環境と人、地域性に配慮した事業継続の取り組み

NiKKi Fron 株式会社

  • 所在地:長野県長野市穂保409-2
  • 業種:製造業
  • 組合員数(従業員数):300名(グループ全体)
  • ホームページ:http://www.nikkifron.com/
風水害製造業

1896年に長野・善光寺のお膝元で麻問屋として創業。その後、麻の廃材を活用してパッキング材を上田蚕糸専門学校(現 信州大学繊維学部)との産学官連携により発明したことをきっかけに、1944年には商業から工業への転換を図り、現在の会社組織へと発展。現在は長野の本社工場のほか、滋賀工場、タイ工場の3拠点を構え、特殊な樹脂を素材成形して加工品に仕上げる「機能樹脂事業」、プラスチックを量産するための機械を組み立てる「成形機組立事業」、自動車の補修部品(摩擦材)を作る「FRP事業」などの3事業を展開する。

環境と人、地域性に配慮した事業継続の取り組み

インタビュー(4分6秒)

洪水大国タイで実際に感じた
危機感が策定のきっかけに

1896年に長野・善光寺のお膝元で麻問屋として創業。1944年に商業から工業に転換、工業製品の製造・販売に舵を切り、2010年にはタイに進出するなど、125年以上にわたり事業を継続し続けるNiKKi Fron 株式会社。事業継続力強化計画の策定のきっかけは、2011年に起こった東日本大震災と同年タイの北部アユタヤ地域で起こった大水害だったと社長の春日氏は語る。

「タイの大洪水ではロジャナ工業団地という一帯が水に浸かってしまいました。私どもの工場がある工業団地は南東にあるため、直接的な被害は受けませんでしたが、洪水大国タイではひとつ間違えば我々の工場も水に浸かっていたと危機感を覚え、備えをしていかなければと感じました」(春日氏)

そのわずか数年後の2014年、当社の工場があるアマタという工業団地が洪水の被害に遭遇する。実際に土嚢を積んだりして設備が傷まないように対策をしたものの工場内は50cmくらい水に浸かってしまった。ところが、この工場はタイのレンタル工場で、洪水に備えた設計がされていたことで、大きな被害を受けずに済んだと言う。

「日本の工場でプレスの機械などを設置する場合、穴を掘って低くなった場所に機械を置いて、人が作業する位置を揃えるのですが、タイでは洪水に備えて、穴を掘らずに工場の床に直接プレス機が置かれていて、人が作業する場所も高さ1mほどのステージを設けてそこにスペースが確保されていました」(春日氏)

日本と異なる設計により床が50cmくらい浸水したものの、ほぼ生産への影響はなく、この危機を乗り越えることができた。実際に水害を経験したということで、BCP策定の認識がより一層高まったと語る春日氏。

「当社が手掛ける3事業は、その先のお客様が大手様で、中でも地元長野県の日精樹脂さんからは、一緒に作りましょうとお声がけいただきました。大手企業がBCPを策定する際には、サプライチェーンも含めて構築され、我々はその一翼を担っておりましたので、2015年に正式にBCPを策定しました」。(春日氏)

復旧までのシナリオを描き
早急にお客様と共有する

2015年にBCPを策定した後、2019年(令和元年)に東日本台風災害が起こる。その前から中小機構さんから“BCPをより事業の中で実践的に活かしていくために”と事業継続力強化計画を紹介され、当社としてもBCPをより運用しやすく発展させていく上で、計画の策定へと向かっていったと春日氏は振り返る。

「通常BCPと言うと基本的に自然災害を意識すると思いますが、BCPとはビジネス・コンティニティ・プランですから、継続(コンティニティ)が真ん中にあるように、どうすれば事業を続けていけるか視点がより広くなります。そこで今、私どもが意識しているのは、自然環境リスクだけでなく、事業環境リスクと両方について考えるということ。お互い影響しあう部分もありますが、自然災害だけでなく、事業の環境変化で事業継続が危ぶまれるというシーンがあるので、現在我々のBCPにはこの2つの観点を盛り込み、事業ポートフォリオの見直しや分析をして計画に反映しています」(春日氏)

実際、2019年10月12日に起こった東日本台風は、13日未明に本社工場近くを流れる千曲川の堤防が決壊するなど大規模な被災を経験したが、BCPを策定していたことで、自然災害が発生してからの初動においてはBCPおよび事業継続力強化計画の効果を大きく感じたと言う。

