カードゲームで“自分事”に。災害への備えを体感 【鳥取県商工会連合会】

カードゲームで“自分事”に。災害への備えを体感 【鳥取県商工会連合会】
 令和8年度 鳥取県商工会職員研修会「事業者を守る伴走支援への第一歩! 災害疑似体験カードゲーム研修」

「ジギョケイ Business Survival WORKSHOP」カードゲームは、もともと事業継続力強化計画(ジギョケイ)策定後の訓練や見直しを目的に開発されたツールです。
一方で、自然災害のリスクを改めて実感し、「備えておくこと」の大切さを気づかせてくれることから、これからジギョケイの策定支援に関わる支援者育成の場面においても有効に活用できます。今回は、鳥取県商工会連合会が会員事業者を支える職員・経営指導員向けに実施した研修会の様子をご紹介します。
準備から当日の進行、参加者の声まで、なるべく具体的に記述するようにしました。今後の企画のヒントとなれば幸いです。
目次
研修会の概要
カードゲーム・ワークショップの準備
カードゲーム・ワークショップの進行
講義
参加者の声
参加後の感想
最後に

研修会の概要

 鳥取県商工会連合会では、2030年の商工会のあるべき姿を見据えて策定した「鳥取県商工会ビジョン2026」において「リスクマネジメント対策」を重要な基盤領域として掲げています。これは、激甚化する自然災害等のリスクへの対応が急務となる中、会員企業に対する事業継続力強化支援の強化に向け、支援する側である職員自身が事業継続力の重要性を実感し、事業者の災害リスクを「自分事」として捉えることがまずは重要と考えたものです。
その一環として、毎年開催されている鳥取県商工会職員協議会研修会において、「事業者を守る伴走支援への第一歩!災害疑似体験カードゲーム研修」と題し、ジギョケイカードゲームを活用した研修を実施しました。

当日は、世代も経験、職種、職階も異なるさまざまな職員約70名以上が参加しました。
本研修は、「災害を自分事として体感する」ことを重視した体験型プログラムです。
研修の講師は中小機構の中国本部の中小企業アドバイザーが務めさせていただきました。
研修会名
 令和8年度 鳥取県商工会職員協議会研修会
テーマ
 「事業者を守る伴走支援への第一歩! 災害疑似体験カードゲーム研修」
主催
 鳥取県商工会連合会
開催日
 2026年6月5日(金)
会場
 琴浦町生涯学習センター「まなびタウンとうはく」
(鳥取県東伯郡琴浦町大字徳万266−5)
参加者
 鳥取県商工会連合会の商工会職員・支援センター職員等 約70名
目的
 事業者へのジギョケイ策定支援を「自分事」として捉え、机上訓練を通じて災害対応の課題を可視化するとともに、職員間のコミュニケーションと相互理解を深める。本研修を意識向上のきっかけとし、ジギョケイの普及・会員事業者の計画策定支援へとつなげる。

カードゲーム・ワークショップの準備

グループ編成 — “混ぜる”ことで視点を広げる

 長机を島形に設置し、各島4〜5名でグループを編成しました。カードゲーム経験者が各グループに分かれて配置し、経験者は、議論を促す「裏回し役」(ファシリテーター)としての役割を担いました。立場や経験が異なる職員が同じテーブルで検討することで、立場や経験の違いから多様な視点が生まれることをねらいとしています。

配付資料・ツール

  • 各グループ:ゲーム用カード(初動対応カード・災害カード・インフラカード)、模造紙2枚
  • 参加者全員:太字の黒マジック、付箋、個人演習用のワークシート、総合パンフレット
カードは席が離れていても見やすいよう印刷物A4で用意し、検討内容を整理する模造紙の枠線は、当日の「書記」役が自ら描く方式としました。なお、弱点を洗い出す「脆弱性リスト(手引き)」は、最初から配ると発想が制限されるおそれがあるため、ゲーム中は使わず、解説の際に紹介しました。

使ったカードは3種類

カードゲームの実施にあたっては、ワークショップの内容にあわせて、使用するカードを選ぶ必要があります。今回のカードゲームでは次の3種類のカードを使用し、災害の種類は地震と水害のみに絞りました。引いたカードに書かれた状況に合わせて、被害や対応を考えていきますが、1回目のワークと2回目のワークで頭をいったんリセットするための工夫として、今回は、1回目に水害を引いたチームは、2回目は地震のカードを引くようにして、逆に1回目が地震だったチームは、2回目は水害のカードを引くようにしました。

① 初動対応カード(1回目)

