事業継続力強化計画は事前の防災・減災対策として重要な計画です。しかしながら、有事の際には、事業再開のため緊急資金が必要になることが多い。損害保険代理店の株式会社松本ほけんセンター(代表取締役松本聡氏)は、自社の顧客に事業継続力強化計画を積極的に案内している損害保険代理店の一つです。その取り組みを今回ご紹介したい。
前列右が松本氏
①お客様が災害と向き合うために・・・
同社代表取締役松本氏(以下松本氏)はこう語る。
『所属保険会社から事業継続力強化計画に関する情報提供を頂いた。これは“いい制度だ”と感じたことがきっかけでした』
東日本大震災等の大規模自然災害の罹災状況について、被災地域の住民や損害保険代理店、損害保険会社の保険金お支払いセンターや鑑定人の方々から、現地の中小企業の方々が事業再開や保険金をもらうことが出来ない状況や廃業せざるを得ない状況を知った。
一方で、神奈川県は大震災や大きな水害・台風被害による被災の経験をしたことがない方が多いことから、自分事のように捉える機会が少ない。松本氏は、万一の際の備えや休業損害などの保険に加入されていないことを肌で感じていた。『お客さまに対して、有事への備えの大切さをどうやって伝えるべきか・・・』と思案、そして試行錯誤を繰り返す中、所属保険会社から事業継続力強化計画のことを聞いた。
まず初めに当社が取得することで、お客様への説得力も増すと考え、認定取得を決意。
②事業継続力強化計画の作成・申請は決して難しくない!
―いま対策に取り組めていなくてもいい。これからやればいい!―
事業継続力強化計画の策定を進めていくと、“自社でできている対策”と“自社ができていない対策”がよくわかる。大事なのは、現在取り組めていないところを把握し、今後積極的に取り組もうという意識を持って事業継続力強化計画を作成することだ、と松本氏は語る―。
事業継続力強化計画の申請書を作成したが認定まで至らなかった人はいないと思う。実際に記載をする書類は補助金の申請などと異なり表紙を含め最低わずか5枚であり、手引書もあるので実際に作成を始めてみると難しさは感じない。どうしてもきっちり作ろうという先入観があるので大変と感じるが、実際には非常にシンプルで簡単です。
普段から書類作成に慣れていない方は書類作成に抵抗があるかもしれないが、あくまで計画を提出するものであるために、自社のリスク対策を考える機会にするぞ!くらいの気持ちで作成するように、松本氏はお客様に案内しているとのこと。
『重要な取引先へ誰が連絡を行うか?』
これは、事業継続力強化計画を策定する上で、必要な対策だったと松本氏は語る。
それまで、社員名簿や取引先の連絡先一覧は作成しておりましたが、大口のお客様に“誰が”連絡するかまでは決めていなかった。松本氏はお客様に事業継続力強化計画の案内をしていく中で、逆に気付かされたとのこと。-お客様と対話を重ね一緒になって考えることで意識がさらに醸成され、実効性が高まった―
③認定取得された後に本業に出た好影響について
―事業継続力強化計画の認定を案内することに価値がある!-
事業継続力強化計画の認定ロゴマークをHPへの掲載や、名刺へ記載を行うことでお客様への情宣を行っていますが、特に名刺による効果が大きい。中小企業のお客さまには商談の際、早い段階でこの認定制度の話をしますが、名刺をお見せし「経済産業省の認定ロゴマークがお客様のご名刺にも記載出来ますよ。」とお話をするとご興味を持っていただける経営者の方は非常に多い。
お客様自身の信頼度向上に繋がるため、松本氏はお客様へ「元受先へも、自然災害・感染症対策にも積極的に取り組んでいますよと企業PRになるので自慢してください。」とSDGsの話題と併せて話をしているとのこと。
④事業継続力強化計画をおすすめされる際の5つポイント
松本氏が語るお客様へおすすめする際のポイントは以下5つ。
- 1.社長など経営者の方へお話を行う
- 2.実際に災害があったとき、従業員の連絡網はありますか?