「BCPでマニュアルができていたので、迅速に緊急連絡網を作り、私から幹部・社員へと指示系統を一元管理することができました。工場はしばらく停止せざるをえない状況でしたから、まずはお客様に状況と復旧の目途についていち早くお伝えすることが重要だと考え、東京のお客様にもすぐに説明に上がりました。自然災害にどう対処するかだけではなくて、事業をどう守るか。自然災害で壊滅的な被害を受けても、最終的にその事業を続けていくためには、復旧までのシナリオを早い段階で描き、それをお客様と共有することが非常に重要であると感じました」(春日氏)

想像以上の大災害を想定しないと
本当に機能する計画にはならない

タイで水害を経験するなど自然災害への危機感を知りその対策も行っていた当社だが、この東日本台風は想像のさらに上をいくものだったと言う。実際、水害で想定していた浸水はせいぜい50cm~1m。1mを超えると機械設備などの被害も一気に大きくなるとのことだが、この時は2mまで浸かったと、春日氏は被害の大きさを語る。

「川が氾濫・決壊して津波に近いような水が押し寄せるということは全く想定していなかったものですから、タイで経験した洪水とは規模感が違いました。国内でも2011年に津波で壊滅的な被害をもたらす東日本大震災がありましたが、当社の財産保険は火災保険にオプションで地震保険をつけたもので、水災オプションをつけていませんでした。今ではつけていますが、その時点では認識が甘かったと思います」(春日氏)

さらに、今後ますます降水量や地震、気温の上昇など世界各地で観測史上最高と言われる自然環境の変化が予想される。そのため災害の規模を自分たちで簡単に決めずに、本当に考えつかないような大災害が起こることを想定していかないと、本当の意味で機能する計画にはならないと続ける。

また、本社のある北部工業団地には自治会があるが、他の会社の方たちと当時の苦労話など情報を共有する中で、業種によって復旧までの対応の違いに気づいたと言う。災害が発生した場合、例えばモノを仕入れて販売する業種であれば在庫の被害以外は新たに仕入れればすぐに商売ができる。ところが、製造業ではモノを作るための設備が一切使えなくなるため、いかに早く設備を復旧するか、対策としては設備の被害をどれだけ最小限に抑えられるかが重要となる。

「そうした中で今我々がやろうとしているのは、工業団地全体として共通で必要なことは、一つのまとまりとしてやっていこうと。災害前の情報から復旧に向けた情報も共有できるものは共有していこうという取り組みです。業種の違いがあっても、運命共同体として、工業団地としてのBCP、さらにはその工業団地としての事業継続力強化計画というのを一緒に考えていこうと、ちょうど今年委員会を立ち上げたところです」(春日氏)

実際、工業団地内でもBCPを策定される企業は増えてきていて、そうした企業は事業継続力強化計画も策定しているようだ。BCP策定でとどまらず事業継続力強化計画の策定までやって初めて経営としての備えになると思うのでぜひお勧めしたいと春日氏は語る。

それぞれの拠点の強みを活かし
弱みを補い合う体制づくり

長野県長野市に本社工場を構え、2000年に滋賀工場を設立、2010年にはタイ工場を出すなど時代とともに事業を拡大してきた当社。BCPや事業継続力強化計画を策定した今、今後の展望について春日氏に聞いてみた。

「今、我々が考えているのは、長野工場、滋賀工場、タイ工場とそれぞれの拠点の強みを活かし合い、弱みを補い合うということ。例えば水害のリスクが高いのはタイ工場ですが、国内でも川に近い長野工場より滋賀工場のほうが水害による自然災害のリスクが低いと言えます。これまでは、滋賀はこの事業、タイはこの事業、長野はこの事業と、工場ごとに事業を分けていましたが、被災を経験し、滋賀やタイの工場でこれまでやっていない生産品目も立ち上げるという取り組みも行っています」(春日氏)

当社では、この3拠点の機能を強化して、万が一どこかの拠点が災害などで操業停止になった時でも、お客様に対して供給が停止してしまわないように、それぞれの工場で補い合いグループ全体としては事業継続力をしっかり守っていける体制づくりが進められている。人材面においてもそれぞれの地域性を重視し、基本的にはその地域のメンバーで管理体制を作り上げるようにしていると言う。

「例えば、タイ工場でメンバーを教育する際、日本人が日本の感覚で教えるのではなく、タイ人同士で教え合っていくという体質をつくらなければいけないと思います。こうしたローカライゼーションをしっかりと進めることは、各地域で起こるリスクに対しても、地域の特性を知る現地のメンバーがしっかりと対策を立案して回していける仕組みづくりにつながります」(春日氏)

事業発展はできるに越したことはないが、事業は継続させていくことが大事という先代からの教えのもとに、昨年で創業125周年を迎えた当社。事業を継続させるためには自分たちが製品を供給しているマーケットについても徹底的に考えるという姿勢と、将来を見据えた備えと体制づくりでさらなる事業継続を目指す。

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