対策方法を検討しましょう~ヒト・モノ・カネ・情報で考える~
事業継続力強化の一番のポイントは何か?
第7話までで災害が発生したとき、どんなことが起こりうるか、どんな被害が発生する可能性があるかを考え、事業継続・再開のスピードを左右する初動対応について検討してきました。さあ、いよいよ次は、災害発生後、事業の停止期間をゼロまたは最短にし、損失を最小限に抑えるため、「ヒト・モノ・カネ・情報」という4つの経営資源の観点から事前対策を考えてみましょう。
最初に考えたいのは、「自社にとって重要な業務が何か」と、それが停止するのは「どのような災害等が発生した場合か」です。第6話で自社の脆弱性をチェックしました。申請書では、弱点となる項目がなかった場合や災害等の影響を受けない経営資源については記載しなくてもよいことになっています。
事業継続力強化に役立つ対策と取組:ヒト
ここがポイント!『ヒト』
- 通常の交通手段が使えない場合も考えられます。そうした事態に備えて、電動機付き自転車を用意するなどの対策も立てておくといいでしょう。
- 人員不足については親会社、協力会社と協力体制を結ぶほか、OB社員の活用など、現従業員だけにとどまらない対策を考えておくのも一つの方法です。OB社員の中には、退職後に導入された機器の操作が課題になる場合もあります。定期的にスキルの更新研修を行うのも有効です。
- 担当者が出勤できず、業務が遂行できないという事態を回避するため、複数の担当者が業務をバックアップできるよう、研修や人事異動を行ったりすることも検討してみましょう。
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脆弱性 |
具体的な対策事例 |
1 |
出勤しないと実施できない業務がある |
会社の近隣に居住する従業員を緊急参集要員として任命する。参集する要員の人数も検討する |
2 |
感染症対策のため、在宅勤務できる環境を整える |
3 |
特定の人にしかできない業務がある |
人事異動・研修などで、社員の多能工化を進める |
4 |
多くの人員を必要とする業務がある |
多くの人員を必要とする業務がある |
5 |
OB社員に対し、被災時に業務を支援してもらうように取り決めをしておく。必要なら随時、研修を行う |
6 |
多くの人が集まる定例会議等がある |
あらかじめ会議の延期や中止、オンラインによる実施の検討をする |
事業継続力強化に役立つ対策と取組:モノ!
ここがポイント!『モノ』
- 自社の事業の継続に必ず必要なものは何かを考えて対応策を検討しましょう。
- 建物や設備の耐震対策だけでなく、落下物やガラスの飛散対策も考えましょう。
- 停電、断水など、インフラが停止した場合の対策はできていますか。
- 大きなモノの損壊にばかり目が行きがちですが、在庫品や備蓄品の確保・保管についても確認しておきましょう。
- 浸水被害は、平時から排水溝等の掃除を定期的に行い、不具合箇所を見つけたら速やかに修理を行うことで軽減できる可能性があります。平時の取組状況を見直してみましょう。
- 税制優遇の対象となる設備の導入を予定する場合は、具体的に導入する設備を、融資を受けて設備・機器を導入する場合は、必要な資金の額及びその調達方法を忘れずに記載しましょう。
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脆弱性 |
具体的な対策事例 |
1 |
インフラ代替手段が未整備 |
近くを流れる川からの採水に向け、ポンプを備蓄する |
2 |
敷地内などの井戸を利用可能な状態で維持する |
3 |
停電に備え、照明設備、充電用モバイルバッテリー、発電機等を設置する |
4 |
ITが利用できない場合に備え、手書き伝票での対応など、代替手段を実施する |
5 |
耐震対策が十分でない設備がある |
棚やパソコン、什器等の固定状況、耐震対策の状況を確認し、必要に応じて固定または免震装置を導入する |
6 |
社屋・工場の耐震性能を診断する。耐震性能が不足している建物は耐震補強工事を実施する |
7 |
社屋・工場のガラスに飛散防止策を実施する |
8 |
照明、吊り天井などに落下対策を実施する |
9 |
高所から重量物が落下する可能性がある |
災害時の代替生産方法、設備等の融通や設備の受入等について、平常時に連携協定を結ぶ |
10 |
二次災害の可能性のある設備がある |
二次災害の危険性があるボイラーや火器設備などに自動停止機能を設置する |
11 |
出火する可能性のある電気設備がある |
感電ブレーカーを設置する |
12 |
浸水対策が十分でない建物がある |
敷地外周にコンクリート塀などを設置し、敷地内に水が流入しないようにする |
13 |
排水溝などを定期的に掃除する |
14 |
建物出入口、通気口などの開口部に防水板を設置する |
15 |
重要設備の周囲を防水堤で囲み、在庫品の架台を高くするなど、防水措置を実施する |
16 |
設備ピット下部に釜場を作り、排水ポンプを設置する |
17 |
排水溝・排水管の径を拡大する |
18 |
雨漏り箇所を確認し、防水材の導入や業者への修理依頼などの対策を実施する |
19 |
物品の保管場所が浸水対策面で不適切 |
敷地内の周囲より窪んでいる箇所に商品などを保管・仮置きしない |
20 |
21 |
自社設備が使用不可になった場合に業務継続が不可になる |
遠隔地の同業者と災害時の代替生産や復旧支援を含む相互応援協定を締結する |
22 |
協力会社にて代替生産を行うため、手順書の整備、訓練などを行う |
23 |
建物・設備が利用できない状況に備え、設備の改修、作業工程や金型の標準化などを実施する |
