“災害があっても地域の足を守る“自動車販売店の連携体「琴浦モビリティグループ《コトモビ》」

赤碕ダイハツ有限会社

代表取締役
上田啓悟
業種
機械器具小売業
所在地
鳥取県東伯郡琴浦町赤碕1927-1
従業員数
14人
ホームページ
https://www.akasaki-daihatsu.com/
人口減少が進み、メーカー系自動車ディーラーも撤退するなか、地域のクルマ社会のニーズに応えるため、自動車関連企業5社が「コトモビ」を設立。さらに中小機構中国本部の支援で連携型ジギョケイを策定、事業の継続力を通じ地域への貢献に力を注ぐ。
インタビュー(7分49秒)

人口減少でディーラーは撤退、クルマ社会は地場のお店が下支え

平成16年に東伯町と赤碕町が合併して誕生した琴浦町は、鳥取県のほぼ中央、米子市と倉吉市の間に位置し、正面には日本海、背後には伯耆大山に連なる山々をいただく、自然豊かな町です。
赤碕ダイハツ有限会社は、この琴浦町で、ダイハツ車を主に扱う「ダイハツショップ」として新車および中古車販売のほか、修理、車検、自動車保険など、クルマにかかわるサービスを幅広く手がけています。
「ここ琴浦町は、日本の他地域の地方都市と同じく、大人になると“ひとり1台”という典型的なクルマ社会です。公共交通機関が十分ではないため、文字どおり『クルマがないと生活できない』と言ってもいいくらいで、一家で4台、5台のクルマを保有する例も珍しくありません。ただ年々過疎化が進んだことで、現在の人口は1万6000人ほどになり、かつて出店していたトヨタ、ダイハツなどのメーカー系ディーラーもこの5年で撤退してしまいました。最寄りのディーラーはクルマで30分ほどかかる倉吉市のお店ということになりますが、修理や点検での入庫も引き取り対応はなく、オーナー自身が持ち込む必要があります。そのため、クルマ社会におけるメンテナンスや修理といったインフラは、地域の自動車関連企業14社が支えています」(上田氏)

お客さまのため、互いに手を取り合って「コトモビ」を設立

またJAFのようなロードサービス拠点も近隣になく、依頼しても到着に時間がかかるため、事故や故障でクルマが動かなくなり現場へのレスキューが必要な場合も、これら地域の企業が対応することがほとんどとのことです。
「ただ人口が少ないとは言え、琴浦町は東西約15km、南北約18kmの広さがあり、またそれぞれの企業は零細事業者のため、すべてのお客さまのそうした依頼に応えることは困難です。一方で、自動車業界は整備士を中心に人手不足が深刻です。このままでは休みも取れない過剰労働が続いて仕事としての魅力が薄れ、それがさらなる人手不足の原因になるという悪循環に陥ってしまいます。そこで町内の自動車関連企業14社のうち4社に声を掛け、『琴浦モビリティグループ』、通称コトモビを立ち上げました」(上田氏)

14社は同じ業界の仲間として交流がありますが、コトモビは、とりわけ互いにお願いしやすい、気心の知れた同年代の経営者により構成されています。
「それぞれが自社のお客さまだけに対応するのではなく、この5社間で協力、分担してお客さまをサポートするというのが、コトモビの考え方です。5社は共通のLINEグループでつながっていて、レスキューの要請があっても業務が忙しく対応できない、遠隔地なので時間がかかるといったときに、そのとき手が空いている業者、最寄りの業者に対応を依頼する形です。
また定休日も5社間で重ならないよう調整することで『お客さまをお待たせしない』『従業員がしっかり休める』という課題を両立しました。またクルマの整備に関する知識についても、各社が得意とするメーカーのノウハウを全員で共有、テスターや特殊な工具の貸し借りも積極的に行うことで、各社の技術力も向上しています。
さらに仕入れを共同でできるものはコトモビとして行う、単価に上下があるものは低いほうに揃えるよう卸元に交渉する、広告出稿もコトモビとして行い各自の負担を減らすなど、私たち事業者の利益につながる活動も行っています」(上田氏)

災害時対応の明文化に向け、連携型ジギョケイ策定へ

こうしたコトモビの活動は、地域のニュースで紹介されて話題となりました。そしてその話が中小機構中国本部のエリアマネージャーにも届き、このコトモビが災害時でも堅牢に機能する体制作りにつながる連携型ジギョケイをご案内することになったのです。

