熊本地震の経験を教訓に、商工会の伴走支援で備える事業継続の取り組み

熊本市託麻商工会青年部

部長
田中 裕士
業種
経済団体(商工団体)
所在地
熊本県熊本市東区長嶺東7丁目9-8
青年部員数
60人
拠点
事務所(熊本県熊本市)
連携事業者代表事業所(1回目認定)
  工房からすま株式会社
連携事業者代表事業所(2回目認定)
  有限会社東熊本デンタルサービス
ホームページ
https://www.takumashokokai.com/
  連携事業者代表事業所(2回目認定)の有限会社東熊本デンタルサービスは、熊本市において地域に根ざした歯科関連サービスを展開しています。2023年4月、熊本市託麻商工会青年部に所属する24社と連携し、連携事業継続力強化計画の認定を取得。2026年3月、2回目の計画認定を取得しました。

連携体:有限会社東熊本デンタルサービス(代表事業者)、株式会社中道、有限会社中和産業 他42社、計45社の予定。
熊本市託麻商工会青年部のメンバーが、熊本地震の経験を教訓に、地域で発生する災害に対して企業として何か貢献できないかと考え、連携事業継続力強化計画を策定した取組です。商工会の伴走支援や専門家の助言を受けながら、研修や協議を重ねて計画を作成しました。
地震に加えて水害リスクも踏まえた内容へと発展させ、実災害時の情報共有や支援活動を通じて、地域全体の防災力向上につなげています。

熊本地震の体験とセミナー受講がきっかけになった計画策定

計画策定に取り組むきっかけとなったのは、2022年に熊本市託麻商工会が主催したBCP策定セミナーを、商工会青年部員が受講したことでした。受講後、「青年部会として策定できるのではないか」との声が上がり、具体的な検討が始まったそうです。
実行委員長を務めたのは、熊本市で日本料理店「旬魚菜華ふる巣」を経営する株式会社中道の中道社長でした。
中道社長は、2018年4月に発生した熊本地震(平成28年熊本地震)を経験しています。当時の状況について、次のように語っています。
「物資には入荷するものとしないものがありましたが、店舗にあった冷凍食品などを地域の方々に無償で提供しました。また、地震発生時には、社員・アルバイトのシフト管理をグループLINEで行っていました。電話がつながらない状況でもLINEは使用でき、LINE通話でのやり取りも可能でした。災害が起きる前から会社としてグループLINEを作成していたことが、結果として最も有効な連絡網になりました。」(中道氏)
こうした経験から、災害発生時に地元の役に立ちたいという思いを強く持つようになり、「消防組織などだけでは補いきれない部分について、地元事業者として何かできないか」と青年部の集まりで提案したところ、メンバーの賛同を得ることができたそうです。中道社長は、青年部の「無駄に熱いところ」が大きな原動力になったと振り返っています。

商工会の伴走支援と専門家の支援によって進めた計画づくり

事業継続力強化計画の策定にあたっては、熊本市託麻商工会による伴走支援のほか、中小機構九州本部のアドバイザーからも支援を受けました。青年部内に実行委員会を設置し、研修を受けながら計画を策定する体制を整え、アドバイザーが講師を務めました。託麻商工会は、青年部メンバーと講師との日程調整などを行う事務局的な役割を担いました。
合計4回実施した研修会では、実行委員が講師の指導を受けながら計画の原案を作成しました。策定の途中では、青年部の例会において3回ほど進捗報告を行い、計画策定後には報告会を開催することで、内容をメンバー全体で共有することができました。
計画策定の具体的なプロセスとしては、まずハザードマップを確認し、自身の住所や事業所がどの程度の災害リスクにさらされているのかを把握しました。その結果を基に意見交換を行い、リスクに対する共通認識を形成しました。
「熊本では液状化が発生しやすい地区が判明していますが、意外と知られていないケースも多くあります。ハザードマップを見て『ここも水没するのか』と驚く声もあり、参加者の意識付けにつながっています。」(熊本市託麻商工会 星子氏)
さらに、災害リスクにとどまらず、企業経営におけるさまざまなリスクについても理解を深めていきました。
社員が常に携帯する手帳サイズのポケットマニュアル

水害を経験してメンバーと対象リスクを増やす計画に

同社の取組のもう一つの特徴は、他社や近隣住民なども巻き込んだ対策となっている点です。同社では、重要業務として「受注済み製品の納品継続」を最優先に位置づけ、万一、自社での生産が困難になった場合に備え、他府県の同業者と代替生産に関する協定を結んでいます。この協定先とは、ISOの認定の際にも協力し合ってきた関係にあるそうです。

