毎年のBCP見直しでの従業員の士気向上が、スムーズな対応に直結

天野産業株式会社

天野産業株式会社

代表取締役社長
天野和彦
業種
土木建設業
所在地
岡山県笠岡市七番町1番地76
従業員数
67名
ホームページ
https://amano-sangyou.co.jp/
東日本大震災での体験をきっかけにはじまったBCPは、ISO22301取得による毎年の見直し、近隣県との広域連携、さらには将来の事業継続を見据えた建設業の魅力アップにつながるイベント開催など、多方面にわたっています。
インタビュー(9分5秒)

「作ったままでいいのか」という疑問をISO22301取得で解消

土木建設業を営む会社は、自然災害など有事の際、災害復旧のためのニーズに応えながら、自社の事業継続をどう図るかが、大きな課題となります。
「会社としては、BCPの重要性そのものは、ずっと認識していたと思います。しかし実際に動きはじめたのは、2011年のことでした。3月の東日本大震災発生時に東京に出張していたある管理職が、地震そのものの揺れに加え、その後の交通機関の途絶、物資の不足など、地震がもたらす影響を身をもって体感したことが、きっかけとなりました」(古江氏)

そして翌年、同社はBCPへの具体的な取り組みがスタートしました。 「岡山県が募集した『BCPモデル企業5社』に手を挙げたのです。“晴れの国”を自認するここ岡山県でも、やはり災害は起きうるものと考え、試行錯誤しながらも、うまくまとめることができたと思っています。ただその作業が一段落して頭に浮かんだのは、『このままだと、BCPを作っただけで終わってしまうのではないか』『当社に求められるBCPは、はたして災害対応だけでいいのか』という疑問でした」(古江氏)

しかしこうした疑問は、その後、発展的に解消することになります。 「翌年、県の講師に加わった事業継続推進機構の方から、『BCPの中身を毎年見直すことの重要性』を学ぶことができました。さらに県からは、ISO22301を取得してみないかという働きかけがありました。そしてこのISO22301の継続に必要な『毎年の見直し』が、BCPの継続的な進化には欠かせないと考え、取得へと動きました」(古江氏)
天野産業株式会社 総務部課長 古江 早苗 氏
天野産業株式会社 総務部課長 古江 早苗 氏

BCPの策定と従業員への周知が「鳥インフル」への即応を実現

同社がISO22301を取得したのは2014年で、以降、BCPの内容を毎年見直しています。
「BCPに、どの会社にも当てはまるような正解はないと思っています。どうすればよりよいものになるのか、運用はどうすればいいのかを、毎年毎年自分たちで確かめています。ただやはり、そこで助けになるのは外部のサポートです。ISO22301、さらに並行して取得したレジリエンス認証により、事業継続についてのPDCAがしっかり回っているのかどうか、新たに備えなければならないリスクは何か、広い視野を持つ外部の目で確認していただき、適切な指導を受けることができます」(古江氏)

そしてこうした動きは、BCPの担当者だけでなく、社内全体に「有事への即応」という意識付けをもたらしているとのことです。
「毎年のISO22301への対応は、従業員の意識改革というか、士気の高まりにつながっていると思います。じつは2015年1月に岡山県内で高病原性鳥インフルエンザが発生する事例がありました。鳥インフルというと、保健所の職員とか自衛隊の方が現場の対応にあたるニュース映像が浮かぶと思いますが、じつはそうした部門が動く前、現場のでのテントの設置や埋却のための穴掘りは私たち建設業者の仕事なんです」(古江氏)

この鳥インフルの第一報が入ったのは木曜日の夕方だったのですが、同社は即応体制をとりました。 「リース会社にテント20張ほどを手配し、社内の備蓄から仮設トイレを調達、どちらも翌朝の作業開始までに現地に設営することができました。こうした対応が可能になった背景には、やはり日頃から有事に備えて訓練していたこと、そしてその訓練により、従業員の高い士気を持ち、かつ『いま何をすべきか自分の頭で考えて行動する』という判断力を備えることができたためと考えています。そのあとも鳥インフル対応は続きますが、年度末という繁忙期にもかかわらず、通常業務と緊急対応をうまく並行して進めたことで、どの現場も工期の遅れはありませんでした」(古江氏)
現場
こうした単独でのBCPのほか、同社は広域連携のBCPにも注力しています。
「徳島県を中心とした、瀬戸内海を囲むエリアの建設業者が連携し立ち上げた『なでしこBC連携』に参加しています。じつは2016年の熊本地震の際、当社からもボランティアで複数の社員が現地に行きました。しかし復旧作業の主体とうまく連携が取れなかったことで、さまざまな専門技能を持っていたにもかかわらず、任されたのは一般のボランティアと同じ民家の片付けなどに止まったのです。もし会社としてBCPの連携が取れていれば、重機を使った作業など、より専門性が高く、効率的な作業にリソースを使えたはずだと考え、同業者が作るネットワークへの参加を決めたのです。こうした災害がもし身近で発生した場合、こうした連携は、事業継続の大きな力になると思っています」(古江氏)
ボランティアと複数の社員

