遠隔地の同業他社との連携で地域の災害復旧を手厚く
株式会社アウテック松坂
- 代表取締役
- 穂谷 あかね
- 業種
- 建設業
- 所在地
- 愛知県刈谷市小垣江町御茶屋下62-1
- 社員数
- 13名
愛知県刈谷市を拠点とする建設会社で、「美しく暮らそう」というフィロソフィー(経営理念)のもと、屋根工事、外壁工事、太陽光発電機工事などを事業領域とする。社員のほか、協力会社との連携、外部の職人を活用する「登録親方制度」を推進。東海三県で高いシェアを持つ。さらに次世代を見据え、社内外の人材の連携による若手職人育成にも力を入れる。
インタビュー(11分41秒)
東日本大震災をきっかけにBCPへの対応を模索
株式会社アウテック松坂は、愛知県刈谷市を拠点とし、愛知県、岐阜県、三重県のいわゆる東海三県を営業エリアとする建設会社です。
「前身は先代である父が1988年に設立した有限会社松坂商店で、創業時は屋根や外壁工事に使う建築資材の運送およびその資材の倉庫管理業を営んでおりました。その後、お客さまから『施工もやってほしい』という声が寄せられるようになり、運送、倉庫管理、屋根外壁施工という三本柱で成長、社名もアウテック松坂へと改めました。私が事業承継した2013年には、事業の主軸は施工にシフトしており、また太陽光発電機設置工事も大きな割合を占めるようになっています」(穂谷氏)
こうした事業領域から、同社は地震や風水害など、自然災害により被害を受けた家屋の復旧に深くかかわってきました。
「東日本大震災では、被災地に社員や普段からお付き合いのある職人の方々を派遣し、復旧作業や仮設住宅の建設をお手伝いしました。しかし東海地方が同じような災害に見舞われ、弊社が大きなダメージを負い事業継続が困難になると、地域の復興の足を引っ張ることにもなりかねないと考えるようになりました。それがBCPに向き合った、そもそものきっかけです」(穂谷氏)
最初は“ハードルの高さ”を感じた事業継続力強化計画
その穂谷氏は、経営の勉強のために参加している「愛知中小企業家同友会」で、事業継続力強化計画のことを知ります。
「この団体はいわゆる“社長の学校”で、経営をとりまくさまざまな問題について話し合います。そのなかで私が『防災やBCPに興味がある』と話したところ、『だったら事業継続力強化計画に取り組んでみたら』とご案内をいただいたのです」(穂谷氏)
穂谷氏は、すぐさま事業継続力強化計画について調べますが、最初に感じたのは不安と戸惑いでした。
「堅苦しい(笑)タイトルで、とても難しいものなんじゃないかって思ったんです。うちのような小さな会社で取り組めるものなのか、そして取り組んだとしても認定してもらえるのかも不安でした。それでもとにかくやってみようと。そして同友会含め、顔を合わせた人に『ジギョケイって知ってます?』と聞くことが増えました。そうしているうちに『中小機構さんに相談してみたら?よかったら紹介しますよ』というお話しをいただいて。そこが事実上のスタートになりましたね」(穂谷氏)
地域の復旧により貢献するため、連携型を選択
穂谷氏が頭に描いたのは、大規模災害時でも地域の復旧に貢献できることと、感染症対策を行い事業継続力を強化することの2つでした。
「地域の復旧貢献では、まず自社の事業継続により、被災された方々の建物の直接的な復旧をお手伝いすることが重要です。そして次に重要なのが、悪徳業者の横行を阻止することです。悲しい現実ですが、地震、台風、洪水といった大規模災害のときは、必ず悪徳業者が入り込みます。屋根瓦が吹き飛ばされて困っている人に『ブルーシートひと張り20万円』などと吹っ掛けて、暴利をむさぼるんです。もし弊社がしっかりと事業継続できていれば、東海三県だけでも、そうした“二次被害”に遭うお客さまを守ることができます」(穂谷氏)
ただ穂谷氏は、自社ができることに限界があることもわかっていました。
「これまでも大型台風で復旧作業を行っているとき、お客さまを通じ『県境のちょっと向こうの知り合いが困っているから、助けてあげることはできないか』というお問い合わせをしばしばいただくことがありました。しかし弊社だけでは社員や職人さんもいっぱいいっぱい。さらに資材にも限度があって、なかなかそうしたご要望にお応えすることができなかったんです。
そんなとき、同じ目線でBCPに取り組んでいる事業者さんと連携できれば、困った人を助けることができる。またそれが遠隔地の事業者さんであれば、大きな災害で人や資材が払底しても、カバーし合うことができるのではないかって。
