スマート農業と防災

2021.11.24全般

1. 農業就業人口の減少と耕作放棄地の増加がもらす影響

農業者の高齢化や後継者不足による農業就業人口の減少が止まらない。図表1の農林水産省データでは、2009年から2019年の10年間で289万人から168万人と約120万人も減っている。

新型コロナウイルス感染拡大が慢性的な人手不足に悩む農業界に追い討ちをかけている。農業界では外国人技能実習生が大きな役割を担っていたが、コロナ禍で来日が困難になったからだ。北海道の夕張メロンの減産がニュースになり、「外国人技能実習生がコロナ禍のため来日できなかった」という減産の理由が大きな話題になったことは記憶に新しい。仮にコロナが終息したとしても、日本が他国と比較して低い賃金水準となり、過酷な労働環境などが報道されている中で、優秀で勤勉な外国人技能実習生が農業界を選んでくれるかは不透明である。

図表1 農業就業人口の推移

農業就業人口の減少に伴い、作物が栽培されていない「耕作放棄地」が全国各地で年々増え続けている。

農林水産省のデータ(農林業センサス)によると、耕作放棄地の面積は、1995年には24.4万haであったが、2015年には42.3万haに増加している。42.3万haは富山県全体に相当する面積だ。

耕作放棄地がもたらす周辺地域の営農環境への悪影響としては、農業の大敵である病虫害・鳥獣被害の発生、雑草の繁茂などが考えられる。それらの病害虫や雑草が近隣の農地を浸食し、駆除に疲れた高齢の農家や兼業農家が廃業する。これにより耕作放棄地がますます増えるという悪循環に陥っている地域も散見される。

「近所や上流地域で水田の耕作放棄地が増えたことにより、昔は問題なかった程度の雨でも、水害が発生することが多くなった気がする」という声が各地で聞かれる。

しっかりと耕され、無数の稲が元気に育っている水田には、豊富な保水能力があることは明らかだ。近年、地球温暖化の影響により気象現象が激しくなり、記録的な集中豪雨が頻発している。それにもかかわらず、地域の保水機能が低下していることは、防災の観点からも大きなリスクである。

2. スマート農業への期待

一方で、農業就業人口の減少は、必ずしもデメリットばかりではない。

近年、地域で頑張っている若手や中堅の農家には、高齢の農家、農地を相続した非農家、兼業農家などから、「うちの田んぼを貸すので、耕して欲しい」という相談が増えているそうだ。耕作放棄地にも固定資産税が適用され、水や除草・害虫防除等の維持管理コストが発生する。そのため、信頼できる農家には、周辺の農地が集まり、大型化する傾向だ。農地規模が拡大すれば、農機の稼働率がアップし、コスト削減や生産性向上が期待できる。異業種から農業に新規参入する企業や新規就農者に耕作放棄地を貸し出すケースも増えている。

このように農地集約により規模拡大している農家であっても、人手不足は深刻な課題である。この解決策として大きな期待を集めているのは、ロボット・AI(人工知能)・IoT等の先端技術やデータを活用した「スマート農業」だ。

人気テレビ番組の影響か「スマート農業」というと、「自動走行トラクタ」を思い浮かべる人が多い。しかしながら、自動走行トラクタが活躍できる地域は限られる。田植えや稲刈りなど、使用する期間も限定的だ。

そのため、多くの農家は、「農業ドローン」を挙げることであろう。2016年頃から普及し始めた農薬散布ドローンの活用により、「農薬散布が非常に楽になった」と実感している農家は多い。現在、農薬を一律に散布するドローンだけでなく、ドローンが飛びながら農地を撮影し、撮影した画像をAIが解析することで、害虫がいると思われる箇所の周辺だけピンポイントで散布するタイプも実装している。このピンポイント農薬散布ドローンを使えば、農薬使用量が9割以上も削減できるとのことだ。

図表2 ピンポイント農薬散布のイメージ

図表3 飛行中のAI解析データ取得のイメージ

出典:㈱オプティムHPより(タイトルは㈱MOGITATeにて修正)
【ピンポイント農薬散布ドローンの㈱オプティムのHP】 
https://www.optim.co.jp/

