東日本大震災の教訓から生まれた、地域金融機関発の5者連携による支援
銚子信用金庫
- 理事長
- 森山 博志
- 業種
- 信用金庫
- 所在地
- 千葉県銚子市双葉町5番地の5
- 従業員数
- 385人
- 拠点
- 28店舗(千葉県内24店舗・茨城県内4店舗)
銚子信用金庫は、千葉県銚子市に本店を構え、千葉県と茨城県南部を営業地域とする地域金融機関。創業支援から事業承継支援まで、取引先企業の成長段階に応じた営業店による伴走支援を行うとともに、地域振興・社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。
東日本大震災の被災経験を持つ銚子信用金庫は、「災害に対して金融機関として何ができるのか」という思いから、同金庫が中心となり、損害保険会社2社、地元保険代理店、大学との5者連携で、地域企業を対象にした事業継続力強化計画(通称ジギョケイ)の策定支援に取り組んでいます。これまでに支援の依頼件数は129件に達しており、計画策定後の備蓄品調達や設備投資の資金支援までを一気通貫で伴走する独自の取り組みが、地域の防災力向上と信頼関係の構築を同時に実現しています。
「十分な対応ができなかったのではないか」——東日本大震災の被災経験
銚子信用金庫がジギョケイの策定支援に取り組む背景には、東日本大震災での被災経験があります。千葉県旭市は、県内で唯一津波被害を受けた自治体であり、関連死を含めた死者・行方不明者は16名に上りました。同市に所在していた同金庫の飯岡支店も、津波による浸水被害を受けています。
「発災から2週間以内に、通帳や印鑑なしでも払い戻しできる体制を整えるなどの対応を行いましたが、災害規模があまりにも大きく、十分な対応ができたとは言えません。その時の思いが、今も心に残っています」(銚子信用金庫 地域サポート部 鏑木氏)
その後も「金融機関として何かできないか」と模索を続ける中で、ジギョケイの策定支援が一つの解になると考え、体制づくりに着手しました。当初は補助金の加点を目的とした策定が多く、「加点になるからやる」という反応が大半を占めていましたが、近年の地震や台風の頻発を背景に、防災対策そのものの必要性を伝える情報提供へと方針を転換したことで、徐々に件数が伸びていきました。
「発災から2週間以内に、通帳や印鑑なしでも払い戻しできる体制を整えるなどの対応を行いましたが、災害規模があまりにも大きく、十分な対応ができたとは言えません。その時の思いが、今も心に残っています」(銚子信用金庫 地域サポート部 鏑木氏)
その後も「金融機関として何かできないか」と模索を続ける中で、ジギョケイの策定支援が一つの解になると考え、体制づくりに着手しました。当初は補助金の加点を目的とした策定が多く、「加点になるからやる」という反応が大半を占めていましたが、近年の地震や台風の頻発を背景に、防災対策そのものの必要性を伝える情報提供へと方針を転換したことで、徐々に件数が伸びていきました。
金融機関・損害保険会社・大学・保険代理店で構成される5者連携
同金庫が構築した支援体制は、「5者連携」である点が特徴的です。2025年6月、同金庫は同金庫と関係の深い保険代理業である株式会社銚子保険センター、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、三井住友海上あいおい生命保険株式会社、日本初・アジア初の危機管理学部を有する学校法人加計学園千葉科学大学と5者で「中小企業支援及び防災減災に向けた相互連携協定」を締結し、ジギョケイの策定支援を開始しています。同金庫および銚子保険センターが顧客対応の窓口を担い、あいおいニッセイ同和損保と三井住友海上あいおい生命保険が策定支援に関するノウハウを提供しています。さらに、千葉科学大学が学術的知見を加える体制となっています。同大学の学部長が同金庫の非常勤理事を務めていたことから、大学との連携が実現したといいます。
支援のプロセスは明確に設計されています。損害保険会社が行う初回面談は約1時間と決めており、同金庫の営業店の店長または担当者が必ず同席します。面談時のヒアリグ内容をもとに作成された原案を、さらに損害保険会社の外部機関が監修し、2回目の面談で内容を確定します。その後、経済産業局へ申請する流れです。面談は基本2回で完結する設計となっており、事業者の負担軽減を図っています。
