万が一に備える「災害対応型コミットメントライン」

2022.04.18その他

事業拠点をどこに構えていても、地震や豪雨などの自然災害を免れることはできません。しかし、中小企業の中には、防災・減災対策をまだ講じていない企業、講じたい意志はあっても何から手をつければよいかわからないという企業が多数存在します。そうした企業に向けて、株式会社 商工組合中央金庫(以下、商工中金)が提案しているのが「災害対応型コミットメントライン」です。被災した場合の資金調達に役立つだけでなく、平時の資金調達にも利用でき、IR活動の一環としても有効なこの仕組みについて紹介します。

災害対応型コミットメントラインとは

通常の「コミットメントライン」とは、企業と金融機関があらかじめ設定した期間・融資枠の範囲内で、企業の随時借入を可能とする契約です。しかし、通常のコミットメントラインでは、震災などの大規模自然災害は金融機関の貸付不能事由のひとつに設定されています。万が一大規模自然災害によって被災した場合、その貸付不能事由に該当し、事業立て直しのための資金調達が困難となる可能性があります。

こうした事態に対応するために商工中金が2021年から提案しているのが「災害対応型コミットメントライン」です。その仕組みや特徴について、商工中金ソリューション事業部の太田万平(おおた・まんぺい)さんに紹介していただきます。

まず、商工中金が「災害対応型コミットメントライン」の提案を開始した背景について聞きました。
「当金庫の取引先の中には、相次ぐ自然災害に対しての備えとして、BCP策定を進めている企業様がいらっしゃいます。当金庫としてもお客様の事業継続力強化を応援すべく、中小企業基盤整備機構様などと連携してサポートを行なっています。ところが、『BCPを策定しようとしたら新たな課題が見えてきた。具体策を講じたいが、どうしたらいいかわからない』という段階で立ち止まっている企業様が少なからず存在するのです。そこで我々は、有事の際にお金の面で中小企業様へのサポートを強化するため、『災害対応型コミットメントライン』の取扱いを開始することにしました」

商工中金は従来から、当座貸越枠や、通常のコミットメントラインなどの短期資金枠を提供することで企業の資金繰りをサポートしてきましたが「災害対応型コミットメントライン」は、それらに加えて有事の際にも安定的に資金調達できるオプション的なファイナンススキームです。

「災害対応型コミットメントライン」には、有事を想定した2つの特徴があります。一般的なコミットメントラインと比較して説明します。

1つは金融機関の貸付義務の免除に関連します。一般的なコミットメントラインの契約規定では、自然災害が発生した際には金融機関側の貸付義務が免除される仕組みになっています。しかし「災害対応型コミットメントライン」では、商工中金と契約企業が事前に合意した自然災害が発生した場合は、商工中金側の貸付義務は免除されません。このため、被災した企業は事業立て直しのための資金が最も必要となる局面で、円滑な資金調達が可能となる体制を構築できるのです。

2つ目は、被災による利益・財務状況の悪化を事前に考慮した契約であるという点です。自然災害で被災した場合、企業の利益や財務は甚大なダメージを受けると想定されます。一般的なコミットメントラインでは、一定の利益水準、財務水準の維持を個別融資実行の前提条件としているため、被災をした場合、融資を受けられない可能性があります。しかし、「災害対応型コミットメントライン」では、事業に影響を与える災害が起きた場合、利益・財務水準の維持という前提条件は免除されます。

この2つの特徴により、「災害対応型コミットメントライン」を締結した企業は、自然災害などが起こった際にも円滑な資金調達が可能となるのです。

「当金庫のお客様のなかには、過去に被災した際、保険が下りるまでに時間がかかり、運転資金の調達に苦労したという方がいらっしゃいます。『災害対応型コミットメントライン』がそうしたお客様にとって、経営の安心材料の一つになればと考えています」

IR活動の一環として企業価値向上にも貢献

商工中金が2021年に「災害対応型コミットメントライン」の提案を開始してからの約1年間で、本契約に関する相談は累計約300件。契約企業の多くが、プレスリリースで「災害対応型コミットメントライン」の締結について発表し、リスクファイナンスに積極的な企業であるという姿勢をアピールしています。

そうした企業の一つが、滋賀県草津市にある草津電機株式会社です。同社はESG経営を積極的に推進し、その一環としてBCP策定を進めるために商工中金に協力を求めました。商工中金と中小企業基盤整備機構が連携してサポートを行い、2021年3月に同社は連携事業継続力強化計画の認定事業者となり、5月には災害対応型コミットラインの契約を締結。コミット額は10億円です。

「以前、あるお客様から『大手取引先からBCP対策を求められているが、対応できず困っている』という話を伺いました。『災害対応型コミットメントライン』は、そうした要求に対する答えにもなります。また、『災害対応型コミットメントライン』締結のプレスリリースを出すことで、地元自治体や消費者、ステークホルダーに対しても、いざというときも信頼できる企業として認知されやすくなります」

「災害対応型コミットメントライン」は、通常のコミットメントラインのオプション契約のような位置付けです。つまり、平時の運転資金としても利用できるのに加えて、災害時の資金を事前に確保できるのです。

「有事への備えとして借入を増やし、手元資金を厚くする企業様もいらっしゃいます。それは、有事の際に突然返済を求められるなどの円滑な資金調達に支障が出るおそれがあるからです。しかし、『災害対応型コミットメントライン』なら、災害時でも既存の借入を継続できますし、コミットメント枠内での新たな資金調達も可能です」

事業規模の大きな企業にとって利用価値が高い

「災害対応型コミットメントライン」締結に向けてのプロセスは、事業継続力強化計画の策定からご案内するケースが多いです。同計画はBCPの簡易版という位置付けです。これをベースに、商工中金と各企業はディスカッションを重ねて有事の際の課題を洗い出し、リスクを共有します。

「商工中金は企業様にBCP策定の重要性をご理解いただくために、全国で勉強会を開催しています。そのなかで、まずは簡易版(事業継続力強化計画)からBCP策定に取り組みましょうとお話しします。また、BCPを策定した企業様に対してもサポートを継続し、つねにブラッシュアップする必要性をお伝えしています」

商工中金では、主に以下のようなお客様に「災害対応型コミットメントライン」をご提案しております。

1つ目は商工中金と親密な取引があり、しっかりとした事業性評価ができているお客様を対象としています。有事の際も想定して融資枠を設定させていただくことは、金融機関にとっても相応のリスクがあるため、一般的なコミットメントライン締結の際よりも、慎重な事業性評価が行われます。

加えて、被災から復旧までの間の逸失利益をカバーできるだけの企業体力があるかどうか、また一時的に被った損害を将来回復できるだけの事業基盤を有するかどうかなども踏まえてご提案をさせていただいています。

2つ目はBCPを策定している、もしくは策定予定の企業であること。商工中金は自然災害への対策、被災した際の事業復興計画などを踏まえて、融資可能かどうかを判断します。

「お客様とともにBCPを策定するなかで、私たちが『災害対応型コミットメントライン』で対応が難しい場合、通常のコミットメントラインや当座貸越をご案内させていただくケースもあります。また、『災害対応型コミットメントライン』が最適であっても当金庫1行でリスクを取り切れない場合は、他の金融機関と協調してシンジケーション方式での契約をご提案することもあります」

「災害対応型コミットメントライン」はあらゆる企業に適しているわけではありませんが、条件が合致すれば有事の際の大きな安心材料になります。また、導入を検討する際に商工中金とともにBCPを見直すことにより、経営改善につながるというメリットもあります。これを機に、有事の際の資金繰りについて今一度考えてみるのはいかがでしょうか。

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