3. 稲作におけるスマート農業の「切り札」

稲作では、水管理が全作業時間の25%を占めていると言われている。「水管理のため休みが一日も取れない」「夏場に水を入れるのが遅れ、田んぼ焼けを起こして米がパサパサになってしまった」「このエリアは深夜しか水を使えないので、深夜2時に水門を開閉に行っている」など、稲作農家の方々は水管理の大変さを必ず口にする。

このような苦労を体感してきた、富山の稲作農家出身の元ITエンジニア・株式会社笑農和(えのわ)の下村豪徳社長が開発したのが、「水田の水管理ロボット『paditch(パディッチ)』」だ。この『paditch』は、スマホの簡単な操作により、自宅など離れた場所から水門の開閉を実行できる。スマホでタイマー予約すれば、決まった時間帯に水門を自動で開け閉めしてくれる。水温や水深のデータが蓄積され、稲作の初心者でも美味しい米の生産が可能になる。畦(あぜ)の崩壊などの異常があった場合はスマホに通知してくれるという優れモノだ。

この水管理ロボットを導入した農家は、「今までに水門を開けるのに2時間、閉めるのに2時間、計4時間を掛けていたが、1分で済むようになった」「もう絶対に手放せない」と満面の笑みでコメントされていた。水管理の手間・時間が8割も削減でき、収量が16.4%アップしたという実証データがある。

図表4 水田の「水管理ロボット『paditch』」のイメージ

出典:株式会社笑農和(えのわ)の『paditch』パンフレット
【「水管理ロボット『paditch』」の㈱笑農和のHP】 
https://enowa.jp/

4. スマート農業による防災の効果

このようなロボット・AI・IoT等を活用したスマート農業の展開により、農家が過酷な作業や重労働から解放され、生産性の向上や人手不足の解消が図れれば、耕作放棄地の増加の抑制が期待できる。これにより、地域の保水能力の低下に歯止めがかかることになる。

例えば、「水管理ロボット『paditch』」を活用すれば、自宅の中からスマホで簡単に水門の開閉操作ができるため、暑い日に田んぼに行って熱中症で倒れる、大雨の時に見廻りに行って水路に転落して亡くなるという痛ましい労災事故が防げるだろう。

今注目されているのは、水管理ロボットの「田んぼダム機能」だ。つまり、集中豪雨の発生時には、水管理ロボットを操作させ、田んぼの貯水量を安全に引き上げることで、ダム機能を発揮して水害の減災に役立てるという内容だ。この「田んぼダム機能」の防災効果に着目して、水管理ロボットの導入に独自の補助金等を支給する自治体も登場している。

5. 終わりに ~ピンチをチャンスに変える発想と行動~

世界的規模の異常気象により、食料不足・飢餓のエリアが増加している現在、もはや農産物を輸入に頼ることは大きなリスクである。また、日本の農業界における人手不足は深刻さを増すばかりだ。

一方で、㈱笑農和のように、現場に密着したスマート農業ベンチャーは、農家のニーズをきめ細かく反映させたスマート農業機器を開発・販売し、農業界・地域が抱える課題解決と自らのビジネス化に果敢に挑戦している。

私は、コロナ禍の2021年3月に、国内最大の損保グループの中核企業を早期退職し、ロボットビジネス支援、スマート農業普及、防災・減災対策、地方創生等に注力する、社会課題解決型コンサルティング会社を設立した。

ピンチはチャンスだ。そして、今こそ行動に移す時である。

【社会課題解決型コンサルティング会社・㈱MOGITATeのHP】 
https://mogitate.co.jp

【プロフィール】

北河 博康 株式会社MOGITATe 代表取締役社長

日本最大の損保グループの中核企業に29年勤務し、リテール営業を経験後、本社部門にて、業界のビジネスモデルを変革するような数々の画期的な商品・サービス・施策の企画・展開に従事。独立後、ロボットビジネス、スマート農林業、防災・減災対策、地方創生などの分野を中心にコンサルティング活動を行っている。
NPO法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)副理事長、情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授、一般社団法人共創デザイン総合研究所上席コンサルタント

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