計画策定時は、火災の危険性を想定する
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、事業継続のための防災・減災対策の具体的な内容を明文化することを目的としています。
そのため、計画の策定時は、台風や地震、豪雪等のさまざまな自然災害の可能性を想定し、風水害や停電対策、水や食料、燃料等の備蓄、従業員の安否確認システムの導入など、平時のうちに万全の態勢を整えておく必要があることは、すでに多くの事業者が考えていることでしょう。
しかし、自然災害だけを想定しておけばいいというわけではありません。台風や地震によって建物が倒壊すると電線がショート、または漏電が発生したり、使用中の暖房器具が転倒したりすると建物内に延焼する、いわゆる二次災害が発生するケースが考えられます。
事業継続力強化計画には、こうした火災のリスクも想定し、その対策を盛り込むことが大切だといえます。
オフィスにも火災の危険が潜んでいる
とはいえ、一般的なオフィスのような形態のみの事業者にしてみれば、火気や熱を発する器具がほとんどないため、火災が起きる可能性は考えられにくいと思うかもしれません。
しかし、オフィスには、パソコンやプリンター、スタンドライト等の数多くの電気機器があり、そうした機器の誤用(コンセントタップの容量オーバーほか)や故障(コンセント、プラグ、電源ケーブルの劣化ほか)による火災が発生しています。総務省消防庁が発表した「令和2年(1〜12月)における火災の状況(確定値)」によれば、電気機器による出火は、全体の出火原因の約4.6%(1,611件)を占めています。
このほかにも、プラグを挿したまま長期間放置していると、プラグとコンセントの間に埃がたまり、そこから火災の原因となるトラッキング現象が発生する恐れがあります。(参考:事業所で火災が発生した事例)
事業の営みがあれば必ず人の出入りがあるため、そうした場所にも少なからず火災の危険性があることが考えられます。定期的に清掃、点検をしておけば防ぐことができますが、身のまわりのどこでも火災が起きる可能性があることは知っておくべきでしょう。
「令和2年(1〜12月)における火災の状況(確定値)」(総務省消防庁発表)
設置義務がなければ消火器は必要ないのか?
多くの人が集まる場所、また火災の可能性がある場所は、延面積に応じて消防関係法令(第10条)で消火器の設置対象物となり、建物内に消火器の設置が義務付けられています。
- 通行又は避難に支障がなく、必要時にすぐに持ち出せる場所に設置すること
- 消火器は各防火対象物・部分から歩行距離20m以下(大型消火器は30m以下)になるよう設置し、各階ごとに設置すること
- 床面からの高さ1.5m以下に設置し、「消火器」の標識を見やすい位置に付けること。
- 地震や振動で消火器が転倒、落下しないように設置すること。
- 高温・多湿場所は避け、消火薬剤が凍結、変質又は噴出するおそれの少ないところに設置すること。
消火器に表示されている「使用温度範囲」内の場所に設置する。
高温や湿気の多い場所、日光・潮風・雨・風雪等に直接さらされる場所、腐食ガスの発生する場所(化学工場、温泉地帯等)等に設置する場合は、格納箱に収納するなどの防護を行う。
厨房室での床面、作業場の地面等への直置きは避け、壁掛け又は設置台、格納箱に設置する。
- 6か月に1回以上は外形を点検する。
(資料提供/一般社団法人 日本消火器工業会)
現在設置している消火器が正しい場所で管理されているのかの確認をしましょう。さらに、2022年から設置義務のある建物への旧規格消⽕器の継続設置が不可となりました。これについて⼀般社団法⼈⽇本消⽕器⼯業会 和⽥洋⼀⽒に聞いてみました。