1回目の申請では「工房からすま株式会社」の森川社長が代表事業者を務めていましたが、任期満了に伴い、同氏が青年部長を交代、
東熊本デンタルサービスの渡邉雄太郎氏がその役割を引き継ぎ、2回目の申請に向けた取り組みを進めました。
1回目の計画では地震を対象としていましたが、2025年8月に人吉市で水害(令和7年8月豪雨)が発生したことを受け、2回目の計画では水害リスクを踏まえ、水害を想定したシミュレーションも加えて策定を進めました。なお、この水害では託麻地区に直接的な被害はなかったものの、計画策定を通じて構築していた連携メンバー間の安否確認や情報共有の仕組みが有効に機能したそうです。
「商工会のつながりを通じて、県内の他地域から災害支援の要請がありました。連携メンバーのグループLINEを活用することで、被害状況の確認や、支援に参加可能なメンバーの取りまとめをスムーズに行うことができました。各事業者がそれぞれの職種の強みを生かした支援を行い、当社も消毒液のストックを持参するなど、支援活動に参加しました。こうした取り組みを通じて、結果的に熊本県全域の災害対応につながっていると感じています」(星子氏)。
現在、青年部に所属する65社のうち、45社が本計画に参加しています。

連携の効果と課題、メンバーを増やす難しさ

本計画は、災害発生時に地域に貢献することを目的として策定されたものであるため、訓練は共同では実施していません。しかし、実際に災害が発生しており、その対応自体が訓練の代わりになっている側面があるといいます。実災害時において実際に連絡を取り合い、対応することが、最も実践的な訓練になっているとのことです。
その中で、次のような点が重要であると気づいたそうです。
「各職種の強みをあらかじめリスト化しておくことで、いざという時に『あなたはこれができる』と、ピンポイントで声をかけられるようになります。例えば、土木業であれば重機の操作が可能であり、飲食業であれば衛生管理に強みがある、といった具合です。各社が災害時に何を提供できるのかを把握しておくことが重要だと考えています。また、策定したことの一番の効果は、危機管理能力が向上したことだと思います。講師が話していた『想定外を想定内にする』という言葉が、まさに核心をついていると感じています。」(星子氏)
セミナーの様子のお写真
一方で、連携の難しさや課題もあります。計画を策定していく過程では、連携型であるがゆえに、全員の同意が得られなければ先に進めないという難しさがあったといいます。また、メンバーのモチベーションを維持することも課題となりました。申請書を提出した後も修正作業があり、発表会を行ってから実際に計画の認定を取得するまでには、約3か月間を要したそうです。
メンバーを増やすことについても、事務局およびメンバーからは、次のような声が聞かれました。
「これが正直、一番苦労しているところです。温度差がある中で、全員を同じ温度感にそろえるのは、ほぼ不可能に近いと感じています。そのため、温度感の近い人たちが集まって活動していくという前提で進めています。強制してしまうと趣旨が変わってしまうため、参加を強いることはしていません。参加者をもっと増やしたいという思いはありますが、より分かりやすく、より熱量が伝わる説明ができれば、さらに人が集まるのではないかと考えており、そこが自分自身の課題だと感じています。」(中道氏)
「新しく参加された方は、BCPや事業継続計画といった考え方が徐々に浸透してきており、自分の会社でも取り組みたいとは思っているものの、何から始めればよいか分からないという状況にあります。一緒に取り組めば取得できるという点に魅力を感じて参加されています。実際に参加したことで、自社でも策定しようという動きが生まれています。」(中道氏)
最後に、今後策定に取り組む方々へのメッセージを伺いました。
「伴走支援として一緒に作っていただけるので、安心して取り組むことができます。決して簡単ではありませんが、チームで取り組むことで可能性は広がります。ぜひ前向きに取り組んでいただきたいと思います。」(中道氏)
「まずはやってみることが大切です。やってから意見を言うくらいの気持ちで、始める前からあれこれ考えていても前に進みません。人を巻き込みながら一緒に取り組むことで、少しずつ形になっていきます。継続することが重要であり、取得して終わりではなく、続けることにこそ意味があります。」(中和産業 田中氏)
「自社の会社を見直す良いきっかけになります。自社が災害に対してどれだけ脆弱なのか、また自社が置かれている地域がどのような状況にあるのかを見つめ直し、会社を守るための取り組みとして進めてほしいと思います。アドバイザーの方々が支援してくださる制度がありますので、それを最大限活用していただきたいです。」(星子氏)
本事例のポイント
東熊本デンタルサービスの事例のポイントは、熊本地震の経験をきっかけに、自らが所在する地域に貢献したいという思いから、商工会青年部という組織を活用し、連携による事業継続の取組を進めている点にあります。
また、熊本市託麻商工会の伴走支援のもと、専門家の助言を受けながら研修や会議を重ね、計画の策定と周知活動を着実に進めるとともに、参加企業の拡大にも注力している点が特徴です。さらに、実際の災害対応や地域支援の経験を通じて危機管理意識を高め、地域全体の防災力向上につなげている事例であるといえます。