南海トラフに備え、「全員参加」の防災体制をつくる

森田フードシステム株式会社

代表取締役社長
森田 浩文
業種
製造業(食料品製造業)
所在地
三重県桑名市中央町2丁目38番地
従業員数
50人
拠点
本社(三重県桑名市)、員弁工場(三重県いなべ市)、東京営業所(東京都葛飾区)
ホームページ
https://www.morita-fs.co.jp
 森田フードシステム株式会社は、1916年創業の食品原料加工メーカーです。乳製品、洋菓子、ベーカリー、飲料など幅広い用途で使われるカラメル色素やデザートソースなど糖類加工品を製造・販売しています。

 南海トラフ地震の発生時に津波による浸水が想定される区域に本社を構える森田フードシステム。同社は三重県の支援事業をきっかけに事業継続力強化計画(通称ジギョケイ)を策定し、発災直後に迅速に動けるように社員全員を6つの班に分け、班ごとに具体的な行動を洗い出し、シナリオ訓練で課題を確認・改善する活動を行っています。当初は低かった活動への参加率も、地道な継続により全従業員が主体的に関わる文化へと変わっています。

伊勢湾台風の教訓が残る地域で、改めてリスクに向き合う

 本社のある桑名市は伊勢湾に近く、ハザードマップでは水災時に23メートルの浸水が想定されています。1959年の伊勢湾台風の教訓から、事務所を周囲から高い位置に設けるなど浸水対策の意識はありました。国内に同業者は数えるほどしかなく、事業を中断すると取引先に迷惑をかけてしまうことから、15年ほど前にも簡易的なBCP(事業継続計画)を作成したものの、メンテナンスされないまま眠っていた状態だったといいます。台風や大雨も激しくなっているのでこのままでは十分とはいえないと感じていたところ、「お付き合いのあった百五総合研究所さんから三重県の中小企業BCP等策定支援事業で事業継続力強化計画の策定を勧められ、無料で3回アドバイスをいただけるということで取り組むことにしました」(森田フードシステム 代表取締役社長 森田氏)ということで、2021年に1回目の事業継続力強化計画の認定を取得しました。当時、役員・管理職が中心となり、総務部門が事務局として各部門を取りまとめる形で策定を進めました。リスクは優先順位をつけ、第一順位の海溝型地震・津波から深掘りしていくアプローチを採りました。

六つの班で備える初動体制と、机上から現場への橋渡し

 人命を守るために最も注力したのが、災害発生時の初動対応の体制整備です。通報連絡・資材管理・初期消火・万全防御・応急救護・避難誘導の6つの班を作り、全従業員をいずれかの班に配置し、発災時の行動をすべて書き出した上で、実習訓練形式の研修を行っています。
取引先に多数の食品メーカーを抱える一方で、全国的に同業者は少ないうえに各社でカラメルの特徴が異なるため、何かあった際に同業から仕入れて代替できるかというと難しい面があると言います。そこで、工場では機械設備の耐震診断を行い、転倒防止の固定も実施。製品・原材料の落下防止策を講じ、仮に工場が2週間停止しても在庫でつなげる体制を準備するなど、サプライチェーンを意識した備えも進めています。

「計画は机上の理論で作るものですが、模擬訓練に落としてみると自社に合わない部分や、従業員一人一人の認識のバラつきが見えてきます。消防署での消火器訓練なども取り入れながら、個々のレベルを高めていきました」(同 森田氏)

社名プレート

「やらされ感」から「全員参加」へ——継続が意識を変えた

  導入当初、各班の活動は活発ではありませんでした。部署横断の班編成のため全員が同じ時間に集まれず、製造現場は操業中に抜けられないなど、参加率の低さが課題でした。そこで土曜出勤日や工場停止時期に活動日を設ける工夫をしたほか、ISO22000のマネジメントレビューにBCPを経営課題として組み込み、各部署が年間目標を立てて取り組む仕組みを整えました。
「最初は会社が指示を出していましたが、いろんな意見が出てきたので各班の裁量に任せるようにしました。今では全員が参加して意見を出してくれています」(同 森田氏) 
工場(いなべ市)
 避難誘導班が複数の避難経路を歩いて点検したり、備蓄品の期限確認を自主的に行うなど、各班が独自に活動を展開。安否確認訓練も年3回実施し、当初3割が届かなかった連絡が現在は100%に到達するまでに改善されました。
班の活動が活発になるにつれ、「BCPはどこまでやってもゴールがありませんので、やればやるほど課題が深掘りされ、各班からの会社側への要求も高くなってきます。どこまで会社として100%答えるかというところが悩ましく、各班の自主性に任せる部分と会社がブレーキをかける部分のバランス、その落としどころが今の悩みです」(同 森田氏)といった新たな悩みも出てきているといいます。
しかし、こうした取り組みは、取引先からのBCPアンケートへの対応や、ホームページでの情報発信を通じて対外的な信頼向上にもつながっています。

防災が生む、部門を超えたつながり

  最後に、これからジギョケイに取り組む企業へのメッセージを伺いました。
「目標を設定して班を作り取り組むことで、社内のコミュニケーションが強化され、他部門の人と接する機会にもなります。策定して終わりではなく、ブラッシュアップを続けることが大事です。何かあった時に命を守ることにもつながる、意義のある取り組みです」(同 森田氏)

防災という共通目的が、普段接点のない社員同士をつなぎ、組織の一体感を育てる。森田フードシステムの歩みは、ジギョケイが計画書づくりにとどまらず、会社そのものを強くする活動であることを示しています。
今後の課題として、業界団体にも呼びかけ、いざという時の備えをより強固にするために、同業者との連携も模索しているそうです。BCPにはゴールはないという言葉通り、いざという時の実効性は、日々の努力の積み重ねから生まれるものであり、継続した取り組みが求められています。
BCP研修
本事例のポイント
森田フードシステムの事例のポイントは、大きく2つあります。第一に、南海トラフ地震で浸水が想定されるという立地リスクに対し、6つの班に全従業員を配置し、机上の計画を実習訓練へと落とし込むことで実効性を高めていること。第二に、当初の「やらされ感」を克服するため、活動日の工夫やISO22000への組み込みなど仕組みを整えた上で各班に裁量を委ね、全員参加の防災文化を醸成した点です。防災活動が部門を超えたコミュニケーションの場となり、組織力の強化にもつながっている同社の歩みは、ジギョケイを「作って終わり」にせず継続的に育てていくモデルケースといえます。