「現在設置している消⽕器をご確認ください。2010年製以前の消火器すべてと2011年製の一部が旧規格消火器です。旧規格消火器は、2022年から法的には消⽕器ではなくなり、設置義務のある建物に置いてあったとしても、消火器が設置されていると認められません。適応⽕災のマークを確認していただき、旧規格消⽕器があれば、速やかに交換をお願いします。現在販売されている消火器はすべて新規格消火器です。」(和⽥⽒)
旧規格の消火器は「普通」「油」「電気」がすべて漢字で書かれていましたが、新規格ではイラストに変更されています。
一方、消火器の設置義務がない事業者は、消火器を置かなくても問題ないのでしょうか。和田氏に聞きました。
「法令上は問題ありません。しかし、従業員が何か作業をしているところであれば、⽕災が発⽣するリスクに備えるべきでしょう。もし⼤規模な⽕災が発⽣した場合、消防に通報してもすぐに駆けつけられないことが考えられます。さらに地震が発⽣した際、停電や断⽔などで消防用設備や消防⽤⽔が使えなくなるケースも考えられます。電気や水道が喪失したときに火災が発生しても、消⽕器があれば自らの手で鎮⽕、つまり初期消⽕が可能になります」(和⽥⽒)。
電気機器による火災のほかにも、最近は感染症対策のための飛散防止フィルムやアルコール消毒液を設置している場所が増えているため、そうした可燃性の高いものが近くにあると、火災が発生しやすくなるともいわれています。
消火器の設置と維持管理はどうするか
消火器を設置する際、どういった点に注意しておけばいいでしょうか。和田氏に聞きました。
「消⽕器には、住宅⽤(家庭⽤)と業務用の2種類があります。設置義務がない事業者の場合でも、事業所での消火を想定して製造された業務用をお勧めしています。消⽕器の消火薬剤には粉末や⽔系(液体)、ガス系(二酸化炭素)といったものがありますが、一般的には幅広い⽕災に対応できるABC粉末消⽕器が設置されるケースが多いです。さらに⽕災の危険性が⾼い場所には⽔系消⽕器とセットで常備しておくと安⼼できます」(和田氏)
ABC粉末消⽕器は、消防機器業者やホームセンター、インターネットのショッピングサイト等で購⼊できます。参考までに、取材班が市場価格を調査したところ、ABC粉末消⽕器3kg(10型)は1本6000円〜8000円程度でした(2022年3⽉現在)。
消火器の設置義務、及び定期点検が必要な事業者は、法令に従い適切な対応をしていると思われますが、消火器の設置義務がない事業者は、消火器を長期間放置してしまうことが考えられると和田氏は指摘しています。
「このところ、BCP対策や事業継続⼒強化計画の策定で消⽕器の設置に積極的な事業者、経営者の⽅は増えていますが、消⽕器を設置するだけではなく、平時の維持管理はどうするか、火災が発生した場合はどういったオペレーションで鎮火活動をするのか、といったルール作りを決めておくことが大切です。消⽕器の操作は難しくありませんが、いざ⽕災が発⽣すると慌てて適切な消⽕活動ができなくなることがあります。そうしたことを避けるうえでも年に⼀度は防災訓練で消⽕器の扱い⽅を従業員の皆さんで確認してもらうのがいいでしょう。また、点検義務がない建物でも資料(下記)を参照して半年に1度程度は維持管理をしていただき、消火器が正常な状態にあるかどうか確認をしていただければ安心です」(和⽥⽒)
このほかにも、消防庁が提供している「消防用設備等点検アプリ」で、自社の消火器が正常に維持管理できているのかを、スマートフォンで一括管理できるようになっています。
消防用設備等点検アプリ(消防庁)
(出典/総務省消防庁)
もし、火災によって自社の資産が消失してしまったら、事業の復旧に膨大な時間や費用がかかるだけでなく、取引先企業やサプライチェーン全体にも大きな影響を及ぼします。さらに、人的被害が起きたらそれだけの問題ではすみません。そういったことからも、事業継続力強化計画を策定する際は、火災のリスクも想定し、消火器や消火設備を適切に設置、維持管理することが、これからの小規模事業者や中小企業の防災対策として欠かせないものになるでしょう。