事業継続力強化計画を通じて、会社と社員の成長を実感
株式会社シオノ鋳工
1830年(天保元年)創業。与謝野町の地で200年近く鋳造(ちゅうぞう)業を営む株式会社シオノ鋳工は、砂型で型を作り、溶けた金属を流し込み産業機械の部品や、水道管のバルブ、車両関係の部品など鋳物(いもの)を製造している。会社のビジョンに掲げる「成幸」というワードは、「幸せ」について社長が社員とともに考え導き出したもので、仕事のスキルだけでなく、人としても成長し、成長を通じて人が幸せになるという考え。100年後も「成幸」であり続けるために、社員一同、人との関わりを大切にしながら、新しいことにチャレンジし続けている。
インタビュー(4分21秒)
地元の金融機関の勧めで自社のリスクを見直すきっかけに
与謝野町の地で鋳造(ちゅうぞう)業を営む株式会社シオノ鋳工は、まもなく創業200周年を迎える。そんな老舗企業として長きにわたり事業を継承してきた同社が事業継続力強化計画を策定したのは、地元の取引のある金融機関からの勧めだったと工場長の吉野氏は語る。
「補助金の加点になることや融資制度にも有利に働く部分があるということでお勧めいただきました。その時に、これはもう一度自社のリスクを見直す、いいきっかけになると思い、取得してみようということになりました」(吉野氏)
策定の内容について、まずはハザードマップなどで地域の特徴を調べ、地震など災害の発生リスクがどれくらいあるのか、自社のリスクを把握するところから着手。自社のリスクを挙げた上で実際の取り組みにおいては、“社員の幸福を第一に考えよう”という同社の経営理念から“社員の安全”を重視し、リスクの周知や避難訓練、防災訓練、救命救急講習などを計画し、毎年実施していると言う。さらに、自然災害への対応や、会社や社員の保険について見直すなど余念がない。
災害に対してどう対処すべきかハザードマップから見えてきたこと
株式会社シオノ鋳工があるのは京都の北部にある与謝野町。事業継続力強化計画の策定に向けて、まずはこの地域の特徴に目を向けたと吉野氏は語る。
この地域では約100年前に与謝野町を巻き込んだ「丹後大地震」が起きている。それ以来、大きな地震は起きていないが近い将来起こり得る可能性があるため、地震の発生リスクについても対策の必要性があると言う。 さらに、会社の立地環境から水害や土砂災害のリスクについて次のように考えていたと続ける。
「当社は高台にあるので、洪水の被害や浸水の被害に対してリスクはないと思っていました。ただし、工場の裏手に少し小高い山があるため、土砂災害のリスクについては町が発行するハザードマップにも示されていて、土砂災害のリスクに対しては想定しておく必要があることが分かりました」(吉野氏)
ところが、2022年6月、リスクがないと思っていた水の被害に見舞われてしまう。その日は晴れの天気が一転、突然物凄い勢いの雨風に襲われ、その強風に工場の扉を閉めることができず、一瞬にして工場内にかなりの雨水が侵入。この時、工場内の設備が濡れてしまい長時間ではなかったがクレーンが停止してしまう事態が起こった。当時の状況について吉野氏は語る。
社員や地域社会を大切にする経営理念に則った計画
事業継続力強化計画の策定にあたり、工夫した点について話を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「当社ではやはり経営理念の『要』(社員幸福の要、地域社会の要、社会生活の要)を大事に、理念に沿った事業計画とすることを目指し、まずは社員を大切にするということ、そして地域社会にとっても大切な存在でありたいと考えました」(吉野氏)
社会生活のインフラを支える供給責任について、日本の場合は特に中小企業が担っている部分が大きいと続ける。さらに、自然災害は以前とは比べ物にならないほど頻繁に起こり、世界の情勢が不安定な中では、今後ますます不測の事態が起こることを危惧する。
「何か不測の事態が起こった時に、“しょうがない”と置かれた状況のせいにするのではなく、ある程度予測できることに対して、自分たちでできることはやっておくという意識が大事なのだと思います」(吉野氏)
もともと、社員が自発的に行動を起こすことや、主体性を持って取り組むことを非常に重視している社風がある同社、設備の管理についてもある変化を感じていると吉野氏は語る。
現状をしっかり把握することで不安が解消され、次の展望が見えてくる
株式会社シオノ鋳工では、現在製造している鋳造の製品を、さらに機械加工という切削加工をして付加価値をつけワンストップでお客様の元に届けるという新事業に向けて、新工場の建設が進められている。事業継続力強化計画を策定したことで、次の展望が見えてきたと吉野氏は語る。
「事業継続力強化計画を策定したことで、リスクに対する備えがしっかりと見える化でき、それによって不安が解消されたように思います。現状をしっかり把握して不安がなくなると、次の展望として、いろんなことにチャレンジしていこうという意欲が湧いてくる。将来に大きなチャレンジをする上において、計画の策定がひとつの支えになっていると感じています」(吉野氏)
なお、同社では毎年年始めに避難訓練や防災訓練が行われているが、賛同してくれる企業があれば、ぜひ一緒に取り組んでみたいと地元企業との合同訓練にも興味を示す。
「他の企業と合同でやることでお互い刺激にもなるし、こうした活動が広がるという意味でもいいと思います。私はこの地域が大好きですし、会社もこの地域に生かされていると思っているので、地域全体で取り組めるようになることはとても素晴らしいことだと思います」(吉野氏)
そう話す吉野氏だが、現在、株式会社シオノ鋳工の平均年齢はおよそ37歳。若手からベテランまでバランスがいい人員配置になっている。しかも、将来跡取りとなる社長のご子息は4人とも男の子。人をしっかり循環させて事業を継承していくという点においてはしばらく安泰と言えそうだ。
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