まずは出来ることから始めてみる、豪雪地帯の螺子工場の挑戦
山形螺子工業株式会社
- 代表取締役社長
- 笠原 正美
- 業種
- 製造業(機械器具製造業)
- 所在地
- 山形県村山市楯岡中町4番25
- 従業員数
- 85人
- 拠点
- 本社、第二工場、第三工場、第四工場(全て山形県村山市)
- ホームページ
- http://www.y-rashi.co.jp/
山形螺子工業株式会社は、1961年創業の汎用機械器具メーカー。建設機械の油圧部品、半導体関連の空圧搬送部品、商用車のブレーキ部品を三本柱に、金属の切削加工から表面処理まで一貫製造を行っています。
山形県内でも有数の豪雪地帯に工場を構える山形螺子工業。夏場は農業を行い、冬場は首都圏に出稼ぎに行くことが多かった時代に、冬場の仕事を作ろうと地域の方々で出資してできた会社です。事業継続力強化計画(通称ジギョケイ)はこれまで2回申請しており、自然災害から感染症、サイバー攻撃へと対象を広げ、計画を進化させ続けています。小さなことから少しずつ実践的な対策に取り組み、訓練を継続することで実効力を高めています。
遠く離れた地域の災害も自社に影響を及ぼすことを、実体験とした痛感した日
笠原社長は銀行出身で同社に出向し、そのまま社長となりました。2011年の東日本大震災の時は東北に本社をもつ銀行の埼玉支店におり、直接の被害は受けなかったものの情報が届かず孤立した経験を持ちます。次に自然災害の脅威を実感したのが、2019年に東日本を中心に広範囲に影響が及んだ台風19号(令和元年東日本台風)でした。長野県の大企業の工場が浸水で停止し、サプライチェーン全体に影響が波及。同社も2割の減産を余儀なくされました。
「長野県の大雨が山形県の工場に影響する。サプライチェーンの脆弱性を、身をもって体験しました」(山形螺子工業社長 笠原氏)
「長野県の大雨が山形県の工場に影響する。サプライチェーンの脆弱性を、身をもって体験しました」(山形螺子工業社長 笠原氏)
ジギョケイに取り組む前、同社では社員の防災への関心が必ずしも高くない時期がありました。訓練を提案すれば「小学校の寸劇じゃあるまいし」と言われることもあり、防火管理者にはすでに退職した社員の名前が残っていることもありました。そんな状態を変えたのが、この時の経験でした。
台風の翌年、公益財団法人やまがた産業支援機構のコーディネーターが来社されたのをきっかけにジギョケイ策定に着手することになりました。補助金の加点に魅力を感じたのが理由でしたが、もともと災害への対策の必要性を強く感じていたこともあり、計画を策定するうちに意識が変わっていきました。
台風の翌年、公益財団法人やまがた産業支援機構のコーディネーターが来社されたのをきっかけにジギョケイ策定に着手することになりました。補助金の加点に魅力を感じたのが理由でしたが、もともと災害への対策の必要性を強く感じていたこともあり、計画を策定するうちに意識が変わっていきました。
「集中して取り組んでいくうちに頭の中の色が変わっていく。補助金のためから本来の事業継続のためへと変わっていきました」(笠原氏)
その後、日本中で新型コロナウイルスの感染拡大があったことも、事業継続のための対策を実感する理由になりました。
「想定外を想定させる」——新工場建設で実践した備え
災害対策の重要性を実感していたことから、計画を「計画で終わらせない」という意識が強くありました。その考え方の象徴が、新工場での対策です。ゲリラ豪雨を想定し雨樋を太く・多く設計、水勾配も自敷地に流れ込まないよう徹底。旧工場の耐震補強、太陽光発電と蓄電池による約5時間の事務所機能維持、防災倉庫の新設なども進めました。
「設計士には常に『普通以上の量になったらどうなるか』と問い続けました。この建物をあと何十年も使うのに、軽く考えてはいけないと思ったんです」(笠原氏)
豪雪地帯ならではの課題にも向き合っています。尋常でない降雪時には終業を前倒しにして早期帰宅させるなど、事前に判断基準を決めておくことの重要性を実感しているといいます。