枠組みの構築から連携団体との調整に至るまで、すべて同金庫が主導して進めてきました。同金庫内の対応体制としては、法人担当31名、営業課長20名の計50名超で構成されています。現時点で、策定支援の依頼は129件、申請済みは55件、認定済みは32件に達しています。
支援のプロセスは明確に設計されています。損害保険会社が行う初回面談は約1時間と決めており、同金庫の営業店の店長または担当者が必ず同席します。面談時のヒアリグ内容をもとに作成された原案を、さらに損害保険会社の外部機関が監修し、2回目の面談で内容を確定します。その後、経済産業局へ申請する流れです。面談は基本2回で完結する設計となっており、事業者の負担軽減を図っています。
枠組みの構築から連携団体との調整に至るまで、すべて同金庫が主導して進めてきました。同金庫内の対応体制としては、法人担当31名、営業課長20名の計50名超で構成されています。現時点で、策定支援の依頼は129件、申請済みは55件、認定済みは32件に達しています。
業績評価制度への組み込みが「本気」を引き出した
短期間でこれだけの件数を実現できた背景には、同金庫内の仕組みづくりがあります。
「営業担当者および営業店の業績評価に、策定支援に関する評価項目をかなり大きなウェイトで組み込みました。当初は評価を目的に取り組む担当者もいましたが、次第に取り組みの意義が浸透し、現在の件数につながっています」(同氏)
担当役員と事前に十分な議論を行い、役員会で決裁を得たことで金庫内の手続きも円滑に進みました。周知にあたっては、まず同金庫の会員代表である「総代」企業を中心に情報提供を行い、その後、中堅・小規模事業者へと広げる方針を採りました。地域への影響力が大きい事業者から順に取り組むことで、波及効果を狙っています。
「営業担当者および営業店の業績評価に、策定支援に関する評価項目をかなり大きなウェイトで組み込みました。当初は評価を目的に取り組む担当者もいましたが、次第に取り組みの意義が浸透し、現在の件数につながっています」(同氏)
担当役員と事前に十分な議論を行い、役員会で決裁を得たことで金庫内の手続きも円滑に進みました。周知にあたっては、まず同金庫の会員代表である「総代」企業を中心に情報提供を行い、その後、中堅・小規模事業者へと広げる方針を採りました。地域への影響力が大きい事業者から順に取り組むことで、波及効果を狙っています。
計画の「策定支援で終わらない——「実行」まで伴走する支援
同金庫の支援の特徴としては、計画策定後の「実行」段階まで伴走している点も挙げられます。
例えば、従業員向けの食料備蓄の必要性を認識しながらも、具体的な行動に移せていなかった若い経営者に対しては、防災食の調達先を探す支援を行った事例もあるといいます。
例えば、従業員向けの食料備蓄の必要性を認識しながらも、具体的な行動に移せていなかった若い経営者に対しては、防災食の調達先を探す支援を行った事例もあるといいます。
「防災フェスで出会った業者を紹介しました。最終的には地元業者からの調達になりましたが、金庫のネットワークを活用し、実行まで支援できた事例です」(同氏)
事業者からは、「計画を作ることが目的ではない。策定後の具体的な支援がありがたい」といった声が寄せられています。
また、リスクファイナンスに関する支援も強化しています。関東経済産業局が開発した「リスクファイナンス判断シート」については、ジギョケイと併せて作成するよう、営業店に指示しているとのことです。さらに、計画策定後には、希望する事業者には、損害保険会社から現在加入している保険では十分にカバーできていないリスクファイナンスに関する助言も実施しています。
事業者からは、「計画を作ることが目的ではない。策定後の具体的な支援がありがたい」といった声が寄せられています。
また、リスクファイナンスに関する支援も強化しています。関東経済産業局が開発した「リスクファイナンス判断シート」については、ジギョケイと併せて作成するよう、営業店に指示しているとのことです。さらに、計画策定後には、希望する事業者には、損害保険会社から現在加入している保険では十分にカバーできていないリスクファイナンスに関する助言も実施しています。