- 3.お得意先の連絡は誰がするか決まっていますか?
- 4.社内での意識が高まり、お取引先にもPRができます。
- 5.補助金や税制優遇など特典もあるうえ、だいたい45日で完成します。
認定のロゴマークだけすぐ取りたいという場合は、2回程度の面談で作成・申請は可能ですが、それではあまり意味がないと松本氏は語る。
『お客様が加入している損害保険の補償内容を確認し、お客様自身でリスクを把握し、しっかりと考えていただくとなると、3~5回の打ち合わせは必要。』
お客様が普段考えられていないことを考えることで、やればやるほど興味を持たれ、ある程度中身を決めていかないといけないので時間がかかるケースも多い。また、お客様によって興味を持たれるポイントが異なり、例えば人的なこと、資金繰り、什器・設備、電源等どのリスクに重きを置いているかに合わせて話を進める必要がある。
⑤損害保険代理店が事業継続力強化計画の策定支援をすることの意義
損害保険代理店がこの制度を案内することは親和性が極めて高く、とてもいいことと考える。
中小企業の経営者が自ら口を開いて、自然災害や感染症リスクについて教えてくれることは少ない。しかし、事業継続力強化計画の策定をしていくと、経営者の皆様に“ある種の気づき”をもたらすことが多々ある。松本氏は、これまで多くのお客様へご案内を行い、10社以上のお客様が事業継続力強化計画の認定を取得できた。
⑥認定取得後に営業活動にどのような変化が出たか
■お客様との関係強化とビジネスチャンスが増えた!
事業継続力強化計画の案内、そして計画の策定支援を行うことで、損害保険代理店としてのビジネスチャンスは増えた。事業継続力強化計画を策定すると、お客様は地震保険や休業補償の重要性に気づいて頂き、加入を検討されることが多い。
―そう語る松本氏は、さらに「ビジネスチャンスが増えるだけでなく、お客様との距離が近くなりますので、お客様との良好な関係が構築できる。」とのこと。
新型コロナウィルスの感染拡大の出口が見えず、オンラインによる商談の機会が増えた今だからこそ、お客様と一緒に自然災害や感染症リスクを考えることは重要だ。
⑦認定計画をお客様へお勧めされ取得された企業の反応
■取得は簡単かつ自社の備えを見つめなおす良いきっかけに!
『ありがとう!』
―松本氏はお客様と一緒に事業継続力強化計画の策定をすることで、一番聞くことの多い言葉。
松本氏から事業継続力強化計画の案内を受けたお客様は、「手間だ」と言葉を漏らすことが多い。松本氏は『手間だと感じるものを一緒にやることに意味がある。自分の会社を見つめなおすきっかけを提供し、認定取得のサポートまでしてくれる損害保険代理店が少ない。つまり他社との差別化になっている』と教えてくれた。
さらに、お客様は計画作成後に実効性を検討されるケースが多い。
―緊急時の対応は徹底されているか?
―手元資金はあるか?
―加入している保険は今のままでよいか? など
それは、お客様からの感謝の言葉だけでなく、損害保険代理店にとってのビジネスチャンスの創出にもつながっている。この支援から得られる効果は計り知れない。
⑧今後の展開について
■更なる制度の普及とBCP策定支援・・・そしてその先にある大規模災害への万全の備えを
『引き続き事業継続力強化計画制度を1社でも多くの企業へ広めていくと共に、将来的にはお客様の実効性あるBCP策定のお手伝いもしていきたいと考えている。特に製造業などへは避難訓練などのお手伝いもできるよう人員も増やしていきたい。』と語る松本氏。
“お客様には自然災害や感染症から早期に復旧してほしい”
そんな思いが松本氏の活動の原動力となっていることは間違いない。
【執筆者】
舟根 正浩氏 |
損害保険ジャパン株式会社 企画開発部 課長代理 |
経済産業省、中小企業庁、文部科学省などの官公庁を担当。国の政策を常にウォッチし、目指す方向を捉え、浮き彫りとなった社会課題の解決に資する保険商品・サービスの開発、およびマーケットの開拓が主な業務。