「地震」(震度6強・6弱)や「大雨」(大雨予想・大雨特別警報・河川の氾濫)など、災害が起きた直後の状況を示すカードです。おもて面には「災害状況」と「インフラ状況(停電・断水・通信の可否など)」が書かれています。1回目のワークで、各グループが1枚引いて使いました。
 ▲ 初動対応カードの例(左:カードの裏面/中:震度6強の地震/右:大雨特別警報)
 

② 災害カード(2回目)

 発災翌日の被害状況を示すカードです。被害状況をもとに、「事業をどう続けるか」を考えます。
 ▲ 災害カードの例(左:地震/右:大雨)。災害があった翌日の状況。
 

③ インフラカード(2回目)

 水道・電気・ガス・固定回線・モバイルが「使えるか/使えないか」を、○×△で示すカードです。4種類すべてを使い、「この条件なら、何ができるだろう?」とグループで知恵を絞りました。
 ▲ インフラカードの例。ライフラインや通信が使えるかどうかが一目で分かる
 

模造紙の枠組み

 
左側に整理する内容 右側に整理する内容
1回目ワーク 被害想定 初動対応
2回目ワーク 事業継続への影響 対策(事前/事後)
共通の切り口 ヒト(人員)/モノ(建物・設備・インフラ)/カネ(運転・設備資金、リスクファイナンス)/情報
 それぞれの項目を、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」という経営資源の視点で書き出していくのがポイントです。

カードゲーム・ワークショップの進行

 はじめに、大西アドバイザー(中小機構)が、ゲームの進め方や注意点を説明したあと、1回目・2回目のワークを実施しました。「足りないところは想像で補ってOK」「答えはひとつじゃない」という気楽な雰囲気で、思いついたことをどんどん出し合いました。
カードゲーム・ワークショップは、次の3ステップで進行しました。
グループ編成 進め方
1テーブル4〜5名。
役割は「進行役・書記・発表者」を分担
①個人ワーク(付箋に記入) → ②模造紙に貼って共有・ディスカッション→ ③グループで発表
 
 ★ ポイント 1回目・2回目とも「ヒト(人員)/モノ(建物・設備・インフラ)/カネ(資金)/情報」の4つの視点で考えるのが共通のルールです。

1回目ワーク|被害想定と初動対応(STEP1)

 各グループに配られた「初動対応カード」(地震・大雨)に記載された災害状況・インフラ状況に応じて、「被害想定」と「初動対応」を検討しました。個人ワークで付箋に書き出し、グループディスカッションで模造紙に貼りながら共有・意見交換します。
 ▲ カード(写真左の立て札)の状況をもとに、付箋を出し合うグループディスカッション

初動対応については、次のような意見が挙がりました。

  • 身支度を整える(まず靴を履く など、二次被害を防ぐ行動)
  • 地震の際は津波の可能性も想定する
  • いったん業務を停止する判断
  • けが人の有無を確認する
  • ブレーカーを落としてから屋外へ避難する
  • ラジオを活用する/モバイル回線が使えなくてもスマートフォンの明かりを使う
 なかでも印象に残ったのが、電波や回線の状況に左右されにくい「ラジオ」の活用に注目が集まったこと。停電や通信が途切れた場面を思い浮かべながら、「そんなとき、何なら使えるだろう?」とみんなで知恵を出し合うきっかけになりました。

2回目ワーク|事業継続への影響と事前・事後対策(STEP2)

 2回目は、1回目とは異なる災害(1回目初動「大雨」→2回目翌日「地震」、1回目初動「地震」→2回目翌日「大雨」)の「災害カード」に加え、利用できるインフラを示す「インフラカード」4種を使用。災害による「事業継続への影響」と、早期復旧に必要な「事前・事後の対策」を検討し、前提条件が絞られる中でも、活発に意見が交わされました。

挙がった対策・アイデアの例:
事前対策 事後対策
  • 重要書類やBCPを紙でも保管しておく(通信・電源が止まっても見られるように)
  • 自転車発電など、非常用の電源手段を準備しておく
  • 業務をマニュアル化し、「あの人しかできない」をなくしておく
  • 在宅ワークの仕組みを、ふだんから整えておく
  • 保険の内容を確認・見直ししておく
  • 取引先やご近所と物々交換し、足りないものを融通し合う
  • 備えておいた電源や在宅勤務に切り替えて、業務を止めない
  • 紙の書類やマニュアルを頼りに、できる仕事から再開する

 ▲ あるグループの模造紙。「データの保全」「マニュアル化」「安否確認」「在宅勤務」などの付箋が並ぶ

振り返りと成果の共有(STEP3)

