顔の見える関係づくりから始まった、工業団地の事業継続への取組

久世工業団地協同組合

理事長
西垣 潤
業種
協同組合
所在地
京都府京都市南区久世築山町378番地の1
従業員数
2人
拠点
組合事務所(京都市)
ホームページ
https://www.kuze.or.jp/
1963年に京都市市街地に立地していた機械金属関連の中小製造業が集団移転して設立された、京都府第1号の指定工業団地。現在は機械・金属をはじめ、樹脂、医薬品、木工、印刷など多様なものづくり企業が集積しており、共同事業や教育活動を通じて組合員企業の連携と発展を支えています。
2021年9月に同組合と組合員企業の2社と3者で連携事業継続力強化計画の認定を取得。2025年11月に企業数を18社と大幅に増やして連携事業継続力強化計画の認定を取得しました。
連携体:久世工業団地協同組合(代表事業者)、株式会社浅野、朝日レントゲン工業株式会社、伊藤精工株式会社、株式会社桶谷製作所、サンコーエンジニアリングプラスチック株式会社、株式会社精研、株式会社田中印刷、田中金属工業株式会社、株式会社西川電機、西垣金属工業株式会社、株式会社長谷川精密板金、株式会社富士電工、藤山産業株式会社、株式会社プロックス、ミヅシマ工業株式会社、株式会社ヤスダモデル、株式会社ワダ、株式会社ヤマコー製作所
久世工業団地協同組合は、京都市南区に立地する22社が所属する工業団地で、各社は平均30名程度の従業員規模で構成されています。京都市内でも古くから製造業が集積してきた南部エリアに位置しており、名神高速道路「京都南IC」から車で約10分、阪神高速8号京都線「上鳥羽出入口」から約15分と、交通アクセスに恵まれています。さらに、京都府道123号(水垂上桂線)に隣接していることから、京阪神エリアや中京圏への物流アクセスも良好です。
京都市が公表する地震ハザードマップでは、震度6弱クラスの揺れが想定されています。内陸部に位置しているため、津波や高潮のリスクは高くありませんが、水害については桂川流域にあることから、最大で約3メートルの浸水被害が想定されています。京都市内のものづくり企業が集積する地域であることから、災害発生時においても供給責任を果たすことが重要であると考えています。
こうした状況の中、これまで大きな災害を経験したことはありませんが、地震や水害を想定し、団地としての備えを模索してきました。まずは組合と、組合の理事を務める企業を含む3者で連携型の事業継続力強化計画を策定しました。さらに実効性を高めるため、参加企業数を増やすとともに、策定に関与するメンバーを経営陣から社員へと拡大し、2回目の申請につなげています。

従業員同士の関係づくりから始める

取り組みの出発点は、約5年前に防災・防犯に特化した委員会を設立したことでした。地震や水害に強い団地を目指す中で、まず重視されたのは、団地内企業同士の横のつながりです。
阪神・淡路大震災では、命が助かった理由の約7割が近隣住民の協力によるものとされていることを知り、団地内の実情と重ね合わせて強い危機感を抱きました。久世工業団地は、隣接する複数の工場が立ち並ぶ環境にありますが、社長や経営者レベルでは面識がある一方で、現場の社員同士は互いに顔や名前も知らない状態にありました。
有事に協力し合うためには、まず顔見知りの関係を築くことが重要であり、それが結果として有事の助け合いにつながるとの考えが、取組の背景にありました。そのため、組合内に防災対策を検討する委員会を立ち上げ、活動を進めることとなりました。

計画策定が目的になってしまった1回目


直接、事業継続力強化計画の策定のきっかけとなったのは、BCP策定セミナーへの参加でした。セミナーで講師が話した「組合全体のBCPを策定することで新たな取引が生まれる」という言葉に関心を持ちましたが、
立地条件の精査やサプライチェーン分析など、BCPはページ数も多く、ハードルが高いと感じていました。そこで、まずは「簡易版BCP」として着手できる事業継続力強化計画に注目しました。
中小機構近畿本部に相談し、当時はまだ組合内部での合意が十分に得られていなかったため、まずは理事長と副理事長が経営する会社と組合の計3者で申請することにしました。計画期間は最長3年間まで設定できますが、組合理事の任期に合わせ、2年間としました。
中小機構のアドバイザーと各組織の代表者が集まり、3〜4回の打ち合わせを重ねた結果、約1か月で計画を取りまとめることができ、無事に1回目の認定を取得しました。しかし、認定を受けたことで満足してしまい、計画を日常的な備えとして実践に落とし込むまでには至りませんでした。