「中国本部から話があるまで、ジギョケイについての知識はまったくありませんでした。ただ話を聞いてみると、まさに我々がコトモビでやろうとしていることが形になると感じたんです。そもそもコトモビはゆるやかなグループで、会費など、お金にかかわる取り決めはなく、みなお客さま第一を考えて動いています。ただその流れのため、文書化した規約もなく、災害時にどうするかといったものはぼんやりと考えているだけでした。ただそのなかで、災害時でもクルマ社会のインフラが止まることがないよう、力を合わせなければならないと思っていたんです」(上田氏)

上田氏は連携型ジギョケイについて、まずコトモビの仲間にその内容を伝え、賛同を得ることにしました。

「各社ともやはり自分と同じように『災害対応など非常時に役立つ、なにか形になったものがあったほうがいい』という意見でした。そして今回のジギョケイが国の支援で作ってもらえること、費用等は一切発生しないことを伝えると、『だったらやるべき』という声が返ってきました」(上田氏)

上田氏が連携型ジギョケイの策定に前向きになったことから、中国本部は具体的な支援に入ります。

「琴浦町は海に面していますが、日本海側ということもあり、これまで津波の被害を考えたことはありませんでした。しかし、連携型ジギョケイでは、それぞれの事業者の事業所が海抜何mにあるのかなども調べ、対応策を検討しました。結果的に5社とも『津波想定なし』となりましたが、あまり想定していなかったリスクについても考えることになり、危機管理の大切さを学びました。このように、細かい指導を受けられて良かったと感じています」(上田氏)

連携型ジギョケイは複数の事業者にまたがっての策定であることから、内容の周知から同意といった手続きに比較的時間がかかることが多いのですが、本件についてはコトモビという組織がすでにあったこと、そして上田氏がリーダーシップを発揮された事により短期間にまとまりました。

想定されるリスク:地震

リスク発生による影響
  • 地震ハザードカルテによる30年経過震度発生確率は、震度6弱以上2.5〜4.1%、震度6強以上0.3〜0.6%。直接的な被害により、生命の危機、身体へのけが等の可能性が想定される。
  • また避難時の落下物や転倒などによりけがの発生が想定される。
  • 就業時間外に発災した場合、従業員は事業所への通勤が困難になり、事業の復旧、継続に支障を来すことになる。
対応策と効果
  • 連携各社は同じ琴浦町内に本社があるため、同時被災の可能性がある。
  • そのため、連携各社の被害状況を迅速に把握することが重要で、被害を受けていない、もしくは最小限の影響に抑えられた会社があれば、積極的に連携各社へバックアップを行うことを基本方針とする。
  • 各社とも緊急時を想定した訓練やシミュレーションを通じて連絡体制の有効性を確認するとともに、LINE WORKSの活用により各社間で安否情報を取りまとめる体制を取っている。
  • 毎月1回「防災連携会議」を開催し、発災時には「災害対策本部」に格上げし、迅速に被災状況を把握してホームページやSNSで情報発信を行うとともに、従業員安否、取引先や顧客情報を共有する。

想定されるリスク:水害

リスク発生による影響
  • 5社ともハザードマップ上では浸水による本社機能への直接の想定は想定されていない。
  • しかし現在の琴浦町の洪水ハザードマップは時間雨量64.9mm(50年確率)が降った場合を想定したものであり、昨今の全国的な洪水を考慮すると、想定以上の洪水が発生することが予想される。
  • 2007年の洪水発生時には、琴浦町西部で103mmの時間雨量を記録している。
  • また一部事業者の米子支店に水害のリスクが想定される。道路の浸水、損壊、渋滞に巻き込まれることで、業務の遂行、帰社、移動も困難になり、健康の維持にも影響を受けることが想定される。
  • 就業時間外に発災した場合、従業員は事業所への通勤が困難になり、事業の復旧、継続に支障を来すことになる。
  • 人員不足に陥った場合、顧客への十分な対応ができない可能性があり、地域経済へも影響をおよぼす可能性が想定される。
  • 一部事業者では社内のPC等に顧客情報を保管しているため、浸水被害が発生した場合、顧客情報の喪失が想定される。
対応策と効果
※地震時の対応策と効果と同様

