ジギョケイ事例インタビュー ~台風による豪雨災害を受けて~
株式会社竹屋旅館
「他」のひとを楽に、楽しませる「他楽(ほからく)の精神」を経営理念に掲げ、朝カレーなどで人気のホテルクエスト清水など、複数の宿泊施設を運営する竹屋旅館。地元自治体などと連携し、スポーツビジネス創出などにも取り組む同社は、地震の津波被害に備えてジギョケイを策定していたが、台風を受けてジギョケイの見直しを行った。BCP(事業継続計画)を事業計画と並ぶ重要事項に位置づけ、今後も実効性向上に努めていく。
想定外の災害が教えてくれた「備えの価値」
「場所柄、地震から来る津波への対策には非常に感度が高かったですが、それ以外についてはそこまで十分な想定ができていなかったんです」(竹内氏)
2022年9月、静岡県を襲った台風による断水。
竹屋旅館では、事前に策定していたジギョケイも役立ち、1週間の断水中も営業を止めずに宿泊受け入れを継続することができました。
「ホテルに大きな貯水槽があったので、計画的に使うことで営業を止めずにできるのではないかと考えました」(竹内氏)
この貯水槽は、宿泊者だけでなく地域住民にも役立つ場面が。
「トイレやシャワーを地域の方に開放できました。有難いことに様々な方が送ってくださった水などの救援物資を、ロビーにて無償提供することもできました」(竹内氏)
災害時にホテルが地域のインフラとして機能する可能性を実感した瞬間でした。
「こういう貯水槽はとても重要な地域の資源だなと。我々にとっても資源だなということがわかりました」(竹内氏)
この経験は、既存のジギョケイを見直すきっかけにもなったといいます。
「完璧な計画なんかもちろんないですけれども、こういう経験を通じて、今ある計画をアップデートできる。元があったからこそ、どんどんブラッシュアップすることができました」(竹内氏)
データも守る、信頼も築く──ジギョケイがもたらす安心感
「浸水の被害はありましたが、データの被害はなかった。情報が資産だと強く感じたんです」(竹内氏)
ジギョケイを策定する中で、まず取り組んだのがデータのクラウド化。そのおかげで安心して対応に取り組むことが出来ました。
ジギョケイは、災害時の対応だけでなく、日常の信頼構築にもつながるといいます。
「『これからやるよ』『ここは未熟だよ』っていうことも含めて計画なんですけど、それを経営者が認識しているだけで、働く人は少し安心するし、お泊まりになる方も安心するし、取引先の方も安心される」(竹内氏)
特に金融機関からの評価は大きかったそうです。
「ステークホルダーに対して『ここまで考えてるんだよ』っていうことをお示しすることが、日頃の取引を強固にする。金融機関さんが評価してくれたのは嬉しかったですね」(竹内氏)
ジギョケイは、企業を「守る」ための計画でありながら、企業の信頼やブランド価値を高めるものでもあるのです。
平時の連携が有事を支える──広域ネットワークの活用
「グループ会社も含めたホテル運営会社と、年に一回共同訓練をしています」(竹内氏)
ジギョケイをきっかけに、平時からの情報交換や関係構築が進み、有事の際の連携がスムーズに。
「まずは連携した先と仲良くなれるというのがありますよね。このような、ジギョケイを計画するといったきっかけがないと普段なかなか話はできないと思うんです。平時の時に周りとの関係性を強められるという点は本当に素晴らしい機会だなと思います」(竹内氏)
この連携は、BCPに限らず、経営全体の情報交換にも広がっているといいます。
「BCPの情報交換をきっかけに、それ以外の事業の情報交換にもつながった。今では3ヶ月に1回くらい、オンラインで定期的に情報交換の場を持っています。負荷はほとんどないですね」(竹内氏)
また、台風などの災害に対応するためのチェックリストの整備も進みました。
「今まで地震とか津波、火災が中心でしたけど、台風や今後の災害にもアップデートできるものだと思います」(竹内氏)
ジギョケイは、特別な準備がなくても始められる
「説明を聞いたときは、とてもできないんじゃないかと思いましたけど、実際作ってみると、やってきたことを整理整頓して当てはめるだけでできることがたくさんあるということが分かりました」(竹内氏)
ジギョケイは、特別な準備がなくても始められる。
「私も何か準備してから臨まなきゃと思ってましたけど、そうではなく、今の“ありのまま”から始めることがむしろ大切なんですよね」(竹内氏)
またジギョケイは、単なるリスク対策ではなく、事業計画の骨子として組み込むべきもの。
「これはコストではなくて、完全に事業計画の骨子を担うもの。KPIに少し入れておくだけで、必ず通る道の上に置かれる。そうすると“これやったんだっけ”と俎上に載るようにしました」(竹内氏)
完璧じゃなくていい。まずは“ありのまま”から始めてみる。その一歩が、企業と地域の持続可能性を大きく前進させる力となります。
関連記事