 各グループの発表では、「この着眼点はなかった」という優れた意見(グッドプラクティス)や「これいいね」と盛り上がった点に絞って共有しました。自分たちでは思いつかなかった視点に気づく場面が多く見られました。

講義

 カードゲームのあとに、能登半島地震の現場対応にあたった経験を持つ細田アドバイザー(中小機構)が講義を行いました。能登地震の写真やデータを交えながら、BCPとジギョケイ、ゲームでの体験をどうやって実際の計画づくりにつなげていくかを説明しました。
 ▲細田ADの講義風景
 講義では、ゲームで起きた出来事をもとに、災害時に備えておくべき対応を自分事として考え、得られた気づきを計画に反映し見直していく重要性が共有されました。
一方で、実際の災害は想定を超えることもあるため、「ゲーム=安心ではない」点も強調され、防災とBCPの違いについても整理して説明。BCPは自然災害だけでなく、取引停止やサイバー攻撃などを含め、「いかに事業を継続するか」を考える取組であることへの理解につなげました。
さらに、「自社の事業をいつまでに再開させるのか」という具体的な復旧目標の視点や、計画を策定していた企業ほど早期復旧につながったという実例も紹介されました。また、認定制度のメリットや概要にも触れながら、ゲームで得た気づきをその場限りにせず、“自分事”として計画策定支援にどうつなげていくかを意識していただくよう促しました。
明日からの支援に確実に活かしていく前向きな締めくくりとなりました。

参加者の声

アンケートでの評価

  • 災害・支援意識の変化:「意識が高まった」「大いに高まった」を合わせて96%
  • 支援ツールとしての活用可能性:肯定的な評価が97%以上
  •  職員間のコミュニケーション・相互理解:「そう思う」「非常に強くそう思う」で100%

寄せられた声(抜粋)

BCPが“自分事”になった

  • BCPが何かわからなかったところから、具体的な内容とその効果まで理解できた。
  • ゲーム形式で行うことで導入ハードルが下がり、よかったと思う。
  • 実際に考えてみると、想像することがすべてだと感じた。まだまだ想像力が足りない。
  • 初動対応が大切だということが、よくわかった。

「見直したい」「備えたい」という気持ちに

  • 「強みが消える」という言葉にヒヤッとした。平常時に強い会社は、非常時にも強い。
  • 頭で分かっていても、被災を想定することで、準備不足をリアルに感じた。
  • 事務長の判断に任せればいいと思っていたが、一人ひとりが行動することが大事だと感じた。

仲間との対話が財産に

  • 先輩から、実際に災害対応を経験した話が聞けて、事前・事後の対策の必要性を実感した。
  • 同じ職員でも、単会ごとの環境や考え方の違いに触れられて、大変参考になった。
  • 自分では思いつかない対策・対応がたくさん出てきて、勉強になった。

支援の現場で使ってみたい

  • BCP初心者や事業者にとって、取っ掛かりとしてよい。
  •  会員事業所の計画策定の動機づけ(キッカケづくり)として活用したい。
  • 準備できていないことが「見える化」できそうだと感じた。
 概ね好評でしたが、一部の参加者からは、「検討時間がもっと欲しかった」「導入時の説明が大事」といった運営面の改善要望も寄せられました。今後の運営の課題として参考にしていきます。

参加後の感想

 BCPというと実感が湧かない部分もありますが、災害を疑似体験してみると、不思議とそれが「自分事」に変わっていく空気が伝わりました。
話し合いでは、通信が途絶した際のラジオの活用や、ご近所同士の物々交換、大切な書類を紙で残す工夫など、現場ならではの知恵が数多く共有されました。世代や立場の異なるメンバーが同じテーブルを囲んだことで、「その手があったか」という新たな気づきも生まれていました。アンケートでも、「仲間との相互理解が深まった」が100%、「災害への意識が高まった」が96%を超えています。
こうした気づきや対話の積み重ねは、伴走支援の確かな土台となるものです。本研修は、その「はじめの一歩」として、今後の事業者一社一社への計画策定へとつながっていくことが期待されます。
 
最後になりましたが、企画・運営にご尽力いただいた鳥取県商工会連合会のみなさま、そして熱心に参加してくださった職員のみなさまに、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

最後に

 このカードゲームは、ジギョケイやBCPを見直すための訓練としてはもちろん、「うちの会社は大丈夫かな?」とリスクに目を向け、事業を続ける意識を育てるきっかけとしても活用できます。ジギョケイの策定や日ごろの訓練について、どうぞお気軽に中小機構へご相談ください。
執筆者:中小機構強靭化担当 生川


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