想定されるリスク:雪害

リスク発生による影響
  • 2010年12月に国道9号にてタンクローリーの事故を起因とした1000台の立ち往生が発生し、渋滞は一時約25kmにおよんだ。
  • 2023年1月には高速道路が雪で通行止めになり、並行する国道9号も一部区間で通行止めとなった。
対応策と効果
※地震時の対応策と効果と同様

想定されるリスク:感染症

リスク発生による影響
  • 流行拡大時にはとくに、若干小康状態にある時期においても、いつどこで感染するかわからない状況が継続する。
  • 自粛要請等により各社の事業活動が制限を受ければ、売り上げ収入の減少が予想される。
  • 顧客の事業活動が縮小すれば、整備工場の稼働率低下等の影響を受けることになる。
  • 自動車産業を中心に生産活動が縮小すると、販売する自動車の納期遅れが発生し、売上高が減少する。
対応策と効果
  • 感染症発生時には、消毒や換気等の対策を徹底し、感染拡大を防ぐ対応を行う。
  • 必要に応じて優先度の低い業務の実施方法の変更や縮小、一時中断等を検討する。
  • また「防災連携会議」において情報収集を行う。

わずか2カ月でスピード申請。洪水と雪害を主なリスクと想定

こうしてコトモビによる連携型ジギョケイは、支援のスタートからわずか2カ月、令和5年7月に申請となりました。

「やはりコトモビという組織があったこと、そして文書化はされていないものの、たたき台になる共通意識があったことが、スピード申請につながったと思います」(上田氏)

そしてまとまった連携型ジギョケイは、コトモビの設立の目的であった「5社が協力して、琴浦町のクルマ社会を支える」という理想を深く反映したものとなっています。

「最終的にリスクとして想定したのは、豪雨による浸水被害、雪害、地震、そして感染症です。時間雨量64.9mmを想定している自治体の洪水ハザードマップでは、5社すべての事業所に洪水の直接の影響はないとされていますが、実際に2007年には琴浦町西部で時間雨量103mmを記録していることから、リスクとして採り入れました。
雪害については、この地域でも近年、ゲリラ豪雪による立ち往生や通行止めが発生しており、雪害への備えは重要です。同じ日本海側でも東北北部や新潟県山間部など本格的な雪国とは異なり、この地域では自治体による除雪体制は脆弱で、ドカ雪が降ってもすぐ除雪されるのは国道など主要道路だけで、細かい道は後回しになることがほとんどです。またクルマでの通勤が前提のため、事業所の駐車場が除雪できていないと業務そのものをはじめることができません。
地震については、30年以内の震度6弱以上の地震の発生確率は2.5〜4.1%と推定されています。
最後に感染症ですが、感染症対策そのものは、かつてのコロナ禍で『感染症が拡大し、みな業務を続けられなくなったらどうするか』といった内容を話し合ったことがありますが、今回それをあらためて明文化した形となりました」(上田氏)

自動車をとりまく環境は変化しても、「人の目と人の手」の重要性は不変

最後に上田氏に、同社の事業およびコトモビの今後の展望をうかがいました。
「勉強のために時間を作り、東京で行われた『ジャパン・モビリティ・ショー』を見てきたんです。やはり展示の目玉はEV(電気自動車)で、クルマ業界が大きく変わっていくさまを実感しました。EVになると、メンテナンスのポイントや頻度もこれまでのガソリン車やディーゼル車とは異なってくるでしょうし、車検もたとえば4年ごとなど、サイクルが長期化するかもしれません。一方で、自動運転にかかわる技術も多数出展され、近い将来には自動運転による事故のない社会になるんでしょう。こうした動きは、つまりメンテナンスの頻度が減る、事故がなくなって板金や修理の需要がなくなるという変化は、自動車関連産業にとって、大きな変革を求められるものになると思います。
しかし社会環境がどう変化しても、この地域で生活の必需品であるクルマに安心して乗り続けるためには、人の目と人の手によるメンテナンスや修理が必要であることには変わりないと思っています。変化に対し身構え、恐れるのではなく、将来どうなるかをきちんと想定し、いま現在の段階から打てる手は打っておくことが必要ではないでしょうか。
私たちはコトモビを軸に、この琴浦町でお客さまの足を守り、かつ従業員の雇用と十分な給与、働きやすい職場の実現という持続可能な事業の継続を目指し、頑張っていきたいと思います」(上田氏)
琴浦町のクルマ交通インフラを下支えするコトモビの機能は、連携型ジギョケイにより、さらに強化されることになるはずです。

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