ワークショップを行いながら丁寧に取り組んだ2回目の計画策定

そのような状況の中で、1回目の計画策定を支援した中小機構近畿本部のアドバイザーから、フォローアップ支援の誘いを受けました。そこで、1回目では平時の取組が十分にできていなかったという反省から、策定段階から見直すことになりました。「同じやり方を繰り返しても意味はない」と考え、今度は、当初の目的でもあった「団地内に顔の見える関係性をつくること」という具体的な目標を据えて取り組むことにしました。
「今回はジギョケイの認定が取れなくてもいい、という気持ちで、初めて作るつもりで臨みました。有事のときに声をかけ合える関係性にこそ価値があると思ったからです。そうした姿勢で各社に声をかけたところ、共感して参加してくれる企業が増えていきました」 (久世工業団地協同組合 理事長 西垣氏)
こうして、18社が参加する連携型の策定プロジェクトが始まりました。今回は、各企業から1~2名、経営者だけでなく、総務部長や工場長、従業員も参加しました。また、熊本県内の工業団地への視察も実施し、先行事例から学びながら準備を進めていきました。
2回目の策定では、参加人数が多かったことから、参加型のワークショップ形式で、合計5回にわたって実施しました。アドバイザーが進行役を務め、途中、被災状況をカードゲーム形式で体験できる演習も交えながら、各社が実施している防災の取組に関するプレゼンテーションや、緊急時の役割分担についてのグループ討議などを行いました。
特に工夫した点は、毎回グループ分けを変更したことです。5~6人一組の異業種・異企業チームとし、昼食を取りながら意見を交わすスタイルを徹底しました。やり取りを重ねる中で、企業の枠を超えて自然と親しみが生まれていきました。欠席者はほとんど出ず、各社の代表者もこの取組に協力的だったといいます。

「ワークショップの途中で、参加者同士が仲良くなっていくのが分かりました。以前は、社員の引き抜きなどを恐れて、他社との横のつながりを意図的につくらない雰囲気がありました。それがこの取組をきっかけに、考えられないほどオープンな関係へと変わっていきました。『今度は総務だけの勉強会をしよう』『あの会社の工場見学をしてみたい』といった声が、自然に出てくるようになりました」 (久世工業団地協同組合 事務局 赤池氏)
ワークショップをきっかけに、社員主体の委員会も発足しました。活動内容は、リーダー研修、総務担当者によるDX検討会、社員のみが参加する他社工場見学、レクリエーション、救命救急講習、女性社員のみの交流イベントなど、防災の枠を超えた多彩なプログラムへと広がっています。こうした変化は、団地内各企業で進む代表者の世代交代による組織風土の刷新とも重なり、団地全体の文化を塗り替えていく原動力となっています。

「顔見知り」こそが最大の防災インフラ——計画の実行と効果

 計画の実行により、実践的な備えが着実に整いつつあります。代表者が参加する緊急時専用のチャットグループが構築され、災害発生時に迅速に状況を共有できる体制が整いました。現在は、交通情報など外部の被害情報も共有できるよう活用の幅を広げており、平時から使い慣れることで、有事の際にも迷わず行動できるよう、継続的な運用を行っています。
各社の経営面においても効果が現れています。ジギョケイの認定を取得していることが取引先への信頼の証となり、問い合わせ対応や取引条件の場面など、経営活動に貢献しているとの声が聞かれます。「防災に取り組んでいる企業かどうか」を取引判断の基準の一つとする企業が増えている現状において、認定の有無が実際のビジネスに影響を与えるケースも出てきています。
また、団地のホームページには防災マップが公開され、AEDの設置場所や避難経路が地域に広く周知されています。今後は、年2回の協議会・訓練スケジュールを軸に、救命救急訓練や消火訓練などを組み合わせながら、継続的にPDCAを回していく計画です。

「社員が自分事にする」ことが、防災の第一歩

最後に、今後、連携型の事業継続力強化計画の策定を目指す事業者へのメッセージを伺いました。
「最初は代表者同士が知り合いでも、社員同士は全く面識のない状態でした。そのようなゼロの状態からスタートした私たちでも、策定のプロセスを通じて、ここまで変わることができました。重要なのは、経営者だけが動くのではなく、社員一人ひとりが自分事として関われる仕組みをつくることです。ランチを用意してワークショップに参加してもらい、チームを入れ替えて話をしてもらう——それだけでも人は変わります。費用もほとんどかかりません」(西垣氏)
 
本事例のポイント
久世工業団地協同組合の取組の特徴は、隣接する企業同士の関係性を土台とし、それをさらに強化しながら事業継続に取り組んでいる点にあります。従業員も巻き込んだワークショップ形式で計画を策定することで、従業員同士が顔の見える関係を築き、その結果、実態に即した計画が作成されるとともに、企業間の関係強化にもつながりました。
また、目的を明確にし、成果を重視したことが団地内企業の共感を呼び、参加企業を2社から18社へと拡大させる要因となっています。日常的なつながりを基盤とした取組と、その策定プロセスは、他の工業団地や中小企業にとっても参考となる取組といえます。