメーカーとしての新たなる道を切り開いた。この時の想いを協和工業株式会社 代表取締役社長の清水重信氏が語った。
「先代が陣頭指揮を執っていた高度経済成長期は、需要がかなり多かったので、下請け企業としてもある程度事業が成り立っていましたが、以降は人口が徐々に減少し、それに伴い経済成長が鈍化することを考えると、企業の体力があるうちに思い切った方針転換が必要だと感じました。とはいえ、多くの従業員を抱えたなかで、顧客ゼロの状態から始めたのは、今考えても大きな決断だったと思います」(清水氏)

やがて、自社製品の生産を開始。バルブの品質・製造に関しては一定の評価を獲得できると考えていた清水氏だが、アフターサービスや何かあった場合の対応などは、どう評価されるのか未知の領域だった。そこで、フォローにも重点を置き、すべての得意先にできる限り耳を傾けた。従来型の商売は製品を納入したらそれで終わりだったが、自社ブランドを立ち上げた時点からは、製品を売ってからがビジネスの始まりになった。

そうした探究心が、LSPフランジ結合補強具(※)を生み出す原動力になったのかもしれない。同製品は瞬く間に評判となり、協和工業のブランド力を確かなものにした。

経営者が目指す方向を明確にすれば、企業は確実にその方向に向かって進んでいく。清水氏は、経営改善に取り組めば必ず達成できると感じた瞬間だった。

※「LSPフランジ結合補強具」開発の背景

東日本大震災の約1か月後、得意先である東北地域の水道局を訪問した清水氏は、そこで水道局の職員からあることを告げられる。
「横配管は耐震性が高いのに、縦配管(フランジ配管等)は耐震性がなく、そこかしこで漏水している。これを何とかしてほしいという申し出がありました。さっそく、その日から開発担当者と話し合い、製品化したのが、現在のLSPフランジ結合補強具です」(清水氏)

地震等で配管が揺れると、管内の水圧が急上昇し、ウォーターハンマー現象が起こる。フランジの結合部のボルトが均等に締め付けられていない片締め状態のまま内部の圧力が上昇すると、そこから漏水を起こすことが分かった。

ボルト締めはこれまで熟練工の作業だったが、協和工業は誰が作業しても片締めを起こさないパッキンを新たに開発。緩み防止機能を持つボルトナットと組み合わせることで漏水を防止するのが、LSPフランジ結合補強具である。

今までにない構造のパッキンであったため、発売当初は受け入れがたかったが、その性能と取扱いやすさが徐々に認められると売り上げが好調。今や同社の主力商品になっている。

立体倉庫の安全性向上と在庫管理の効率化を両立

上水道設備は重要なライフラインだけに、災害等で何かあった場合、その対応が遅れると、多くの人々の生活に影響を及ぼすことが考えられる。

現在、全国の自治体水道局が防災対策の整備を進めているが、清水氏も水道インフラを担う者の一人として、常に災害の危機意識を持って事業に取り組んでいる。
「大きな災害が起きると、水道管の破裂や漏水といった被害が出るため、これまでにも一時的に弁栓類の需要が増えました。それもあって、常に安定かつ迅速に製品を供給する体制作りをしなければいけないと感じました」(清水氏)

事業は何かきっかけがないと、大きく変革させるのは難しい。そこで清水氏は、事業継続力強化計画を策定する機会に自社の事業を再確認することで、業務の改善点を徹底的に探した。そこで着目したのが立体倉庫だった。

「災害時における安全面の対策を検討していたところ、資材や製品在庫を一括管理している立体倉庫が目にとまりました。地震で大きな揺れが起こると上部から製品が落下する可能性があったため、棚に落下防止用ネットを新たに設置しました。それに併せて、落下すると危険な重たい製品は上方の棚に並べないといったルールを設けるなど、危険だと感じられる部分を徹底的に排除しました」(清水氏)

そうした防災・減災対策によって安全性の向上を図ったところ、経営改善できる部分が見えてきた。 「これまで740枚あったパレットを約400枚程度に減らすことで、在庫管理業務を効率化しました。また、作業をすべてオートメーション化し、人員を最小限にすることでコスト削減に務めると同時に、災害時の人的被害を最小限に抑えることが可能になりました」(清水氏)

このほかにも、万一操業停止した場合に備えて約1か月分の製品在庫を常備するといった方法で、発災時でも迅速な製品出荷が可能になったという。

こうして2021年3月、単独事業継続力強化計画の認定事業者になった。清水氏は今回の計画を振り返り、 「災害時の避難ルートの確認や人的被害を抑えるための対策など、従業員たちは平時から防災についてミーティングするようになり、防災意識の高まりを感じます。今後もこれに止まらず、事業継続力強化計画が役立つ方向に取り組みたいと考えています」(清水氏)

災害時の危険に着目し、それを排除することで業務の効率化につなげ、効果的な災害対策に取り組んだ協和工業。今回の計画策定をきっかけに事業をさらに強靱化させるとともに、自社製品の開発やブランドのさらなる認知・向上など、今後目指すべき目標が明確になった。

今後、事業継続力強化計画の策定を検討している経営者は、平時から取り組める業務の効率化も踏まえ、経営を俯瞰して考えるきっかけにしてみてはいかがだろか。策定時に自社の無駄を調査し、業務効率を高める方法、あるいは経営改善の効率化まで検討すると、自社の新たなる課題が見えてくるだろう。

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