BCPは、内容に加え、それを全員でどう共有するかが重要

また古江氏は、時代の流れにともなう会社のあり方の変化に合わせ、BCPも変えていくべきだとも考えています。
「5年先、10年先には、建設業もいまとは違う形になってる可能性があります。そうしたなかでBCPを的確に進めるには、変わっていく会社の形に合わせ見直しを続けていくことが重要だと思っています」(古江氏)

そしてそうした見直しをスムーズに進めるためには、BCPを担当者だけのものとせず、会社全体で考えることが大切だと言います。
「BCPをどうするかは、経営層がしっかり考え、リードしていくことは不可欠ですが、その一方で、BCPの考え方が従業員全体に浸透するものでなければ、いくら見直しても意味がありません。当社のBCP推進チームは私の属する総務だけでなく、営業、工務など、各部署の代表が集まっていますが、そうしたチームのなかや担当者個人に情報を閉じ込めるのではなく、それぞれが各部署できちんと共有することが重要ではないでしょうか」(古江氏)
BCP推進チーム
また近年は、こうした有事対応だけでなく、より長い目で見た“事業継続”にも力を入れているとのことです。
「建設業界は、ご存じのとおり人手不足です。そして人手不足がこのまま続けば、事業継続に大きな影響が出てくることは確実です。その解決には、建設業界が面白くて魅力的な業界であることを積極的にPRし、人材確保に努めることが必要ですが、就職期の高校生にアプローチしても、すでに進路を固めているというケースが多く、なかなかうまく行きませんでした。そこで最近は、もっと小さな子どもに建設業に興味を持ってもらえるよう、『土木フェスタ』を開催しています。これは弊社が運営する『道の駅 笠岡ベイファーム』の駐車場に重機を並べ、その重機が工事現場でどう働くのか、子どもたちに体験してもらうというものです。ここで目を輝かせた子どもたちが、将来の当社の担い手になってくれることを期待しています」(古江氏)
土木フェスタ

専門家のコメント

BCPは策定しただけでよいのか、毎年、見直す必要がないのかと自問自答されて、自分たちの事業活動を通じて、実効性のあるBCPにするための活動をされています。

天野産業さんは岡山県の企業ですが、四国の徳島県、愛媛県、高知県、和歌山県の4つの県の建設業者18社と連携して、建設業の管理部門を担当する女性スタッフが集まり、「なでしこBC連携」と称して、2015年から活動されています。
災害時に迅速な対応が求められている建設業者が連携して復旧・復興活動にあたることは国土強靭化に結び付く素晴らしい事例です。
SOMPOリスクマネジメント株式会社 エグゼクティブコンサルタント
高橋 孝一 氏
横浜国立大学工学部化学工学科卒業後、1980年に保険会社入社、44年間、企業のリスクマネジメントを専門に歩み、『リスク管理体制構築支援』、『火災・爆発・風水害などの事故防止』、『製造物責任対策』、『事業継続マネジメント(BCM)』、『海外危機管理対策』、『コンプライアンス』などのコンサルティングの提供やリスクマネジメントセミナーの講師等で活動中

◆主な資格・社外団体役職
 NPO 事業継続推進機構
 文化庁美術品保証制度部会専門調査会会長

◆官庁・経団連等で有識者として参画している委員会
 内閣府  :2005年から「事業継続ガイドライン」の策定に参画
 中小企業庁:2005年から「事業継続ガイドライン」の策定に参画
      :2018年から「中小企業強靭化研究会」委員
 経済産業省:2016年から「地域連携BCP普及検討会」委員
高橋 孝一 氏
高橋 孝一 氏

この記事のあとに、よく読まれている記事