災害教訓に学ぶ防災戦略

世界有数の地震多発国である日本には、4つのプレートがぶつかりあっており、いつどこで地震が起こってもおかしくない状況といわれています。また、一方で地球温暖化の影響により、全国各地で極端な大雨も多発しています。

自然災害の発生によって、企業活動に甚大な被害をもたらす恐れがあります。こうした災害に備えるのが、「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」です。 
  • もともと地震と津波を想定しジギョケイを策定していたが、台風被害を受けて水害対策も加えた企業
  • 能登半島地震で被害を受けて必要性を感じ、ジギョケイを策定した企業
  • 医療用ガスを扱うことからBCPに長く取り組んできたが南海トラフ地震への対策をより強化するために連携ジギョケイを策定した企業
連携型のジギョケイの策定支援を行っている中小機構の支援先の中から、こうした3つの事例をご紹介します。

想定外の水害が教えてくれた、ジギョケイアップデートの重要性

静岡・山梨で5つの宿泊施設を運営する竹屋旅館。「地震から来る津波に対しては非常に感度が高かったのですが、それ以外の災害についてはそこまで想定していなかったところがあります」と語る代表の竹内氏。
2022年9月に発生した台風15号によって想定外の断水被害を受けたものの、事前に策定していたジギョケイのおかげで営業を1日も止めず宿泊を受け入れることができました。ジギョケイを作る過程で、“データの重要性”を改めて認識していたからこそ、いざという時に損失を回避できたといいます。また管理していた貯水槽が地域にとっても大切な資源であることに気づき、改めて備えの必要性を痛感しました。

こうした実体験を通じて、すでに策定していた計画もブラッシュアップし、より実現性の高いものへと作り上げていきました。ジギョケイの策定はどうしてもハードルが高いと感じてしまいがちですが、「まずは一歩踏み出してみることが大切」という竹内氏の言葉を通して、改めてジギョケイの必要性を認識することができます。

震災で痛感した“備えの大切さ”

解体工事専門で30年近く事業を続ける鍜元重機は、令和6年能登半島地震を経験しました。鍜元社長がまず直面したのは、通信手段が断たれ、従業員の安否確認すらできなかったという現実。「海岸線の駐車場の先でLINEがつながるという情報を聞きつけていってみると着信履歴が溜まっている状況で、もう連絡の取りようがない」こういった点が一番苦労したと振り返ります。

発電機や燃料の備えがあったことで最低限の対応はできたものの、通常業務を行えるはずもなく、市からの依頼で避難所のゴミ収集を行ったり、自社倉庫を間仕切りして被災した従業員の住宅替わりに提供するなど、地域や従業員のためにできることを模索しながら動いていたといいます。

これらの経験を通じて、日頃の意識や行動にも変化が。
「いつ災害が起きてもすぐ対処できるように、燃料は気づいたらなるべく満タンに備える。
一番単純なことですけど、その辺りから取り組んでいければと思っています」(鍜元氏)
鍜元氏の実体験から、日常から「防災について考え、備えていく姿勢」が、災害に直面した際の行動において、重要な鍵となることを教えていただきました。

連携による備えが企業を強くする──ジギョケイで築く災害対応の土台

高圧ガスを製造・販売する高松帝酸は、特に医療用酸素の即時供給を使命としていることから、以前からBCP策定に注力してきました。同社と連携してジギョケイ(事業継続力強化計画)策定に取り組んでいる三共運輸は四国・中国・九州北部を中心に38台のトラックを運行する企業です。

三共運輸では2004年の台風で水害による被害を受けた経験から、BCPの必要性を痛感していたものの、ハードルの高さから一歩を踏み出せずにいました。そんな中、高松帝酸から声がかかり、5社連携でジギョケイを策定。
「我々はガスを製造し、三共運輸さんにはそれを運んでいただくという、一心同体のような役割を担っているので、事前の備えという点で策定に至りました」(太田氏)

またジギョケイを策定したことで新たな気づきも。
「安否確認システムを確立したり、リュックを支給したことによって、会社に対する信頼が深まったというのは今回のジギョケイの大きな意義だと思っております」(三木氏)

会社が存続しなければ、社会に貢献することも、従業員の生活を守ることもできません。 「やった方がいいよねではなくて、絶対やらないと。会社は存続しないと社会に貢献できませんし、従業員の生活も守れないので、その辺りはやればいいねではなくて、本気で取り組む必要があると思います」(太田氏)


災害はいつ起きるかわかりません。だからこそ、今できる備えが企業の未来を守ります。
ジギョケイは、“備える力”を形にするための第一歩です。