「江戸時代」からの脱却——訓練が変えた現場の空気
訓練にも力を入れており、毎年実施する防災訓練は、火災だけではなく地震も想定に加えています。食品配布訓練として、おやつを従業員に配る訓練も取り入れ、楽しみも加えているといいます。全社連絡訓練(安否確認訓練)も実施していますが、訓練の必要性を実感するエピソードがあります。2022年の初回、全員から返信を得るまでに要した時間は28日と20時間でした。
「私はこれを『江戸時代』と表現しています。すぐ返事が来ると思っていても実際はなかなか返ってこない」(笠原氏)
翌年は4日8時間、その翌年は1日23時間と着実に短縮。毎日順位を発表し、上位者にはちょっとした景品を贈るなど楽しみながら取り組める工夫が、参加意識を高めています。
訓練を繰り返すうちに、訓練で声を出すことにためらいを感じていた社員たちが恥ずかしがらずにできるようになるなど、現場の空気は確実に変わってきました。
翌年は4日8時間、その翌年は1日23時間と着実に短縮。毎日順位を発表し、上位者にはちょっとした景品を贈るなど楽しみながら取り組める工夫が、参加意識を高めています。
訓練を繰り返すうちに、訓練で声を出すことにためらいを感じていた社員たちが恥ずかしがらずにできるようになるなど、現場の空気は確実に変わってきました。
同社では、全社連絡訓練に加え、役職者連絡網も整備し運用も工夫しています。
「LINEのグループラインを活用しています。誰かが気づけばみんなに情報が共有され、誰かがリーダーシップを取れる体制です。ただし、緊急時限定での使用とし、日常的には使わないようにルールを統一しています。日常使いするとこうした連絡手段が機能しなくなるという懸念があるためです。」(笠原氏)
「LINEのグループラインを活用しています。誰かが気づけばみんなに情報が共有され、誰かがリーダーシップを取れる体制です。ただし、緊急時限定での使用とし、日常的には使わないようにルールを統一しています。日常使いするとこうした連絡手段が機能しなくなるという懸念があるためです。」(笠原氏)
まずは一項目から「できることから始める」——作るうちに「本来の目的」に気づく
計画のリスクの対象も拡大しています。水害・地震・雪害からスタートし、コロナ禍を経て感染症対策を追加、最新ではサイバー攻撃も加えました。取引先からもBCPの内容を問う質問が年々詳細になるなかで、ジギョケイの認定を得ていることが信頼獲得につながっているといいます。
災害対策では、地域とのつながりも大切と考えており、被災時の具体的な連携にまではいたっていないといいますが、
「今は会社の周りのどぶさらいを自治会経由で行っています。こうした日常の小さなつながりの中から少しずつ関係を築いていくことで、万が一の際にもお互いに助け合える関係につなげていきたいと思っています。」(笠原氏)
最後にジギョケイに取り組む企業へのメッセージを伺いました。
「最初から広げすぎると負担が大きくなり、完成できない不安が生まれます。どんなきっかけでも良いので、軽い気持ちでまず小さく作ってみる。作っていく中で頭の中が変化していくのが私の実感でした。例えば自然災害の一項目から始めるくらいの気持ちで取り組んでみてください」(笠原氏)
- 本事例のポイント
- 山形螺子工業の事例のポイントは、大きく2つあります。第一に、地域の特性などを考慮しつつ、小さなことからコツコツと具体的な対策を積み上げ、自然災害、感染症、サイバー攻撃へと対象リスクを段階的に広げる「出来ることから始める」アプローチを実践していること。第二に、計画を実効性のあるものにするため、安否確認訓練の継続的改善など、楽しくできる工夫などを取り入れつつ、取り組みを継続して行っていることです。工場の具体的な対策や訓練を通じて、従業員を守り取引先との信頼を築く取り組みへと実効性を高めていった。山形螺子工業の歩みは、最初の一歩を踏み出すことの大切さを教えてくれます。