「地元とともに歩んできたパン屋だからこそできること」を災害時の力に

グルマンマルセ株式会社

代表取締役社長
鈴木 政裕
業種
製造業(食料品製造業)
所在地
岐阜県不破郡垂井町宮代441番地
従業員数
130人
拠点
本社工場・本店(岐阜県垂井町)、岐阜店(岐阜市)、一宮店(愛知県一宮市)、名古屋店(名古屋市)
ホームページ
https://guruman.co.jp/
グルマンマルセ株式会社は、1950年創業のパン・洋菓子の製造・販売会社。岐阜県内に2店舗、愛知県に2店舗、一部店舗でカフェも併設する直営店を運営するほか、自社工場から全国の高級スーパーやレストラン、地元の保育園などへの販売、オンラインショップでの販売を行っています。単独で事業継続力強化計画の認定を受けるほか、パン・洋菓子の製造に必要な原材料、エネルギーの供給事業者と連携して合計5社で連携型の認定を取得しました。
連携体:グルマンマルセ株式会社(代表事業者)、若山水道株式会社、有限会社丸昇食糧卸、長良電業株式会社、大垣ガス株式会社
土日には2,000人が訪れる人気店「GURUMAN VITAL パンの森」を営むグルマンマルセ。1950年に学校給食から事業を開始した同社は、「共に分けあう温かい社会の実現」を経営理念に、「繋がりを生み孤食を無くす」をビジョンに掲げ、広大な本店敷地内で、パン教室などのイベントを開催するなど、人との交流を大切にしています。鈴木社長は事業承継の準備として会社の存続理由を見つめなおす中で、自然災害というリスクに向き合い、事業継続力強化計画(通称ジギョケイ)に取り組むことになりました。パンを原材料から一貫製造しており、それもたった1日で製品にできるという特性を活かし、災害時に地域へ食料を届ける構想を立ち上げ、原材料・ガス・水道の供給元との連携型ジギョケイを策定しています。

事業承継が気づかせた「想定外」への備え

ジギョケイ策定に取り組む直接のきっかけは中小機構中部本部からの紹介でしたが、その土台には6年前から続く事業承継の取り組みがありました。息子2人へのバトンタッチに際し、外部の専門家を招聘し、一緒に「会社は何のために存在するのか」を深掘りする中で、大災害の発生という避けられないリスクについて考えるようになったと言います。
「企業として起きうる事態を想定していくと、努力の枠を超えた大災害だけは無視できない。事業承継するなら、それも想定できなければダメだと思いました」(グルマンマルセ株式会社 代表取締役社長 鈴木氏)
自社の存在意義と向き合った結論は「パン屋として災害時にやるべきことがある」でした。冷凍庫に1万個以上のパンをストックし、工場には小麦粉も砂糖も揃っている。リードタイムの短さ、常温保管、包装済みという特性は災害時の初期食料供給に適しています。
「地域の期待に応えられなければ、設備を直しても消費者の信任は得られない。パン屋としての役割を果たせなかったら、会社の存在意義はないと思いました」(同氏)

単独では動けない——連携型を選んだ理由

自社だけでは初期活動に限界があるため、鈴木社長は単独型と同時に連携型の申請にも取り組みました。パンを作るためには電気・ガス・水の確保が不可欠です。ガス会社、隣接する水道業者、原材料仕入先との連携を構築し、垂井町・岐阜市・一宮市の拠点で少なくとも1週間、活動できる体制づくりを目指しています。
最大の課題は電力です。送電が止まれば全設備が停止するため、自家発電機の導入が鍵ですが、まだ実現には至っていません。
「ガス・水・材料はストックがありますが、電気だけは単独ではどうにもならない。発電機があれば本当の意味での連携が動くと思っています」(同氏)
現段階では連携先との基本合意までで、具体的な運用計画はこれからということであるが、地元の町との役割分担の話し合いも含め、構想を実行に移す段階に差しかかっています。

「2035年に地震は来る」——社員を動かす仕掛け

社員の巻き込みも重要な課題です。「いつ来るかわからないことより明日の仕事を」という反応に対し、鈴木社長は二つの仕掛けを用意しています。
一つは、事業計画に「2035年に地震が来る」と明記すること。
「そのぐらい決めないと動かないんです。来なかったらまた先送りすればいい。2035年まで来ると信じて動くぞと伝えています」(鈴木氏)
もう一つは、定休日に全館の電気を切って行う防災イベントの計画です。クラウドファンディングに載せて「必ず実施する」状況をつくることで、社員がプロジェクトチームとして自然に防災を考える流れを狙っています。また、休日に冷凍庫のパンを無償配布するSDGsの取り組みを年3回ほど実施しており、社員自らが活動の主体となることで実践的な訓練にもなっています。
SDGsの取組として実施しているパン配布の様子①
SDGsの取組として実施しているパン配布の様子②

考えるだけならお金はかからない

鈴木社長は取り組みがまだ構想段階であると前置きをしつつ、このように語ります。
「考えるだけならお金もかかりません。まずは嫌なことでも目を向けることが大切です。支援してくださる方々がいますので、まず考えて相談してほしい。そうしないと、起きた後に事業がなくなるということになりかねません」(鈴木氏)「自社(パン屋)だからこそできること」を軸に据えたグルマンマルセの構想は、業種を問わず多くの中小企業にとってのヒントになるはずです。
本事例のポイント
グルマンマルセの事例のポイントは、大きく2つあります。第一に、事業承継の過程で自社の存在意義を問い直した結果、「パン屋だからこそ災害時に地域へ食料を届けられる」という独自の役割を見出し、それを計画の軸に据えたこと。第二に、パンの製造にはガス・水道・電力・原材料が不可欠であるため、単独型ではなく連携型も策定し、供給元との協力体制を構築している点です。「自社だからこそできること」から逆算して計画を組み立てるアプローチは、業種や規模を問わず、ジギョケイに取り組む際の出発点として参考になる事例といえます。