取引先を守ることが金庫を守ること
同金庫がこの取り組みに注力する背景には、地方金融機関ならではの経営的な視点もあります。
一つ目は、ジギョケイの策定プロセスにおいてリスクを洗い出すことで、蓄電設備や発電機などの設備投資に伴う資金需要の獲得が見込める点です。もう一つは、取引先を守るという長期的な視点に立った取り組みです。
「地方では事業者が廃業すると新しい事業者がなかなか参入してこない。取引先を守ることは、結果として金庫の収益を守ることにつながる。その目的を明確に示すことが重要です」(同氏)
一つ目は、ジギョケイの策定プロセスにおいてリスクを洗い出すことで、蓄電設備や発電機などの設備投資に伴う資金需要の獲得が見込める点です。もう一つは、取引先を守るという長期的な視点に立った取り組みです。
「地方では事業者が廃業すると新しい事業者がなかなか参入してこない。取引先を守ることは、結果として金庫の収益を守ることにつながる。その目的を明確に示すことが重要です」(同氏)
実際に、「金融以外の分野でも支援してくれる」という評価が新規顧客の獲得につながった案件も数件発生しており、防災支援は営業面での差別化にもつながっています。
今後は「点の支援」から「面の支援」への転換を目指しています。金庫の5つの営業ブロックごとに商工団体等と連携し、2か月に1度のペースで、地域ごとにセミナーやワークショップを開催する計画です。事業者同士の横のつながりが生まれることも期待されています。
さらに、千葉科学大学危機管理学部の学生が地域の事業者のもとへ出向き、ワークショップ形式で防災の取り組みを支援する活動についても検討が進められています。
能登半島地震で被災した信用金庫の当時の支店長から、「こういった取り組みを事前にやっておくべきだった」という声を直接聞いたことも、活動の原動力になっているといいます。
今後は「点の支援」から「面の支援」への転換を目指しています。金庫の5つの営業ブロックごとに商工団体等と連携し、2か月に1度のペースで、地域ごとにセミナーやワークショップを開催する計画です。事業者同士の横のつながりが生まれることも期待されています。
さらに、千葉科学大学危機管理学部の学生が地域の事業者のもとへ出向き、ワークショップ形式で防災の取り組みを支援する活動についても検討が進められています。
能登半島地震で被災した信用金庫の当時の支店長から、「こういった取り組みを事前にやっておくべきだった」という声を直接聞いたことも、活動の原動力になっているといいます。
対話を重ね、地域に必要な支援メニューを開発し続ける
最後に、今後ジギョケイの策定支援に取り組む支援機関へのメッセージを伺いました。
「関係団体との意見交換を積み重ねることが大切です。企業によって考え方は異なりますが、時間をかけて対話を重ねることで知見が蓄積されます。国の機関や民間機関との情報交換を重視しながら、地域に必要な支援メニューを開発し続けることが重要だと考えています」(同氏)
「関係団体との意見交換を積み重ねることが大切です。企業によって考え方は異なりますが、時間をかけて対話を重ねることで知見が蓄積されます。国の機関や民間機関との情報交換を重視しながら、地域に必要な支援メニューを開発し続けることが重要だと考えています」(同氏)
- 本事例のポイント
- 銚子信用金庫の事例のポイントは、大きく2つあります。第一に、地域金融機関、損害保険会社、大学、保険代理店という5者が連携する枠組みを同金庫が中心となって構築し、面談2回で完結する効果的な計画策定体制を設計した点です。第二に、計画の策定にとどまらず、備蓄品の調達先紹介やリスクファイナンスの提案など、策定後の「実行」段階まで伴走支援を行っている点です。
取引先を守ることが金庫自身の経営基盤を守ることに直結するという明確な目的意識のもと、これらの取り組みを金庫内の業績評価に結び付けて従業員の動機付けを図っていることが、取り組みの持続性を支えています。地域金融機関がジギョケイ支援の中核を担い得ることを示す先進的な事例といえます。