そして事業継続力強化計画について中小機構さんとディスカッションしていくなかで、連携型があることを知り、以前から交流のあった埼玉県の事業者さんにお声がけし、連携事業継続力強化計画の策定を目指すことになりました」(穂谷氏)
想定されるリスク:地震
リスク発生による影響
アウテック松坂が立地する愛知県刈谷市に今後30年以内に震度6弱の地震が発生する確率は72.2%(防災科学研究所 地震ハザードステーション参照)。
連携事業者が立地する埼玉県草加市に今後30年以内に震度6弱の地震が発生する確率は64.4%(同)。ともに津波の被害は想定されていない。
営業時間中の発災では、社内では資材や設備の落下、避難中の転倒による負傷を想定。各現場では足場からの転落、窓ガラスや建物の倒壊による負傷を想定。
また交通の途絶による帰宅困難者が発生する。
夜間の発災では翌日以降の出社が困難になる。
発災後は現場の安全確認、作業の中断、物流機能の停止、社員や職人の配置ができないなど、業務再開に困難が予想される。
社内サーバーの破損でデータが喪失し、事業活動が困難となる。
対応策と効果
アウテック松坂では、オフィス等に避難場所を掲示、また従業員向け手帳に記載する。
連携事業者は非常出口を示しており、建物横の駐車場を避難場所として利用する共通認識を得ている。
両者とも、社員グループラインを活用し、災害発生時の安否報告を行う。
アウテック松坂と連携事業者とは、両者の災害本部長が連絡を取り合い、災害発生時には連絡会議を設け、被害の有無にかかわらず情報収集を図る。
被災事業者から要請等があった場合には、復旧等に必要な人員の派遣、資材の輸送、工具の貸与、状況に応じて被災していない地域での調達、融通も検討する。
共同で重要情報をバックアップするためのサーバーを遠隔地に設置することを目指す。
想定されるリスク:水害
リスク発生による影響
愛知県刈谷市は年に数回台風が通過、水害発生時は0〜0.5mの浸水を想定(国交省データ)。
埼玉県草加市は1F床上浸水が想定される(草加市ハザードマップ)。
大規模水害の場合、いずれも事業継続が困難になる。
対応策と効果
※地震時の対応策と効果と同様
想定されるリスク:感染症
リスク発生による影響
社員や職人に感染者が出ると、感染拡大防止のため現場作業が停止する。
保育園や学校の休園休校により、社員の出勤が困難になる。
社員が担当していた業務情報や引継ぎが滞り、顧客に迷惑がかかる。
在宅勤務の社員のPCから情報漏洩が発生し、取引先の信用を失うなどの影響が想定される。
対応策と効果
地域に新型感染症の感染者が発生した場合、連絡会議を設ける。
マスクや消毒液などの衛生製品の融通を行う。
リモートツールを活用、連携での申請もスムーズに
はじめて挑む事業継続力強化計画、中小機構のサポートがあるとは言え、遠隔地の事業者との連携はスムーズに進んだのでしょうか。
「埼玉県のその事業者さんも、やはり埼玉中小企業家同友会のメンバーで、弊社と同じく屋根、外壁工事を専門にしていることもあり、これまでも施工技術や新たな素材などでさまざまに情報交換させていただいていました。
実際の連携の段取りとしては、中小機構さん、弊社、そして埼玉県の事業者さんをリモートツールを使ってつなぎ、地震や水害のリスクと災害発生時の対策、感染症への対応など、話し合いながら計画を練り上げました。
中小機構のご担当がとても聞き上手、まとめ上手な方で、毎回のヒアリングのあとで作成していただいた文案を弊社、そして埼玉県の事業者さんにメールしていただき、確認するという流れでした。
だいたい月に一度のオンラインミーティングで、計画の中身が固まるまでにほぼ半年でしたね」(穂谷氏)
連携する事業者との交流を深化、本業への好影響も
こうして連携による事業継続力強化計画を策定した同社は、その認定を積極的にPRしています。
そして連携する埼玉県の事業者とは、さらに親密な関係を築いているとのことです。
「これまでも経営者同士の交流はありましたが、連携後はより緊密になり、新たな施工技術や素材の情報交換、現場の社員や職人さんが互いに訪問しての交流も進んでいます」(穂谷氏)
穂谷氏は、さらに進んだBCPも視野に入れています。
「いまは埼玉県の事業者さんとの連携ですが、これをもう少し進めて近隣の信頼できる事業者さんとも取り組み、先ほど申し上げた『助けたいけど人材、資材の問題で助けられない』という課題を解決したいと思っています。また材料メーカーなど仕入れ先との連携も強化し、災害の際の事業継続力をいっそう高めていきたいと思います」(穂谷氏)
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