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事業継続力強化支援に取り組む支援機関ではカードゲームの活用が有効です~南会津商工会の事例から~
事業継続力強化支援に取り組む支援機関ではカードゲームの活用が有効です~南会津商工会の事例から~
2025.11.20
南会津町商工会
所在地:福島県南会津郡南会津町田島字行司12
職員数:11名(うち経営指導員4名)
代表者:会長 阿部 保憲
南会津町商工会は、福島県南会津郡南会津町の事業者が会員となって、お互いの事業の発展や地域の発展のために総合的な活動を行う団体です。国や都道府県の小規模企業施策(経営改善普及事業)の実施機関でもあり、南会津町、下郷町、桧枝岐村の3町村商工会が参加する南会津商工会広域連携協議会(事務局長2名、経営指導員6名、経営支援員10名)の幹事商工会として広域連携により事業者支援を実施しています。
福島県にある南会津町商工会が、広域連携協議会のメンバーである商工会職員を対象にした研修で、中小機構が開発したカードゲーム(ジギョケイ Business Survival WORKSHOP)を使用してくださいました。そのお話について、南会津町商工会で経営指導員として活躍されている鈴木崇史さんにインタビューさせていただきました。
目次
当地域における近年の自然災害と災害対応への認識
カードゲーム研修に取り組むこととなった経緯
カードゲーム研修の進め方と進行上の工夫について
カードゲーム研修を通じて得た感想と気付き
商工会での当面の取組み
他の商工会や各地の支援機関に伝えたいこと
当地域における近年の自然災害と災害対応への認識
協議会メンバーの各商工会が所在する地域では、平成23年3月の東日本大震災の後も、平成23年7月の新潟・福島豪雨災害、平成27年9月の関東・東北豪雨災害、令和元年東日本台風などの大規模災害を経験してきました。最近では、令和7年2月の大雪により福島県が会津地方の2市11町5村に災害救助法適用を決定したところで、自治体などの公的機関を中心に災害への備えが必要という認識が地域内で高まっています。
しかしながら様々な業務を抱える商工会においてはこれまで災害対策にまで手がまわらず、事業者支援においても補助金申請手続きの一環で事業継続力強化計画の策定支援を行う程度で、実効性の観点からは十分とはいえないのが実情でした。
カードゲーム研修に取り組むこととなった経緯
こうした状況の下で、南会津町商工会では、①小規模企業振興基本計画(第Ⅲ期)において、商工会の実施する小規模事業者の支援内容に「事業継続力強化支援」が盛り込まれたことに加え、②令和7年2月の雪害による交通網の遮断を経験して災害対応支援の必要性を痛感しました。そこで、鈴木さんは、令和7年6月に中小企業大学校東京校の支援担当者向け研修「事業継続力強化計画とBCP策定支援の進め方」に参加しました。
その研修の中で、中小機構が開発したカードゲームを体験し「カードゲームによるワークショップは、自然災害等のリスク認識や初動対応の必要性を実感するうえで極めて有効」と感じました。そこで、ご自身が在籍する南会津町商工会との職員向けに、「座学で学ぶよりもまずは考えるきっかけを作る」ことを目的に、カードゲームを使った研修の実施を考えました。
研修では、南会津町商工会が幹事を務める広域連携協議会に加え、隣接する只見川ライン商工会広域連携協議会にも呼び掛け、2つの広域連携協議会共同での職員研修として、商工会職員13名と経営指導員4名の合計17名が参加することとなりました。
カードゲーム研修の進め方と進行上の工夫について
研修の開催にあたり、中小機構が運営する中小企業強靭化支援ポータルサイトで公開されているカードデータをダウンロード、厚紙に両面印刷してハサミで切り抜き、カードを作成しました。厚紙はカードの手触り感が良く、ゲームを進めやすくなったそうです。
カードについては、役割カード、初動対応カード、災害カード、インフラカードを使用し、災害カードはバリエーションの多い地震と水害のみを使用しました。
参加者のグループ分けについては、4人グループ3組と5人グループ1組の計4組を作りました。それぞれに経営指導員1名が入ってファシリテーター役を務め、中小企業大学校の研修を受講した経営指導員が全体進行と5人グループのファシリテーターを兼任しました。
研修のプログラム内容は、大学校での研修に従い、被害想定と初動対応を考える第1回ワーク、早期復旧のための事前・事後対策を考える第2回ワークの順で進めました。第1回ワークでの初動対応カードは偶々異なる災害状況に分かれたため、各班の発表を聞きながら「自分たちならどうするか」を考える時間を作り、それぞれのグループの災害状況に応じたコメントを他グループの参加者から発言してもらいました。
参加メンバーは、日頃から交流していることもあって、積極的な発言が多く、討論も活発に行われました。
グループ発表では、冒頭にカードに記載された災害状況を読み上げてもらいましたが、プロジェクターで該当カードを投影して、参加者にカード内容を共有しました。投影作業に少し手間取ったことから、それぞれのカード画像を予め用意し、カードに番号を付しておけばより効率的に共有できたかもしれないと振り返ってくださいました。
カードゲーム研修を通じて得た感想と気付き
今回の参加者は、同じ豪雨災害による被災経験を持っている職員もおり、当時の状況を他の職員に共有するなど、過去の実体験からの防災対策を考えることができました。
また、カードで引いた災害が同じ災害(地震・水害)であっても、発生した時間や状況によって想定されるリスクや対応が異なるため、「災害の状況をカードで指定することで、具体的にシミュレーションができ、個人での思考を深めることができた」と評価する参加者の声もありました。
これまで「災害対応」という言葉は知っていても、具体的な取り組みの検討は十分とは言えませんでした。今回の研修を通じて災害を想定し、その被災時における対応や、災害前の事前対策を考える機会を作ることができました。
また、参加した各商工会において、まず自らの組織において着手すべき災害対策は何かを検討するきっかけとなり、実際に必要な物資はどのようなものかを自分が働いている現場に落とし込んで考えることができました。
商工会での当面の取組み
今回の研修に参加したそれぞれの商工会が事業継続力強化支援計画を策定し、行政との連絡・調整に取り組むことはもちろんですが、商工会自身が防災計画(BCP)を策定し、緊急時の備蓄品の見直しなど早急に体制整備を図らなくてはなりません。
事業者支援活動においても、本来の実効性ある事業継続力強化支援のために、事業者への声掛けと計画策定のサポートに取り組んで参ります。
他の商工会や各地の支援機関に伝えたいこと
リスク認識と初動対応に特化したこちらのカードゲームは、事業継続力強化を考えるきっかけとして非常に有効なツールです。今回のような組織内や複数事業者を交えてワークショップを開催するのはとても効果的です。また、私たちのような商工会を含む各地の支援機関においては、今回のような研修形式でカードゲームを活用するだけではなく、カードに記載されている災害状況をもとに、事業者の皆さんとの災害リスクや対応を考えるコミュニケーションツールとして活用できるのではないかと考えています。
【記事執筆者】
鷲山雄一
独立行政法人中小企業基盤整備機構アドバイザー
中小企業診断士、防災士
金融機関勤務を経て独立。金融機関では、業務継続体制の整備を含む経営企画・システム・内部監査等の幅広い業務を経験。独立後は、事業継続力強化計画の策定・運用および実効性向上支援に取り組んでいる。
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