24 |
取引先が被災した場合に自社の業務継続が困難になる取引先がある |
重要な業務に関する取引先に対しては、事前対策の策定や防災対策の充実などを要請する |
25 |
事業に必要な資源調達先を把握していない |
事業に必要な資源(設備、資材、燃料)の調達先リストを作成する |
26 |
備蓄品が未整備 |
災害発生直後から活動する従業員数を基に、備蓄しなければならない物資・量を検討、準備する |
27 |
感染症拡大期に対する事業所等の環境が未整備 |
マスクや消毒製品等の衛生用品を備蓄しておく |
28 |
換気設備やパーテーションを設置する |
29 |
事務所や、店舗の従業員間及びお客の適切な距離が保たれるよう机の配置を見直す |
30 |
感染症収束時の事業再開のための対策及び計画の策定が遅れている |
迅速な復旧・再開を妨げる課題を洗い出す |
31 |
ビジネスモデルの転換、今後の環境に合わせた設備の導入等の見直しを行う |
事業継続力強化に役立つ対策と取組:カネ
ここがポイント!『カネ』
- 災害発生時には、「事業再開までの運転資金の確保」と、「被災した建屋・設備の修繕・新築・新設のための設備資金」が必要になります。まずは、この2つの想定金額を算出しましょう。
- 現在の資金状況、保険・共済の活用状況を把握し、被害想定額に不足する場合、保険会社や金融機関等に相談し、事業継続のための資金調達手段を検討しましょう。
- 被災時の二重ローンを免れるため、災害時元本免除特約等付融資を検討しましょう。
- 災害に起因する事業停止等による喪失利益を補填する「損失利益補填保険」や、災害発生時を条件にあらかじめ定めた極度額や金利条件等で借り入れが可能な「災害対応型コミットメントライン」などの活用も考えましょう。
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脆弱性 |
具体的な対策事例 |
1 |
資金面の想定被害を把握していない |
自社の建物や設備の被害額と、代替生産のための費用、休業中の従業員給与、買掛金の支払い等にどの程度の資金が必要かを想定する |
2 |
自社の建物や設備の被害額と、代替生産のための費用、休業中の従業員給与、買掛金の支払い等にどの程度の資金が必要かを想定する |
現預金や保険の加入状況を確認し、想定される被害金額に不足する場合は、保険会社、金融機関、商工会議所等と相談の上、追加策を検討する |
3 |
建物や設備損壊等への補償が不十分 |
地震保険や地震共済への加入を検討する |
4 |
災害直後の運転資金に対する補償が不十分 |
休業中の利益を補填する保険や融資枠の確保を行う |
5 |
融資について災害時の免除特約等の条項を考慮していない |
新規の融資に際しては、災害時元本免除特約付融資での借り入れを検討する |
6 |
事業停止に備えた共済などに未加入 |
小規模企業共済へ加入する |
7 |
資金の積み立て未実施により災害時に使える現金がない |
定期預金、積立型預金、株や債券への長期分散投資により、計画的な資金の積み立てを行い、災害時の際の現預金に厚みを持たせる |
8 |
外出自粛要請に伴い売上が困窮する恐れ |
危機時を見越した資金の確保について商工団体や金融機関、保証協会等とコミュニケーションをとる |
9 |
国や行政の支援策(給付金、助成金、固定費の減免など)を調べ、活用するための準備をしておく |
10 |
事業転換により生き残りを図りたいが資金がない |
ビジネスモデル転換に向けた資金調達
業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業等の活用準備 |
11 |
公的支援策がわからない |
よろず支援拠点や商工団体への使用可能な公的支援策の相談 |
緊急時体制、被害状況の把握・情報の共有で考えたいこと
ここがポイント!『情報』
- 被災に備え、重要情報の保管場所や保管方法を確認し、対策を検討しましょう。
- サーバーやPCに保管されている電子データ・情報はバックアップを取っていますか。バックアップが取ってあっても、社内にしか保管されていないと、災害時、すべてが同時に被災して情報が消失する可能性もあるので、遠隔地保管を考えるのも有効です。
- リモート業務、テレワークの際の情報管理についても検討しておくとよいでしょう。
- サーバーに対する免震装置を導入する場合、税制優遇の対象となります。
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脆弱性 |
具体的な対策事例 |
1 |
情報設備の設置場所が浸水対策の面で不適切 |
水害に備え、電源装置、金庫、重要書類などを2F以上に設置、保管する |
2 |
データのバックアップの未実施 |
データのバックアップを取得する頻度を定め、定期的にバックアップを行う |
3 |
バックアップデータを近隣の施設で保管 |
バックアップデータを遠隔地へ保管するか、クラウドサービスを利用し、同時に被災しない仕組みを構築する |
4 |
リモート業務環境が未整備 |
クラウド環境を利用し、通常とは異なる拠点からのシステム利用を可能とする |
5 |
災害対策にかかわる情報を人的ネットワーク構築の未実施により取得できていない |
同業者組合などの定例会に参加し、災害対策の情報交換と、緊急時に備えた相互支援のための人的ネットワークの構築を実施する |
6 |
リモートワークにおけるセキュリティ体制が未整備である |
リモートワークにおける規程やルールを定める。リモートワーク下における情報セキュリティ対策を実施する |
計画をする前に(概要)
単独型の計画を立てる
感染症対策について